【重要】マーケティングの分析手法・フレームワーク

井上 智紀(いのうえともき) (ニッセイ基礎研究所)

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ビジネスを成功させるために必要な基本のマーケティング分析手法・フレームワークをまとめました。一通り目を通して理解しておくと、今後の戦略立案・分析に役立ちます。ぜひご活用ください。

  1. 戦略立案に必要なフレームワーク7つ
  2. 知っておくべき2つの分析手法と消費者理解を助ける3つの行動モデル
  3. フレーム活用での注意点

1.戦略立案に必要なフレームワーク7つ

ここでは、マーケティング戦略の企画・立案を行う際によく活用されるフレームワークを紹介いたします。

1.1 PEST分析

PEST分析は、企業経営に関わる外部環境について、大局的な見地から分析していくためのフレームワークです。

PEST分析のイメージ

法律や規制の動向といった政治的要因(Politics)、賃金や物価、金利、家計消費の動向などの経済的要因(Economics)、人口動態や流行、宗教などの社会的要因(Society)、技術革新やインフラの整備状況といった技術的要因(Technology)の4つの視点から外部環境を見ていくことで社会全体の動向をつかみ、自社のビジネスを展開していく上での機会や脅威の発見につなげていきます。

1.2 3C分析

3C分析とは、顧客や市場(Consumer)競合(Competitor)自社(Company)の3つの観点から自社の経営環境について分析する手法です。

3C分析のイメージ

顧客や市場については、市場規模や成長性、顧客ニーズや購買行動、競合各社の市場内シェアや推移、業界内のポジションと新規参入、代替品の可能性(脅威)などについて分析していきます。また、自社については分析するまでもないと思われがちですが、自社の強みや弱み、自社の事業の状況などを複数人で洗い出していくことで見落としや視点の漏れを防げるほか、共通認識が図られる効果も期待できます。前述のPEST分析がマクロの環境分析手法であるのに対し、3C分析はミクロの環境分析手法として位置づけられるでしょう。
分析にあたっては、できる限り客観的な事実の収集に努め、出揃った事実に対する解釈は後述するSWOT分析と同様、プラス、マイナスの両面から見ていくことが肝要です。

関連記事:マーケティングの3C分析、その意味と実務での生かし方

1.3 5フォース分析

5フォース分析は、自社をとりまく環境を以下の5つの分類ごとに整理し、それぞれが自社のビジネスにとってどれくらい脅威となるか、また、対抗していく上で、どのように効果的に自社の資源を配分していくかを検討する材料とするものです。

5フォース分析のイメージ

(1)競争業者

自社のビジネス(多角的な経営を行っている場合は分析上、対象とする主要なビジネスユニット)にとって直接の競争相手となる競合他社の存在であり、競合他社の多寡や市場内におけるプレゼンスの程度などについてできる限り客観的な指標をもとに整理分析していきます。競合する企業・製品が多い市場や、規模の大きい競合社がいる場合には、市場内のシェアが安定している場合でも価格競争が誘発されやすいなど、大きな脅威につながるおそれがあります。

(2)新規参入業者

成長市場では外部から新規参入が相次ぎ競争業者が急増する、といった状況は容易に想像できるものと思いますが、成熟市場にあっても外部からの新規参入の可能性は常に存在しています。例えば、異業種企業が他の市場でのビジネスのなかで培ってきた技術やノウハウを活用して参入してくるケース(医薬品メーカーが化粧品市場に参入するケースなど)などがそれにあたります。新規参入業者の存在は、既存の市場内における競争のルールを一変させる可能性もあることから、資本規模や技術力などの面で優位な立場にある新規参入業者の登場は大きな脅威となりうるといえるでしょう。

(3)代替品

自社の競争している市場とは異なるものとして認識していた製品が、買い手側からは同じ枠組みのなかで利用されていたり、技術革新により市場間の境界があいまいになることで、従来は競合する製品とは位置づけていなかったものが、競合するようになることもあります。例えば、カメラ付き携帯電話の登場と普及は、機能や品質の面では明らかに劣る携帯電話付属のカメラを、高機能・高品質なカメラの代替品として利用する消費者を爆発的に拡大させ、カメラ市場の構造を変える大きなインパクトを与えることになりました。携帯電話に付属するカメラの機能向上やスマートフォンの登場は、こうした影響をビデオカメラ市場にも拡げています。

(4)売り手

上記1~3とは異なり、自社製品の原材料の供給元との関係を表すものです。レアメタルなどの希少性の高い素材や高度な技術による加工を施されたものなど、代替の難しい原材料などではしばしば供給元が価格決定権を有することがありますが、供給元との関係次第では、価格の引き上げや、供給の停止など、自社のビジネスにとって死活的な脅威となる場合もあるでしょう。

(5)買い手

自社製品を購入し、利用する消費者との関係を表すものです。日常的にみれば、自社のビジネスに驚異となる場合を想定することは難しいものの、競合他社の製品や代替品への顧客の流出や、消費そのものの抑制など、消費者の行動如何は自社の業績に直接影響を与えるという意味では、常に大きな脅威となりうると考えられるのではないでしょうか。

5フォース分析では、この5つの分類についてどのような状況にあり、自社にとっての脅威の程度はどれくらいかを整理することで、それぞれに対しどう対応していくべきかを検討する材料とするものといえます。後述するSWOT分析における脅威(Threat)の洗い出しにあたって利用することでMECE状態を目指すといった使い方も可能です。

1.4 SWOT分析

PEST分析や3C分析、5フォース分析が主に外部の競争環境を分析することに主眼をおいたフレームワークであるのに対し、SWOT分析では、自社がコントロールできない外部環境のなかにある機会(Opportunity)を捉えたり、脅威(Threat)に立ち向かうために、自社の持つ強み(Strength)や弱み(Weakness)をどのように活用していくかを検討するためのフレームワークです。

SWOT分析のイメージ
クロスSWOT分析のイメージ

自社の強みを活かすことで利益獲得や成長の機会をいち早く掴むことができないか(S×O)、脅威となりうる外部環境への対処として自社の強みを活用していく術はないか(S×T)、また、現在の環境を自社の弱みを攻略する機会にできないか(W×O)、脅威に立ち向かう中で弱みを克服していけないか(W×T)といったように、自社の内部や外部環境にあるプラス・マイナスの要因の組み合わせから戦略の方向性を探るために用いるものです。

外部環境としての機会や脅威、内部環境の強みや弱みの洗い出しの漏れを防ぐためには、前述のPEST分析や3C分析、5フォース分析を活用していくことが望まれます。

また、戦略を検討していく中ではさまざまな方向性が示されることになりますが、戦略のオプションは複数あることが望ましく、複数の候補が出揃ったところで最適な戦略に絞り込み、実行に移していくと良いでしょう。

1.5 STP分析

STP分析とは、市場を何らかの軸で細分化し、共通するニーズを持つグループに分割するセグメンテーション(Segmentation)、細分化したグループ個々について自社の商品・サービスとの親和性や市場としての有望さなどの観点から優先順位を定めるターゲティング(Targeting)、競合商品・サービスとの対比の中で自社の商品・サービスの位置づけを定めるポジショニング(Positioning)という、商品・サービスを市場に上梓し消費者に訴求する前に行うべき一連の分析・検討事項を指すものです。

STP分析のイメージ

セグメンテーションでは、性別や年代などの人口統計的な要因や居住地などの地理的要因のほか、行動特性や心理的要因の差異に着目し、何らかの分類軸により市場を細分化することで、同質なニーズを持つグループ(セグメント)に分類します。多様な分類軸を用いることでセグメント内部の同質性は高まりますが、規模が小さくなることで同時に投資収益率も低下するリスクがある点には注意が必要です。
また、ターゲティングでは、それぞれのセグメントごとに自社の商品・サービスと親和性があるか、期待収益率などの面で有望か、といった観点から優先順位を定め、どのセグメントを対象とするか(対象としないか)を検討します。個々のセグメントは、分類軸として用いた各種の要因によりそれぞれ異なる性質を持つことから、同じ商品・サービスであっても打ち出し方を変えるなど異なる対応が求められます。個々のセグメントすべてに対し、それぞれ適切な対応をとれるほど潤沢な資源や人員が確保できることは稀で、多くの場合は相対的に有望ではないセグメントは切り捨て、有望な市場に対して集中的に資源を投下していくことになるでしょう。
一方、商品・サービスを評価するさまざまな要素のなかで、ターゲットとする消費者が重視する要素の面で競合より優位な立ち位置を確保できなければ、ターゲット・セグメントが有望であっても成果を獲得することはできません。ポジショニングでは、商品・サービスの選択にあたり当該セグメントの消費者が重視する要素を洗い出し、競合より優位にみえる立ち位置を定めることが求められます。ただし、消費者が重視する要素のなかで、トレードオフ関係にある要素については当然ながらどちらかの評価を切り捨てざるを得ません。また、さまざまな要素を考慮した場合に自社の商品・サービスがあまたの競合とは明らかに異なる状態にある場合には、異質なものとして消費者の支持を得られなくなる場合もあることから、慎重な検討が必要になるでしょう。

1.6 4P分析(マーケティングミックス)

STP分析により定めたターゲット・セグメントに対し、ビジネスの成果を実現するために、企業がコントロール可能なマーケティング要素である「製品(Product)」、「価格(Price)」、「流通(Place)」、「プロモーション(Promotion)」の4つのPを適切に組合せていきます。

4P分析のイメージ

このような4Pの適切な組合せの検討をマーケティングミックスといいます。4Pの各要素は、それぞれに計画される場合も少なくありませんが、マーケティング戦略上、重要なのは、2つの意味での適合性(フィット)です。1つめはターゲット・セグメントにおける消費者のニーズや行動とマーケティングミックスの各要素との適合性、2つめはマーケティングミックスの4要素間の適合性です。ターゲットである消費者のニーズや属性、行動に適合するような製品、価格、販売チャネル、広告・販促でなければ消費者に届き、受容されることはないでしょうし、製品コンセプトと価格設定や販売チャネル、広告・販促との間で相互に矛盾や齟齬がある状態では、大きな成果は期待できないでしょう。

関連記事:マーケティング の4Pとは?

     5分で理解!マーケティングミックスとは?事例でご紹介

1.7 バリューチェーン分析

バリューチェーンとは、原材料の調達から商品・サービスが顧客に届くまでに企業が行う活動の連鎖を、価値の連鎖(バリューチェーン)として捉えたものです。

バリューチェーン分析のイメージ

一般的に、企業の活動は原材料を調達し、加工・製造により商品化し、マーケティング・販売を経て付加的なサービスを含めて顧客に届けるといった「主活動」と、これらの活動を支える人事・労務管理や研究・技術開発、調達先の開拓・管理、企業活動のインフラ整備などの「支援活動」に分けられます。バリューチェーンとは、こうした「主活動」と「支援活動」全体を通じて商品・サービスの価値を形作っていく一連の連鎖を指すものです。
バリューチェーン分析は、このような「主活動」と「支援活動」全体のなかで、“どこでより多くの付加価値が生まれているか”“過大なコストがかかっている活動はどれか”といったことを可視化することで、コスト削減や自社の強み・弱みを把握することにつなげていくものです。
ただし、多くの場合、実際のバリューチェーンは原材料の採取・加工から部品の調達・組み立てによる最終製品の製造、配送・小売と、商品・サービスが最終消費者に届けられるまでに複数の企業間取引を経ることから、自社のバリューチェーンの見直しだけでは限界があり、取引先を巻き込んだ見直しが必要になる場合もあるでしょう。

ここまでご紹介してきたように、PEST分析はマクロ環境を、3C分析、5フォース分析はミクロ環境を、それぞれ分析するものであり、SWOT分析は外部環境と自社の強み・弱みを把握することで自社がとるべき戦略を複数の代替案を含めて立案していくものといえます。一方、STP分析はターゲット市場を優先度に沿って絞り込み、自社や自社の商品・サービスの見せ方を定めるもの、4P分析はマーケティングミックスが適切になされているかを確認し、最適な組み合わせを実現することで売上などの経営的成果の最大化を目指すものであり、SWOT分析により定めた戦略の元で実行していくものとして位置づけられます。また、バリューチェーン分析は一連の分析に基づいて行われる実務のなかにあるボトルネックやコストセンターの無駄を洗い出し戦略の実行を洗練させるものといえるでしょう。
これらのフレームワークを利用することは、戦略立案の効率性を向上させるだけでなく、視点の漏れや見落としを防ぎ精緻な戦略構築の一助となるものです。マーケティング戦略の立案では、これらのフレームワークを順次活用しつつ進めていくことになりますが、外部環境に変化がない場合や、戦略立案に関わるメンバー間で外部環境や自社内の資源(SWOT分析における強みや弱みなど)について共通認識ができている場合、戦略立案に時間を割く余裕がない場合などでは、他の分析のステップを省略しSTP分析、4P分析のみとする場合も少なくありません。STP分析、4P分析の具体的な手順については具体的な事例をもとに別途解説します。

2. 知っておくべき2つの分析手法と消費者理解を助ける3つの行動モデル

これまでご紹介してきたフレームワークを活用して戦略立案していく中で、視点や検討内容に漏れや不足があっては十分な成果を得ることができません。ここでは、戦略立案にあたり視点や検討の漏れを防ぐための2つの分析手法と、ターゲットとなる消費者を理解する上で活用していくべき3つの行動モデル(フレームワーク)をご紹介します。

2.1 MECE

MECEとは、相互に排他的かつ、完全な全体集合(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive)といった状態を表す用語であり、一般には「漏れもなくダブリもない」状態ともいわれます。

MECEのイメージ

ビジネスにおける課題解決に際して解決策を検討する際、ビジネス戦略などの複雑で大きな課題の場合には、論理的に意味のあるシンプルなレベルまで課題を要素に分割し、個々に対応を検討した上で全体を再度組み上げていく必要があります。この際、分割が十分でない場合や意味のない分解を行ってしまうと、対応の内容に重複が生まれたり、対応に漏れが生じたりすることに繋がりかねません。重複した対応は非効率ですし、逆に対応に漏れがある場合には課題の解決につながらないばかりか、より大きな問題を引き起こすリスクもあります。MECEとは、こうした事態に陥らないための論理的思考のフレームワークです。
過去に同様の課題解決の経験があり、今回も同じ手法で対処できる見込みがある場合のように、全体像が明確である場合や、どのように分類していけばよいか明らかである場合には、ゴールに向かって演繹的に進めれば良く、要素の見落としや状況判断を謝るなどの落ち度がない限り、要素の分類や対処に漏れやダブリが生じる可能性も低いでしょう。一方で課題そのものが不明瞭である場合や、適切な分類の方法がわからない場合には、ブレーンストーミングを繰り返して要素を洗い出し、帰納的に分類していくなど手探りでゴールを目指さざるを得ないでしょう。このような状況では、要素の洗い出しが十分でない場合や分類が不適切である場合には漏れやダブリが生じるリスクがあります。ビジネス上の課題解決にあたっては、問題の発見・整理や対応方針の検討に際してMECE状態を目指すことは不可欠です。以降にご紹介する各種のフレームワークはMECE状態を目指す上で有用なツールとなるものと思われます。

2.2 ロジックツリー

ロジックツリーとは、大きく複雑な問題を小さく単純な問題やその原因へと樹木(ツリー)状に分解していくことで原因や問題解決策を論理的に探索するツールです。

ロジックツリーのイメージ

例えば「会社全体の業績が思わしくない」という問題について解決策を検討しなければならないとしても、取り扱う商品・サービスや、仕入先、取引先が多岐にわたるなかでは、それぞれの商品・サービスや仕入先、取引先ごとに問題の有無や解決の可能性について検討していくことが必要になります。この会社がA~Cの3種類の商品を扱っているとした場合、まずはそれぞれの商品の売上や利益率の状況について確認が必要になります。売上が奮わない商品がある場合には、販売数量が落ちているのか、販売単価が下がっているのか、といった問題の所在をさらに細分化して確認する必要があります。
また、販売数量が落ちているとしたら、その原因が、例えば消費税の増税前に駆け込み消費が発生するように、需要の先食いが起こったことによる一時的な問題であるのか、短期的な問題ではない顧客の流出によるものか、顧客の流出先は同一カテゴリの競合商品か、代替品なのか、そもそも(所得の減少など)購買力が下がって購入できなくなっているのか、といったように、問題の所在や原因を要素に分解していくことで、真の問題は何か、どのような対処法がありうるかの検討が容易になります。売上が変わらないにも関わらず利益率が下がっているのであれば、販促経費がかさんでいるのか、そもそも原価率が上がっているといった問題がある可能性も考える必要があるでしょう。
ロジックツリーは、このように大きな問題をさらに小さな問題やその原因として考えられる要素まで樹木が枝分かれしていくように整理していくことで、問題の要素をMECEの状態になるように網羅的にとらえ、全体としては大きな問題の原因を細分化された個々の要素に分解・特定することで適切な対応策につなげていくものです。

2.3 消費者理解を助ける3つの行動モデル

B2Cのビジネスにおける5フォース分析における「買い手の交渉力」の検討や、STP分析、4P分析のなかでは、自社の製品を購入してもらうために消費者をどのように導いていけばよいかが主要な課題です。
こうした課題に対して適切な対策を検討していく上では、消費者が当該製品の購入に至るまで、どのような行動をとり、その間、どのような心理過程にあったのか、についての理解が不可欠です。ここでは、こうした消費者理解につながる、消費者の購買意思決定プロセスに関する3種類の行動モデルをご紹介します。

AIDMA(行動モデル)

AIDMAとは、消費者がある製品を購入するまでのプロセスを、製品の存在を発見(Attention)し、興味(Interest)をもち、欲しいと思う(Desire)ようになり、記憶(Memory)して、最終的に購買(Action)に至るといった段階に整理したものです。

AIDMAのイメージ

また、Attentionを認知段階、InterestからMemoryまでを感情段階、Actionを行動段階と、3つの段階に分けており、認知段階では「知ってもらうこと」、感情段階では「興味・関心を引き購入したいと感じてもらうこと」、行動段階では「実際に購入してもらうこと」を、それぞれコミュニケーション目標として実際の施策検討に用いられます。それぞれの段階にある消費者に対してどのようなコミュニケーションを行うことで次の段階に進んでもらいやすくなるか、といったコミュニケーションプランを検討する上では有益ですが、提唱されたのは1920年代の米国と、今日の社会環境とは状況が異なることから、検討対象の市場においてこのモデルが有効といえるかどうかは、慎重に検討する必要があるでしょう。

AISAS(行動モデル)

AISASとは、消費者が日常生活の中でインターネットを利用することが当たり前になる中で、消費者の購買意思決定プロセスもAIDMAが提唱された時代とは異なるとして、2005年に電通が提唱したものです。

AISASのイメージ

製品の存在を発見(Attention)し、興味(Interest)をもつまではAIDMAと同じですが、その後は製品関連の情報についてスマホなどで検索(Search)し、検索結果からそのまま購入(Action)した上で、購入・使用した経験や評価をSNSなどに発信・共有(Share)する、としたものです。このモデルもAIDMAと同様、それぞれの段階にある消費者に対するコミュニケーションプランの検討に用いるものですが、「検索」や「共有」といったプロセスがあることや、「共有」の内容が「検索」にフィードバックされるなど、現在の情報環境下における購買意思決定プロセスへの適応を図ったモデルであるといえるでしょう。

SIPS(行動モデル)

AIDMAやAISASが主としてマス媒体を用いた広告宣伝による製品の認知拡大をフックとした購買意思決定プロセスを示しているのに対し、SIPSはSNSを前提とした消費者行動プロセスとして電通(当時)の佐藤尚之氏により2011年に提唱されたものです。

SIPSのイメージ

SIPSモデルは、SNS時代において消費者が何らかの行動を起こす背景には、何らかの情報に対する共感(Sympathize)があり、その詳細を確認(Identify)した上で、同意すれば参加(Participate)して体験や感想についてまたSNS上で共有・拡散(Share & Spread)するのだというものです。AIDMAやAISASが製品への注意(Attention)で始まり、購入(Action)とその後の共有(Share)をゴールとするのとは異なり、SIPSでは、触れた情報に共感(Sympathize)できるかどうかが行動の起点であるとともに、必ずしも購入(Action)をゴールとはしていません。情報の発信や共有が容易なSNS時代にあっては、購入までのプロセスのなかで何らかの不手際があった場合にはその体験の共有・拡散により企業として致命的なダメージを受けるリスクがある反面で、購入・利用しないまでも企業の取組への共感を示し共有・拡散することで間接的に利益への貢献を生む可能性があることから、「参加」というキーワードでゴール設定の幅を拡げているものと思われます。

ビジネスの上では、最終的な売上の確保は不可欠ですが、マーケティングコミュニケーション上の戦略としては、前述のAIDMAやAISASのプロセスを前提としつつも認知の拡大や興味・関心の深化を狙った施策の展開が必要になる場面は多いのではないでしょうか。このとき、消費者の共感を獲得し、気軽に参加できる企画を通じて消費者自身がSNS上で共有・拡散できるようなコンテンツを広告として発信できれば、闇雲にマス媒体への広告投下量を増やすよりはるかに効率的に成果を生み出せるのではないでしょうか。このように、これらの3種類のフレームワークは時代に合わせて進化するだけでなく、場面ごとに使い分けていくべきものといえるでしょう。
ただし、AIDMAやAISASおよびこれらの派生形として提案されている多くのモデルでは、消費者がほとんどあるいはまったく存在を認知していない商品やサービスを対象としたプロセスとして描かれているものである点には注意が必要でしょう。
既存の商品・サービスのようにすでに十分に認知はされており、既存顧客の購入頻度の向上や購買量の増加を狙いたい場合などでは、過去の購買・利用経験から、購入のタイミングや数量などを判断している消費者に対し、新たな利用シーンを提案するなどの取り組みが求められます。まったくの新商品・新サービスや、リニューアル後の新発売であれば、まずは認知の獲得・拡大から始めるプロセスでも問題はありませんが、こうした既存の商品・サービスを対象とする場合には、これらのモデルにとらわれず柔軟な発想に基づいて顧客の行動について整理していく必要があるでしょう。

3.フレーム活用での注意点

紹介したフレームの多くは、汎用性が高く正しく活用することで効果的な戦略立案が可能になるでしょう。ただし社会環境変化の中で陳腐化したり、適切ではない利用の仕方により、ミスリードにつながるリスクはゼロではありません。これらのフレームワークを用いることが適切か、よりふさわしいフレームはないか、フレームを用いない方が適切ではないか、といった点については事前の検討も必要になるでしょう。

また、これらのフレームを用いて戦略立案を検討する中では、視野を広くもつことを心がけることも肝要です。競合企業や顧客の立場、自社の商品・サービスと同様の価値を実現する代替品・サービスの存在についての気づきを得るためには、自社の立場・視点から意識的に離れて視野を広げ多様な視点にたってみることが求められるためです。

技術革新や社会全体の経済環境の変化など、ビジネス環境は常に変化を続けています。こうした変化に適応していくためには、戦略も随時見直していくことが肝要です。戦略立案し、取り組んでいく中でも、環境変化への適応状況の確認を怠らず、外部環境変化への適応が難しくなる前に戦略を見直していく臨機応変さも持ち合わせておくべきでしょう。

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PROFILE

井上 智紀(いのうえともき)

ニッセイ基礎研究所

生活研究部 主任研究員

・1995年:財団法人生命保険文化センター 入社
・2003年:筑波大学大学院ビジネス科学研究科経営システム科学専攻修了(経営学)
・2004年:株式会社ニッセイ基礎研究所社会研究部門 入社
・2006年~:同 生活研究部門
・山梨大学生命環境学部(2010年~)非常勤講師
・高千穂大学商学部(2018年度~)非常勤講師

所属学会
・日本マーケティング・サイエンス学会
・日本消費者行動研究学会
・日本ダイレクトマーケティング学会
・生活経済学会
・日本保険学会
・生命保険経営学会
・ビジネスモデル学会
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