ビジネスを成長させるために欠かせない指標の1つが、「LTV(顧客生涯価値)」です。LTVを高めることで、1人の顧客から得られる利益が増え、安定した収益の確保につながります。特に新規顧客の獲得が難しくなっている今、既存顧客との関係を深め、長期的に取引を継続してもらうことが重要です。
この記事では、LTVの基本的な意味や計算方法、関連指標、そしてLTVを高めるための具体的な施策までを分かりやすく解説します。
LTV(顧客生涯価値)とは?
LTV(Life Time Value/顧客生涯価値)とは、1人の顧客が一定の取引期間中に企業にもたらす利益の総額を示す指標です。特に、リピート購入が期待できる商品や、月額料金を支払って継続利用するサブスクリプション型サービスにおいて重要視されます。
たとえば、1回しか購入しない顧客よりも、何度もリピート購入してくれる顧客や継続的にサービスを利用してくれる顧客の方が、企業にもたらす利益は大きくなります。このように、長期的かつ多くの利益を生む顧客の価値を「LTVが高い」と表現します。
企業が新規顧客を獲得するには広告費や営業コストがかかるため、「その顧客が一定期間でどのくらい利益をもたらすのか」を知ることは、費用対効果を判断するうえで欠かせません。また、LTVを把握することで注力すべき顧客層が明確になり、マーケティングや営業活動の効率も高まります。さらに、リピーターの獲得や単価向上を目指す戦略の基準にもなるため、LTVは利益の最大化に貢献する重要な指標といえるでしょう。

LTVの計算方法
LTVの計算方法は提供するサービスの種類によって異なるため、自社のサービスモデルに応じた計算方法を理解しておくことが重要です。ここでは、「売り切り型サービス」と「サブスクリプション型サービス」の計算方法について解説します。
- 売り切り型サービス:1回きりの購入で取引が完結するサービス
(例:単品の商品販売やECサイト、単発のデジタルコンテンツ販売など) - サブスクリプション型サービス:月額や年額など定期的に料金を支払って継続利用するサービス
(例:SaaS、定期購入型の商品・サービスなど)
1.売り切り型サービスの場合
売り切り型サービスの場合は、1人の顧客がどれくらい購入を繰り返してくれるかに注目した計算が必要です。基本的なLTVの値は、以下の計算式で求められます。
▼基本の計算式
LTV = 購入単価 × 購買頻度 × 継続期間 × 粗利率
たとえば、1回あたり10,000円の商品を年に3回購入し、それを5年間継続した顧客の場合、商品の粗利率が30%であれば、LTV = 10,000円 × 3回 × 5年 × 0.3 = 45,000円となります。この値に対して顧客獲得や維持にかかるコストを考慮する場合は、以下の計算式を用います。
▼顧客獲得・維持コストを考慮した計算式
LTV = 購入単価 × 購買頻度 × 継続期間 × 粗利率-(新規獲得費用+顧客維持費用)
LTVが45,000円の顧客を獲得するのにかかったコストが5,000円、対象期間中の維持コストが10,000円の場合、LTV = 45,000円-(5,000円+10,000円)= 30,000円となります。
【LTVの計算要素】
指標 | 概要 |
---|---|
購入単価 | 顧客が1回の購入で支払う金額 |
購買頻度 | 単位期間中の購買回数(1年単位で考えるのが一般的) |
継続期間 | 購買活動が継続する期間(1年単位で考えるのが一般的) |
粗利率 | 売上高に対する粗利の割合 |
新規獲得費用 | 顧客を獲得するためにかかる費用(広告費やマーケティング費用、営業担当者に支払う歩合など) |
顧客維持費用 | 獲得した顧客を維持するためにかかる費用(リピーター向けのマーケティング活動にかかる費用など) |
これから始めるビジネスにおいてLTVを計算する場合は、自社の類似商品・サービスの過去実績や競合他社の情報を参考にして、平均的な顧客単価、購買頻度、継続期間を算出するのが一般的です。
2.サブスクリプション型サービスの場合
サブスクリプション型サービスの場合は、顧客が継続的に料金を支払うことが前提となるため、月額もしくは年額での購入単価とチャーンレート(解約率)を基に計算します。
▼基本の計算式
LTV = 購入単価 ÷ チャーンレート
たとえば、月額料金が3,000円、チャーンレートが5%の場合、LTV = 3,000 ÷ 0.05 = 60,000円となります。また、売り切り型サービスの場合と同様に、この計算式に粗利率を掛けたり、顧客獲得や維持にかかるコストを差し引いたりすることで、より正確な利益ベースのLTVを把握することが可能です。
LTVの算出に関わる指標と用語
LTVを正確に算出するために役立つ指標と用語を解説します。これらはLTVの算出だけでなく、「どうすればLTVを高められるか」を考えるうえでも非常に重要です。LTVと併せてこれらの指標を確認することで、より精度の高いマーケティング戦略や事業計画を立てることができます。
ARPA・ARPU
ARPA(Average Revenue Per Account) と ARPU(Average Revenue Per User) は、それぞれ「アカウントごとの平均売上額」「ユーザーごとの平均売上額」を示す指標で、以下の計算式で求められます。
▼計算式
ARPA(またはARPU)= 一定期間内の総売上 ÷ アカウント数(またはユーザー数)
たとえば、ある月の総売上が100万円、利用アカウントが200人の場合、ARPA = 100万円 ÷ 200人 = 5,000円となります。このARPAとARPUは、LTVの計算式における「購入単価」に相当します。特にサブスクリプション型サービスでは、LTV = ARPU ÷ チャーンレート という形で活用されることが多いです。
CAC
CAC(Customer Acquisition Cost)は、新規顧客1人を獲得するためにかかったコストを示す指標で、以下の計算式で求められます。
▼計算式
CAC = 顧客獲得のためにかかった総コスト ÷ 新規獲得顧客数
「顧客獲得のためにかかった総コスト」には、広告費や営業活動費、人件費など、顧客獲得に直接関わる費用が含まれます。たとえば、月間広告費を50万円投じて、結果的に新規顧客を100人獲得した場合、CAC = 50万円 ÷ 100人 = 5,000円となります。
CACはLTVの計算式における「新規獲得費用」に相当する指標です。また、後述するユニットエコノミクスの計算でも重要な要素として活用され、ビジネスの収益性や成長性を判断する際の基準となります。
チャーンレート
チャーンレート(解約率)は、一定期間内にサービスを解約した顧客の割合を示す指標で、以下の計算式で求められます。
▼計算式
チャーンレート = 一定期間内に解約した顧客数 ÷ 期間開始時点の顧客総数
たとえば、ある月の初めに顧客が1,000人いて、その月に50人が解約した場合、チャーンレート = 50 ÷ 1,000 = 0.05(5%)となります。
チャーンレートは特にサブスクリプション型サービスにおいて重要な指標です。チャーンレートが低い(=解約が少なく継続率が高い)ほど、顧客1人あたりのLTVは高くなります。逆に、チャーンレートが高いとLTVは低下するため、カスタマーサクセスやサービス改善など、顧客の継続率を向上させる施策が欠かせません。
ユニットエコノミクス
ユニットエコノミクスは、顧客1人あたりの収益性を示す指標です。具体的には、1人の顧客から得られる利益(LTV)が、その顧客を獲得するためにかかったコスト(CAC)を上回っているかどうかを判断する際に活用されます。
▼計算式
ユニットエコノミクス = LTV ÷ CAC
たとえば、LTVが30,000円、CACが10,000円の場合、ユニットエコノミクス = 30,000 ÷ 10,000 = 3 となります。
一般的には、ユニットエコノミクスが3以上であれば、ビジネスとして健全で持続可能と判断されます。一方で、1を下回る場合は、顧客を獲得すればするほど赤字になるため、ビジネスモデルやコスト構造の見直しが必要です。
MQL・SQL
MQL(Marketing Qualified Lead)とSQL(Sales Qualified Lead)は、商品やサービスの受注プロセスにおいて、どのフェーズにいる見込み顧客かを区分するための用語です。
- MQL:マーケティング活動を通じて得られた受注確度が高い見込み顧客
- SQL:MQLのなかでも特に受注確度が高いと営業担当者が判断した見込み顧客
LTVを高めるためには、単に顧客の数を増やすだけでなく、リピーターになりやすい・解約しにくいといった質の高い顧客を獲得することが重要です。そのため、精度高くMQLやSQLを創出し、LTVが高くなりやすい理想的な顧客像に近い見込み顧客に対してアプローチすることで、結果的にLTVの向上につながります。
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LTVが注目される5つの理由
近年、LTVは企業経営やマーケティングの現場でますます重視されるようになっています。その背景には、新規顧客獲得が難しくなっていることや、顧客との長期的な関係構築が事業成長に欠かせなくなっていることが挙げられます。ここでは、LTVが注目される5つの理由について詳しく解説します。
1)新規顧客獲得の難化
近年、インターネット広告やSNS広告などのデジタルマーケティングが一般化したことで、広告費の高騰や競合の激化が進んでいます。かつては比較的少ないコストで新規顧客を獲得できたビジネスモデルも、現在では1人の新規顧客を獲得するために多額の広告費や営業コストがかかるのが現状です。
このような状況下で安定的に利益を確保するためには、新規顧客の獲得だけに依存せず、「一度獲得した顧客からどれだけ長く利益を得られるか=LTVを高めること」が不可欠といえます。既存顧客にリピート購入や継続利用を促す、あるいはアップセル・クロスセルを通じて単価を上げるなど、顧客1人あたりの価値を最大化することが、ビジネスの安定と成長につながる重要な戦略なのです。
2)顧客ロイヤルティ向上の重要性
新規顧客の獲得が難しくなっている今、既存顧客のロイヤルティ向上がこれまで以上に重要視されています。マーケティングの基本として知られる「1:5の法則(新規顧客の獲得コストは既存顧客の5倍)」や、「5:25の法則(顧客離脱率を5%改善すれば利益が25%向上する)」が示すように、新規顧客を獲得するよりも既存顧客と長く関係を築く方が効率的に利益を生み出せるからです。
さらに、顧客ロイヤルティが高まれば、リピート購入やアップセル・クロスセルが期待できるだけでなく、口コミや紹介による新規顧客の獲得にもつながります。その結果、LTVの向上とCAC(顧客獲得コスト)の最適化を同時に実現できるのです。
3)One to Oneマーケティングの主流化
現代では、消費者の趣味や嗜好が多様化しており、従来のようなマス(大衆向け)マーケティングだけでは十分な効果が得にくくなっています。そのため、一人ひとりの顧客に合わせた「One to Oneマーケティング(パーソナライズドマーケティング)」の重要性が高まっています。
このOne to Oneマーケティングを実現するためには、顧客ごとの購入履歴や利用状況に応じた最適なアプローチが必要であり、その際に重要な指標となるのがLTVです。LTVを基準に顧客の価値を評価することで、個々の顧客に最適なマーケティング施策を実施できるようになり、結果として売上やリピート率の向上につながります。
関連記事:【入門】One to Oneマーケティングとは?事例で学ぶ実践法
4)サブスクリプションサービスの増加
昨今のモノを「所有する」から「利用する」へという消費者の価値観の変化にともない、サブスクリプション型サービスが急速に普及しています。動画配信や音楽ストリーミング、定期購入型Eコマース、SaaSなど、さまざまな分野で継続課金型のビジネスモデルが採用されるようになっています。
サブスクリプション型サービスでは、顧客がどれだけ長く継続利用してくれるかによって収益が大きく左右されるため、LTVの計測と向上は、事業成長に直結する重要な指標となります。そのため、継続利用のハードルを下げるためのサービス改善や、顧客満足度を高めるサポート体制の充実といったLTV向上のための取り組みが、競合との差別化や優位性の確立に欠かせない要素となっているのです。
5)3rd Party Cookie規制の影響
近年、個人情報保護やプライバシー保護の強化にともない、「3rd Party Cookie」の規制が進んでいます。その影響で、Web広告における新規顧客のターゲティングやリターゲティング(追跡型広告)が難しくなりつつあります。
今後は、こうした規制の影響により新規顧客の獲得効率が低下することが予想されるため、既存顧客との関係を深めてLTVを高める戦略が、これまで以上に重要となります。これからのビジネスでは、すでに獲得している顧客データ(1st Party Data)を活用し、いかに継続的な購入や利用を促すかが、収益を左右する重要な要素になるでしょう。
LTVを高める4つの施策
LTVを高めるためには、新規顧客を獲得するだけでなく、既存顧客との関係を深め、継続的な利用・購入を促す工夫が欠かせません。以下の図のように、広告だけに頼った施策ではなく、顧客維持のための多角的なアプローチが重要です。ここでは、LTV向上につながる代表的な施策について詳しく解説します。

1)顧客単価を上げる
顧客1人あたりの購入金額を増やすことで、LTVを引き上げる方法です。たとえば、購入時により高価格・高機能な上位グレードの商品を提案する「アップセル」や、関連商品やセット商品を合わせて提案して購入点数を増やす「クロスセル」が代表的な施策です。
そのほかにも、定期購入のグレードアップや長期契約プランの提案も顧客単価の向上につながります。たとえば、月額3,000円のプランを契約している顧客に対して、より高機能な月額5,000円のプランを提案する、あるいは通常は月額プランで提供しているサービスについて、年額プランへの切り替えを提案するといった方法です。このような施策により1回あたりの売上が上がり、結果的に顧客単価も向上します。
2)購買頻度(リピート回数)を上げる
「一度購入して終わり」にしないための工夫も重要です。具体的には、定期的なキャンペーンの実施、リピート割引の提供、メルマガやLINEなどを活用した継続提案、コンテンツマーケティングによる購入機会の創出、などの施策が挙げられます。
このように、顧客に「また利用したい」と思ってもらえるような仕組みを整えることで、購買頻度が高まり、結果的にLTVの向上につながります。
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3)顧客維持率を上げる
顧客維持率を上げるためには、顧客満足度を高めるサポートや継続的なコミュニケーションが欠かせません。たとえば、MA(マーケティングオートメーション)やCRM(顧客関係管理)を活用した個別対応、定期的なフォローアップ、会員限定イベントやセミナーの開催、などが挙げられます。
こうした取り組みにより、「このブランドなら続けたい」と感じてもらえる関係性を築くことができ、結果として顧客維持率の向上とLTVの最大化につながります。
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4)顧客維持コストを下げる
顧客対応コストの最適化もLTV向上の重要なポイントです。たとえば、よくある質問(FAQ)の整備、チャットボットの導入、セルフサポートコンテンツの充実などにより、顧客満足度を維持しつつサポートコストを抑えることが可能になります。
このように、無駄なコストをかけずに顧客との関係を長く続けることで、結果的に利益率が向上し、LTVの最大化につながるのです。
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LTVは「顧客とのよい関係」を見える化する指標
LTVは、単に「顧客がどれくらい利益をもたらしてくれるか」を測るだけでなく、企業と顧客がどれだけ長く良好な関係を築けているかを見える化する指標です。LTVが高いということは、顧客が満足し、継続的に購入・利用してくれている証でもあります。そのため、LTVを高めるためには、一度きりの取引で終わらせず、「また利用したい」と思ってもらうための仕組みやサポートが不可欠です。
こうした継続的な関係構築には、CRM(顧客関係管理)やMA(マーケティングオートメーション)といったツールの活用が非常に有効です。たとえば、CRMを使って顧客とのコミュニケーション履歴を管理しておけば、担当者が変わってもスムーズに対応が継続できます。また、MAを活用することで、顧客の行動に応じた適切なタイミングでのアプローチが可能となり、より効果的なコミュニケーションが実現できます。
もちろん、CRMやMA以外にも、顧客との関係性を改善するさまざまな方法が考えられます。詳しい施策や最新のアイデアについては、下記のマーケティングハンドブックでご紹介していますので、ぜひ併せてご一読ください。
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