One to Oneマーケティングの分かりやすい事例と導入しやすい実践法

井上 智紀(いのうえともき) (ニッセイ基礎研究所)

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顧客の趣味趣向や属性、行動履歴をもとにひとりひとりに合わせてマーケティング活動を行うOne to Oneマーケティングでは、ビッグデータ活用・DMPの導入・データ分析技術の革新により、本当の意味での「ひとりひとり」が実現されつつあります。そんな最新事例と、簡単に導入できる手法をまとめてみました。

onetoone

One to Oneマーケティングとは?

「One to Oneマーケティング」は、経営コンサルタントであるD.ペパーズとM.ロジャースが1993年に刊行した「The One to One Future: Building Relationships One Customer at a Time(邦訳:「One to Oneマーケティング-顧客リレーションシップ戦略」ダイヤモンド社)」において導入された概念です。[1][2][3]
従来のマスマーケティングが、何らかの基準に基づいてセグメントされた集団としての顧客を対象として様々な施策を行うことで、全体としての利益の拡大を志向しているのに対し、One to Oneマーケティングは、個々の顧客との個別のリレーションシップを開拓・管理するなかで、顧客個々のなかでのシェアや顧客生涯価値の拡大を志向するものです。
提唱された当時とは異なり、データベース技術の進展やSFAやCRMなどの各種ツールの登場により、現在では大規模なビジネスにおいてもコスト効率のよいOne to Oneマーケティングが実施できる環境が整っています。特にインターネットでは、個々の顧客とのリレーションシップに応じた対応を自動化できる側面が大きいことから、One to Oneマーケティングの実施に向けたハードルは極めて低いといえるでしょう。

OnetoOneとは

導入しやすい簡単な手法一覧

一口にOne to Oneマーケティングの導入を、といっても、すぐに目に見えて成果が現れることが約束されているわけではないでしょう。持続的な売上や顧客のロイヤルティといった成果を獲得するためには、経験を重ねる中で自社のビジネスや顧客に最適な取り組み方を探っていくことが肝要です。
以降では、導入しやすい手法の例をいくつかご紹介します。

レコメンデーション(レコメンドエンジンの導入)[BtoC]

Amazonで商品を購入した際には、「この商品を買った人はこんな商品も買っています」としてお勧めの商品が提示されるのはよく知られているとおりです。このようなおすすめ商品の提示には、ユーザーの行動履歴(購入、閲覧など)に基づいた「協調フィルタリング」というレコメンデーションエンジンが利用されています。 レコメンデーションの仕組みには、このようにユーザーの行動履歴をもとにした「おすすめ商品の提示」のほか、「人気商品ランキング」や単純な「閲覧・購買履歴」を提示するものなど様々なものがあります。 これらのレコメンデーションに用いられる技術(レコメンデーションエンジン)については、おおまかには下表に示す4つのタイプに分類されます。

レコメンデーションの方式 概要
ルールベース 予め決められたルールに従って商品を推奨
商品Aを買った人には商品Bを推奨するという決め打ちの設定を行う
コンテンツベース 予め計算されたコンテンツ間の類似性をもとに関連性の高いコンテンツを含む商品を推奨
健康食品Aの購入者に対して類似の効用を謳うサプリメントBを推奨するなど
協調フィルタリング 行動・購買履歴をもとにしたユーザーやアイテム間の特徴を元に、対象者と類似したユーザーが購買しているアイテムを推奨
「この商品を買った人はこんな商品も買っています」
ベイジアンネットワーク アイテム属性やユーザーの属性、行動・購買履歴等の様々な情報をもとに、複雑に絡みあった因果関係の確率を計算し、対象者の購買確率の高いアイテムを推奨

多くのASPでは、これらのレコメンデーション技術をそれぞれに組み合わせて提供していますが、導入にあたっては自社サイト内の各ページに固有のタグやスクリプトを埋め込むなどの作業を要する程度と簡単で、初期コストも数万円~2,30万円程度と比較的安価なところが多いようです。

マーケティングオートメーション・CCCM[BtoB/BtoC]

前述のレコメンデーションエンジンは、WebベースのBtoCの取引のなかで用いられるものですが、オムニチャネル化が進む中では、Webと実店舗やEメール、DMなど複数のチャネルをまたぐ顧客の行動にあわせた対応が求められます。
例えば、Webの閲覧履歴に応じてEメールやDMを送付することでWebへの再訪を促したり、Webの閲覧履歴や購買履歴をもとにした推奨商品の情報を、位置情報を活用したプッシュ通知により近隣店舗に誘導するなど、複数のチャネルをまたいで個々の顧客とのコミュニケーションを図ることができれば、顧客とのリレーションシップの深化や売上の拡大に寄与することが期待できます。 このように複数のチャネルをまたいで個々の顧客とOne to Oneのコミュニケーションを実現するには、マーケティング・オートメーション(MA)やクロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)といったツールの活用が便利です。
チャネルを横断しての顧客とのコミュニケーションでは、個々の顧客のデータから想定されるカスタマージャーニーに沿って、いつ、誰に、どのチャネルを通じて、どのようにコンタクトしていくかのシナリオを予め設計し、顧客のステータスに応じて順次コミュニケーションをとっていくことになりますが、多くのMAやCCCMのツールでは、顧客データを分析し、セグメントを作成するとともに、個々のセグメントごとのシナリオ設計やクロスチャネルでのコミュニケーションの実施・管理(Eメールの送信、コールセンターの通話履歴管理など)および結果のレポーティングまでの機能を有しているようです。
多くのMAやCCCMのツールでは、容易に導入可能ですが、顧客DBや商品DB、Webのアクセス履歴などのデータ連携に際しては、事前にデータ加工などの処理を要することもある点には注意が必要といえるでしょう。
以降では、One to Oneマーケティングの導入により成果につなげている事例についていくつかご紹介します。

【事例1】60種類のキャンペーンシナリオでCVRが10倍になったZOZO TOWNの事例[4] [5][6]

有名ブランドから新進気鋭のブランド、ショップまで、日本のファッションブランドを幅広く取り扱うスタートトゥデイ社のZOZO TOWNでは、2010年にCRM部を新設(2011年にはCFM部に改称)し、One to Oneマーケティングを導入後、6か月の間に60種類のキャンペーンシナリオによりコンバージョンレート(CVR)を10倍にまで引き上げることに成功しています。
同社では、シナリオ設定にあたり、アクセスログや購入履歴、好みなど、個々の顧客に関する情報を多角的に取得し、靴を購入した顧客には靴に合うアイテムの推奨やお手入れの方法を紹介したり、ギフト商品の購入客にはラッピング方法を情報提供するなど、取得した情報を多様なキャンペーンの中で活用することで、顧客からのレスポンス率とロイヤルティの向上を実現しているようです。
同社では、日々蓄積される情報の分析を通じてOne to Oneマーケティングを継続的に向上させており、2013年時点では日々130種類以上のパーソナライズメールを配信するに至っているようです。

【事例2】リードの醸成を収益に変えるDELL[7][8]

ウェブを通じて直接消費者から製品の注文を受け付け、生産(BTO)するダイレクトモデルで有名なDELL社では、こうした注文段階以前における顧客とのコミュニケーションにおいてもOne to Oneマーケティングの取り組みを進めており、潜在顧客のサイト上の行動から商品への興味をリアルタイムで判別し、個々の潜在顧客にあわせたメッセージをタイムリーにEメールで送付することで購入につなげています。
同社では、潜在顧客を有望な見込み客に育成するまでのプロセスを識別、発見、教育、比較の4つに区分し、それぞれの段階にあわせて定期的なEメールを送ることで、購買に至るまでエンゲージメントを深めています。これら4段階のプロセスは循環的なものですが、他のプロセスに移行せず滞留してしまう潜在顧客に対しても、彼らに向けたメッセージを用意し、継続してコミュニケーションをとっています。
多くの企業がホワイトペーパーや長文記事などの自社サイト内のコンテンツを関連したフレーズに落とし込み、ターゲット顧客の行動に応じたコミュニケーションに利用していますが、同社ではこのような取り組みに加え、四半期ごとに25%のコンテンツを入れ替えています。
それぞれのコンテンツは顧客の行動やトピックへの関心に基づいてリアルタイムで調整できるようモジュラー形式で作成されており、各々のコンテンツから識別される個々の顧客ニーズは、顧客ごとに割り振られたエンゲージメントスコアと併せて個々の顧客向けのEメールメッセージの作成に用いられています。
サイト内コンテンツのモジュール化は、グローバルな拡張性とEメールメッセージをパーソナライズするための鍵であり、現在では数千種類におよぶシナリオを実現しています。
同社では、これらの取り組みのパフォーマンスをエンゲージメント、売上、業績の3つの指標から確認していますが、実際に、顧客あたりの収入が倍増するほどの成果につなげているようです。

【事例3】詳細なセグメンテーションによりフリーミアムから有料版に移行する顧客を識別[9][10]

中堅・中小企業から大企業までのあらゆる企業を対象にトレーニング、セールスコンバージョン、マーケティングの改善を支援するクラウドベースのBtoBサービスを提供するBrainshark社では、同社の製品(サービス)を、見込み客を獲得するためにフリーミアムと無料トライアルの2つのタイプで提供しています。この戦略の要諦は、見込み客、特にフリーミアムのユーザーの有料版に誘導することにあります。
同社では、主要な製品のスケールダウンバージョンであるフリーミアム製品のユーザーに対して、使用中の製品に関するウェビナーやホワイトペーパーのダウンロードなどの情報提供や同社の他の製品のプロモーションなどのパーソナライズされたメッセージ、有料版へのアップグレードを促すメッセージを製品のインターフェースを通じて表示し、有料版に導こうとしています。
同社が提供するフリーミアム製品であるmyBrainSharkは、プレゼンテーションのスライドショーやスプレッドシートのデータ、PDFなどを用いてビデオプレゼンテーションを作成するものですが、利用にあたって必要な情報は、ニックネームとEメールアドレス、パスワードだけです。詳細な個人情報を登録する必要が無く、無料で利用できることから、同社がビジネスユーザーをターゲットとしているにも関わらず、小学校や高校での教育目的に利用されるなど、多くのユーザーを惹きつけています。
これらの登録情報はマーケティングオートメーションの機能とIP検索の結果を用いて、有料版に移行する可能性の高さを推定し、移行可能性の高低によりセグメンテーションされており、ユーザーの2回目の訪問時には、役職や所属部署、会社名などの詳細に関するフォームへの入力を求め、ユーザーをより適切なセグメントに分類するとともに、これらの情報をもとに、よりパーソナライズされた情報を提供しています。
これらの取り組みにより、同社のmyBrainSharkの登録者は15%、有料版の無料トライアルへの参加者は150%とそれぞれ増加し、1,100万ドル以上の増収を実現しているようです。

いかがでしたか?
ご紹介した事例からも明らかなように、One to Oneマーケティングを成果につなげていくためには、顧客に対する理解を深め、カスタマージャーニーに沿った詳細なシナリオに落としていくことが不可欠です。
一方で、レコメンデーションエンジンやマーケティングオートメーション、CCCMなどのツールにより、One to Oneマーケティングの導入は、比較的容易に実現できるようになりました。顧客ロイヤルティを高め、持続的な収益につなげていくためにも、これらのツールを活用したOne to Oneマーケティングの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

[1] 参考文献:D.ペパーズ、M.ロジャース著、井関利明、ワン・トゥ・ワン・マーケティング協議会 監訳(1997)「One to One企業戦略」ダイヤモンド社

[2] 参考文献:D.ペパーズ、M.ロジャース、B.ドルフ著、千野博 訳(1999)「ワン・トゥ・ワン・マーケティング-実践への4ステップ」『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー』1999年7月号、ダイヤモンド社

[3] 参考文献:D.ペパーズ、M.ロジャース著、井関利明 監訳(2000)「One to Oneマネジャー」ダイヤモンド社

[4] 参考:スタートトゥデイ社決算説明資料

[5] 参考:「スマーター・コマース 先進事例:スタートトゥデイが運営する日本最大級のファッション通販サイト「ZOZOTOWN」」url.http://www-06.ibm.com/innovation/jp/smarterplanet/commerce/pdf/scom_zztwn.pdf

[6] 「顧客と友達のような関係を築くZOZOTOWNのCFM戦略、130種類以上のパーソナライズメールを自動配信」『日経デジタルマーケティング』2013年10月17日, url.http://business.nikkeibp.co.jp/article/nmgp/20131011/254472/

[7] Nicholas Fuller(2014)”Nurturing leads generates revenue for Dell”,ogilvydo.com 03 June, 2014, url. http://www.ogilvydo.com/topics/features/nurturing-leads-generates-revenue-for-dell/

[8] 村上剛人(2008)「One-to-Oneマーケティングから共創型マーケティングへーインターネットがマーケティングの前提条件を変えるー」『福岡大学商学論叢』52/3・4,pp.419-447

[9] David Kirkpatrick(2015)”Personalized Marketing: Choosing your targets wisely”, marketingsherpa BLOG, url.http://sherpablog.marketingsherpa.com/b2b-marketing/business-to-business/personalized-marketing-choosing-your-targets-wisely/

[10] David Kirkpatrick(2015)”CASE STUDY Personalization Marketing: In-trial messages increased online registrations by 15% for a B2B SaaS”, markegtingsherpa, url.http://www.marketingsherpa.com/article/case-study/personalized-marketing

PROFILE

井上 智紀(いのうえともき)

ニッセイ基礎研究所

生活研究部 准主任研究員

・1995年:財団法人生命保険文化センター 入社
・2003年:筑波大学大学院ビジネス科学研究科経営システム科学専攻修了(経営学)
・2004年:株式会社ニッセイ基礎研究所社会研究部門 入社
・2006年~:同 生活研究部門
・東洋大学経営学部(2006年度~)非常勤講師
・山梨大学生命環境学部(2010年~)非常勤講師

所属学会
・日本マーケティング・サイエンス学会
・日本消費者行動研究学会
・日本ダイレクトマーケティング学会
・生活経済学会
・日本保険学会
・生命保険経営学会
・ビジネスモデル学会
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