SWOT分析とは、自社の内部環境と外部環境を「強み」「弱み」「機会」「脅威」の4つの要素で分析し、企業の現状を把握し効果的な戦略を策定するためのフレームワークです。
本記事では初心者の方でも理解できるように、SWOT分析の基礎知識と実施するメリット、具体的なやり方についてわかりやすく解説します。
SWOT分析とは?4つの要素について
SWOT分析とは、自社の内部環境における「Strength(強み)」と「Weakness(弱み)」、外部環境における「Opportunity(機会)」と「Threat(脅威)」を分析し評価するのに有効なフレームワークのことです。
SWOT分析は企業が長期的な成功を実現するための戦略策定の一環として実施され、市場における自社の競合優位性の構築、新たなビジネス機会の発見、将来的に直面しうる課題への対処などに役立てることができます。
SWOT分析は長年にわたり活用されてきた手法ですが、ビジネス環境が複雑化している現代においては、SWOT分析だけで全てに対応するのは難しいという理由で「時代遅れ」と見なされることもあります。
しかしながら、SWOT分析は企業の内部と外部の環境をシンプルかつ直感的に把握できる特長があり、戦略的な意思決定においては依然として有効です。他のフレームワークと組み合わせることで現代のビジネス環境にも適応できるようになるため、今現在でもさまざまな分野で活用され続けています。
SWOT分析を実施するメリット3つ
SWOT分析を実施することによって得られるメリットは、主に以下の3つです。
1. 組織内部の課題や改善点を見つけることができる
SWOT分析を用いて自社の内部環境を客観的に分析することで、組織内部の課題や改善点を明確にすることが可能です。認知度や技術力の低さなど組織全体に関わる課題だけでなく、社内コミュニケーションの不足や業務プロセスの非効率性など、日常業務で見落としがちな課題も可視化されます。
これにより、企業は組織内部の課題に対して適切な改善策を講じることが可能となるだけでなく、自社の強みを最大限活かしながら弱みを克服するための具体的な戦略を策定することにつながります。
2. 市場や競合他社の動向に敏感に対応することができる
自社を取り巻く外部環境を分析することで、自社の長所や強みを発揮できる市場機会や、自社の障害となり得る脅威を把握することが可能です。
これにより、市場の変化や競合他社の動向に敏感に対応することができるようになり、自社の競争力を向上させると同時に、将来的に直面する可能性のある不測の事態への対処も可能になります。
3. 多角的かつ客観的な戦略を策定することができる
SWOT分析は、内部環境と外部環境の両面から自社の強み・弱み・機会・脅威の4つの要素を用いて分析する手法であるため、自社を多角的かつ客観的に評価することができます。
後述する「クロスSWOT分析」のように4つの要素を掛け合わせて多角的に評価したり、市場における自社の立ち位置や競争状況などを俯瞰して評価したりすることで、自分たちでは想像もつかなかった新しい視点での戦略策定につながる可能性があります。
SWOT分析のやり方(テンプレート付き)
SWOT分析を実施する際は、企業として何を達成したいのか、どのような問題を解決しようとしているのかを事前に決めておくことが重要です。目的や目標を設定することで、関係者全員が同じ方向を目指して取り組むことができるため、分析を通じて策定した戦略や行動計画の効率性と効果性が高まります。
なお、すぐにSWOT分析を始められるように「無料テンプレート」をご用意しました。以下のテンプレートに記入しながらSWOT分析を進めてみてください。
1. 外部環境の「機会」と「脅威」を分析する
自社に影響を与える外部要素のうち、自社の成長や競合優位性を促進するプラスの要素を「機会」と捉え、成長の妨げやリスクの引き金となり得るマイナスの要素を「脅威」と見なして分析します。
「機会」の要素例 | ・ 市場の成長 ・ 技術の進歩 ・ 政策や法律などの規制緩和 ・ 社会的トレンドや話題性 |
「脅威」の要素例 | ・ 市場における競合他社の増加 ・ 技術の陳腐化 ・ 法律などの規制の厳格化 ・ 景気後退などの経済的不安定 ・ 社会的価値の変化 |
上記の各要素に着目し、市場調査や業界分析、経済状況の把握などを行いながら、自社にとっての機会と脅威を特定します。
「機会」の具体例 | ・ 市場規模の拡大に伴い、高級消費財の需要が増加している ・ AIを活用した製品開発を行うことで競合との差別化を図れる ・ 国際貿易協定の変更により、輸出入の規制が緩和された ・ 環境意識の高まりを背景に、サステナブルな素材から作られたファッションアイテムへの需要が増加している |
「脅威」の具体例 | ・ 競合企業の増加により、価格競争が激化している ・ 5Gの普及に伴い、従来の4G技術を基にした通信製品の市場価値が低下している ・ プライバシー保護とデータセキュリティに関する新たな規制が導入された ・ 世界的な経済不況により、消費者の支出意欲が低下している |
2. 内部環境の「強み」と「弱み」を分析する
自社の成長や競合優位性の促進に活用できる内部要素を分析します。自社が持つ能力や資源などのプラスの要素を「強み」、改善すべき欠点や制約などのマイナスの要素を「弱み」として分類します。
「強み」の要素例 | ・ 専門技術 ・ 高いブランド認知度 ・ 優秀な人材 ・ 強固な組織体制 ・ 充実したアフターサービス ・ インフラや資源の豊富さ |
「弱み」の要素例 | ・ 技術力の低さや遅れ ・ 低いブランド認知度 ・ 人材や資源の不足 ・ 革新を阻害する保守的な組織文化 ・ 従業員のモチベーション低下を引き起こす環境 ・ 社内コミュニケーションの不足 ・ 業務プロセスの非効率性 ・ サービス品質の低さ |
上記の各要素に着目し、外部環境や競合他社の状況を考慮しつつ、経営指標やデータの分析、社内ヒアリングを通じて自社の強みと弱みを特定します。
「強み」の具体例 | ・ 独自の技術開発による競争力のある製品を揃えている ・ 長年の信頼により構築された強いブランドイメージと顧客ロイヤリティを有している ・ 業界トップクラスの専門家や才能ある人材を多数抱えている ・ 迅速な意思決定と高い実行力を持つ組織体制を構築している ・ 高い顧客満足度を獲得しており、リピート顧客を確保している ・ 豊富な資源と先進的なインフラによる生産性の高さ実現している |
「弱み」の具体例 | ・ 最新技術の導入が遅れ、競合他社に比べて製品が陳腐化している ・ 必要なスキルを持つ人材や生産に必要な資源が不足している ・ 新しいアイデアや変化に対する抵抗感が強く、革新的な取り組みが進まない ・ 労働条件や職場の雰囲気などが原因で、従業員の士気が低下している ・ 情報の共有が不十分で、チーム間の連携が取れていない ・ 古いシステムや方法に依存しているため、作業の効率が悪い ・ サービスレベルや製品の品質が低く、顧客からの不満が多い |
3. 「クロスSWOT分析」を行う
4つの要素を特定することができたら、「クロスSWOT分析」という手法を用いて具体的な戦略を策定しましょう。クロスSWOT分析は、SWOT分析をさらに進化させたもので、以下の図のように各要素を組み合わせて分析します。
クロスSWOT分析を行うことで、以下の4種類の戦略を導き出すことができます。
「強み×機会」の戦略例 | ・ 業界トップクラスの専門家を活用し、AIを組み込んだ独自製品で市場に新風を吹き込む ・ 国際貿易協定の変更を利用して、輸出入の規制が緩和された新興市場や未開拓市場に進出する ・ 環境意識の高まりに応じて、サステナブルな素材を用いた製品の開発に注力する |
「強み×脅威」の戦略例 | ・ 競合企業の増加と価格競争の激化に対抗するため、独自の技術開発能力と強いブランドイメージを前面に出し、製品の独自性と価値を強調する ・ 業界トップクラスの専門家を活用して5G技術に対応する新製品の開発を加速させることで、従来の4G製品の市場価値低下に先手を打つ ・ 世界的な経済不況と消費者支出の低下に備え、高い顧客満足度とリピート顧客を確保している強みを活かし、顧客ニーズに応じた価格設定やプロモーション戦略の見直しを行う |
「弱み×機会」の戦略例 | ・ AI技術を活用した製品開発を行うために、外部の専門研修やパートナーシップを通じて技術力を高める ・ サステナブルな素材を使用した製品開発など、環境意識の高まりに対応するための新しい取り組みを促進する文化を育成する ・ 輸出入の規制緩和を活かした新興市場の開拓に備え、必要なスキルを持つ人材や生産資源の獲得に注力する |
「弱み×脅威」の戦略例 | ・ 価格競争が激化している市場での立ち位置を守るため、AI技術などの最新技術を積極的に導入する ・ 競合企業の増加と技術進化の脅威に対応するため、必要なスキルを持つ人材の獲得と現従業員のスキルアップに注力する ・ プライバシー保護とデータセキュリティに関する新規制に対応するために、内部のデータ管理システムや業務プロセスの見直しを行う |
クロスSWOT分析を実施する過程でさまざまな方向性の戦略が示されることになりますが、戦略のパターンは複数あることが望ましく、複数の候補が出揃ったところで最適な戦略に絞り込み、実行に移していくと良いでしょう。
SWOT分析を実施するうえでのポイントと注意点
自社の外部環境は内部環境に影響を与える可能性があるため、より効果的な内部環境の分析を実施するためにも、外部環境の分析から始めることをおすすめします。さらに、市場や技術の変化に対応するために、SWOT分析は一度きりではなく定期的に見直しと更新を行う必要があります。
SWOT分析を実施する際の注意点は、機会と強み、脅威と弱みを混同しないことです。内部環境の強みや弱みは企業が直接コントロールできる要素であり、外部環境の機会や脅威は企業が直接コントロールできない要素であるという違いがあります。
また、SWOT分析を他のフレームワークと組み合わせて行うことで、より詳細な分析や要素の漏れを防ぐことが可能です。外部環境の分析にはPEST分析、5フォース分析、3C分析を、内部環境の分析にはマーケティングミックス(4P・4C)を活用することができます。
自社の分析や戦略策定に活用できるフレームワークを紹介
SWOT分析と組み合わせて活用できるフレームワークをご紹介します。
マーケティングの実践は「環境分析」「基本戦略」「具体的施策」の3つのステップに分けることができ、SWOT分析は「環境分析」の中にあるフレームワークです。3つのステップは必ずしもこの順番で進めないといけないわけではなく、「環境分析」を実施しているときにマーケティングミックス(4P・4C)を実施しても問題ありません。
SWOT分析と同じ「環境分析」のステップにあるPEST分析、5フォース分析、3C分析は外部環境の分析に活用でき、「具体的施策」のステップにあるマーケティングミックス(4P・4C)は内部環境の分析に活用することができます。
PEST分析 | ・法律や規制の動向などの「政治的要因(Politics)」 ・賃金や物価、金利、家計消費の動向などの「経済的要因(Economics)」 ・人口動態や流行、宗教などの「社会的要因(Society)」 ・技術革新やインフラの整備状況といった「技術的要因(Technology)」 この4つの視点から、企業経営に関わる外部環境を分析します。 関連記事:【重要】マーケティングの分析手法・フレームワーク |
5フォース分析 | 自社をとりまく環境を「新規参入業者」「売り手」「競合他社」「買い手」「代替品」の5分類で整理し、自社にとっての脅威性、そして対抗するための効果的な資源配分を検討します。 関連記事:【重要】マーケティングの分析手法・フレームワーク |
3C分析 | 「顧客・市場(Consumer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」という3つの観点から、自社の経営環境について分析します。 関連記事:マーケティングの3C分析とは?目的・やり方と実践例(テンプレート付き) |
STP分析 | 市場を「セグメンテーション(Segmentation)」で細分化したうえで「ターゲティング(Targeting)」で狙うべき市場を定め、「ポジショニング(Positioning)」により競合との差別化を図ることで、効果的なマーケティング戦略を策定します。 関連記事:STP分析とは?わかること・やり方とマーケティングでの活用事例 |
マーケティングミックス(4P・4C) | マーケティングやツールを組み合わせることで、マーケティング戦略を商品企画や宣伝、営業などの行動へ落とし込みます。 代表例として、「製品(Product)」、「価格(Price)」、「プロモーション(Promotion)」、「流通(Place)」に基づく4P分析と、買い手側の視点で再検討した「顧客価値(Customer Value)」、「コスト(Cost)」、「コミュニケーション(Communication)」、「利便性(Convenience)」に基づく4C分析があります。 関連記事:マーケティング の4P・4Cとは?戦略を事例でわかりやすく解説します |
「基本戦略」のステップで利用するフレームワークをSTP分析と呼び、戦略策定に活用できる点ではSWOT分析と同じですが、使い分け方に違いがあります。SWOT分析は内部環境と外部環境の要素を考慮して組織全体の戦略を策定するのに役立ちますが、STP分析は市場セグメントに焦点を当てて特定の戦略を策定するのに役立ちます。
なお、マーケティングの戦略立案についての詳しい手順などは、以下の記事で解説しています。
関連記事:マーケティング戦略とは?立案の手順・わかりやすい事例解説
SWOT分析を事業戦略に活かそう
自社の内部と外部の環境をシンプルかつ直感的に把握できるSWOT分析は、時代の変化があってもさまざまな分野で活用されています。特に他のフレームワークと組み合わせれば、現代の複雑なビジネス環境にも適応できるため、事業戦略を策定するうえで非常に有効です。ですので、この記事で解説したSWOT分析の内容とやり方についてきちんと押さえておくようにしましょう。
なお、この記事で紹介したものも含めたフレームワーク集を、以下より無料でダウンロードすることが可能です。これからマーケティング戦略を策定・実行していきたいと考えている方はぜひご活用ください。