【専門家解説】カスタマージャーニーマップの正しい作り方・手順(事例・雛形付き)

井上 智紀(いのうえともき) (ニッセイ基礎研究所)

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「顧客が商品やサービスを購入・利用するまでの道のり」であるカスタマージャーニーを地図上の旅のように可視化することを、「カスタマージャーニーマップを作る」と言います。ここでは具体的にどのような手順で作成するかを詳しく解説します。テンプレートもご用意しております。ぜひご活用ください。

カスタマージャーニーマップの概念のイメージ

カスタマージャーニーは、顧客の日常生活から、購入の検討段階、実際の購買(利用)段階までに接触しうるさまざまなタッチポイントについて、包括的に捉えるものです。

参考:わかりやすい「カスタマージャーニーとは」概念・必要性の解説

そのため、カスタマージャーニーを整理し、マップに落とし込んでいく作業は、これらのタッチポイントに関わるさまざまな部門担当者を集め、横断的なチームとして取り組むことが肝要といえるでしょう。
カスタマージャーニーマップの具体的な作成手順は、以下のように整理できます。

カスタマージャーニーマップのテンプレート全体像
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作り方の手順

カスタマージャーニーの整理やカスタマージャーニーマップの作成は以下のように進めるとよいでしょう。

1.ターゲット顧客(ペルソナ)の設定

まず、ターゲットとなる顧客像(ペルソナ)を設定します。

ペルソナ設定の例

実際のカスタマージャーニーは顧客によりさまざまですが、カスタマージャーニーマップを作る際のペルソナは商品・サービスの主要な顧客像のなかから、できるだけ詳細に設定します。カスタマージャーニーでは、商品・サービスの購買(利用)を意識していない初期接点の段階から考えていくことになるため、ここでは彼(彼女)の普段の生活の様子なども含めて設定しておくことが肝要です。ただし、彼(彼女)の行動や意識について検討するなかでは、設定を修正・追加した方が好ましい状況が生じることもあり得ます。ペルソナの設定にこだわりすぎると、実際の顧客の行動・意識と乖離してしまう危険性があることも留意しておいた方がよいでしょう。

2.行動の検討・整理

ペルソナを設定したあとは、彼(彼女)の行動について検討し整理していきます。

ペルソナの行動整理のイメージ

カスタマージャーニーは、顧客が商品・サービスを知った瞬間、あるいは商品・サービスにつながるニーズを認識した瞬間からスタートします。商品・サービスの購入(利用)段階や、その後の家族・友人・知人への口コミの発信、商品の廃棄や再購買に至るまでなど、任意に定めたゴールまで、顧客が接するあらゆるコンタクトポイントを洗い出し、時間軸に沿って整理していきます。ただし、カスタマージャーニーのスタートとゴールは、商品・サービスの種類や特性、企業の方針によっても変わってきます。例えば既に広く認知されている航空会社では、自社サイトや外部サイトを利用した、空席や航空運賃の検索が初期接点となり、予約や決済、実際のフライトなど、一連の旅程を経て帰宅するまでがジャーニーとなるでしょう。

しかし、今までにない画期的な商品・サービスをアーリーアダプターが採用するケースでは、マスコミの紹介記事が初期接点です。実際のサービス購入(利用)までにイノベーターによるSNS・ブログなどへの投稿、自社サイトなどを経るほか、初回の購入(利用)からその後の継続購入(利用)、SNSなどへの情報発信までを、ジャーニーに含めるべきと考えられます。このように、カスタマージャーニーマップの作成は、スタートからゴールまでに辿るステップがそれぞれ異なります。以下の4つの段階に大別し、ステップごとに詳細な行動や意識・感情について整理していくとよいでしょう。それぞれのステップにおいて、具体的にどのような行動を取っているかについては、以下の要素をもとに特定しましょう。

ステップ 特定する際の要素
1.初期接点 顧客を対象とした調査や営業担当者へのヒアリング
2.事前の情報収集~購入検討 自社サイトの閲覧履歴
3.実際の購入(利用) 比較サイトなどの外部データ(可能であれば)
4.購入(利用)後 ECサイトや比較サイトに投稿されるユーザレビューやTwitterなどのSNS上の発言、カスタマーアンケートなど

※アーリーアダプター:
新しい商品・サービスが市場に普及していく過程を表したイノベーター理論(M.ロジャース)における「初期採用者」。イノベーター(革新者)からの口コミやメディアの情報を頼りに、新商品・サービスを周囲に先駆けていち早く採用するタイプの消費者をいう。イノベーターが市場全体の概ね2.5%程度と少数であるのに対し、アーリーアダプターは13.5%を構成していると言われており、マーケットボリュームに裏打ちされた発言力の高さからオピニオンリーダーとも呼ばれる。

※イノベーター:イノベーター理論(M.ロジャース)における「革新者」。情報感度が高く、「新しい」ことに価値を感じて新商品・サービスを真っ先に採用するタイプの消費者をいう。コストが高くても採用し、商品・サービスの良し悪しについて周囲に発信していくため、彼らの発信内容はアーリーアダプターが追随するか否かの判断材料となっている。

これらの要素を用いることで、相当程度まで特定できるのではないでしょうか。ただし、カスタマージャーニーのスタート段階や、検討プロセスにおいては、売り手の視点や社内の情報からでは、気づけないような行動や接点があることも少なくありません。これは、実際の商品・サービスに接していない状態でも、例えば広告からであったり、友人との会話のなかで、商品・サービスとは全く関係ない話からであったり、または家族や友人の過去の購入(利用)体験について想起する、といったことも顧客にとっては体験となり得るからです。このような接点は、そもそも売り手側からは気づきにくい上、仮に気づいたとしても、直接売上などの成果に結びつくものではないことから、重要ではないものとして削ぎ落とされがちです。しかし、このように、過去の体験想起に伴う感情・思考の状況が、競合ではなく自社商品・サービスを選択する鍵となっていることも、あるのではないでしょうか。できるだけ網羅的に顧客接点を捉えるためには、後述するような顧客を対象とした調査などを活用していくことも必要といえるでしょう。

3.意識、感情の検討・整理

ペルソナの行動について整理できたところで、それぞれの顧客接点における彼(彼女)の行動に紐づく意識、感情について検討していきます。

顧客接点の整理のイメージ

検討にあたり、事前に顧客を対象とした定性的なリサーチが実施できれば理想的です。しかし、スケジュールや費用面で困難な場合であっても、社外の友人・知人などにヒアリングするなど、顧客がどのような意識のもとに行動しているのか、その際どのような感情を抱いているのかについて、具体的に想像できるような情報を蓄積していくことは可能です。

このような事前リサーチからの情報をもとに、ペルソナが日常生活のなかで商品・サービスを認知し、商品・サービスにつながるニーズを漠然と意識するタイミングから、最終的な購買・利用に至るまでの行動プロセスを、それぞれの段階における意識や感情を含めて検討していきます。

前述の行動や意識・感情を検討する際は、行動については、a)どのようなメディア(媒体)から、b)どのようなコンテンツに接触しているのかを、意識・感情については、c)どのような理由でそのメディア(媒体)を利用したのか、d)接触したコンテンツについてどのように感じ、何を考えたのかを、それぞれできるだけ詳細に考えることが重要です。

4.マッピングとKPIの設定

それぞれのペルソナについて行動や意識・感情を整理できたら、それらを時間軸に沿って落とし込み(マッピング)、カスタマージャーニーマップとして完成させるとともに、各ステップにおけるKPIについても設定していきます。

このように、マップに落とし込まれたカスタマージャーニーは、現在の顧客が辿るプロセスを示したものですが、顧客視点で整理すると、顧客にとってより理想的なジャーニーのあり方についても検討する必要が出てくる場合も多いものと思われます。このような理想的なジャーニーと現実との乖離は、そのまま、現状のビジネスモデルを変革するヒントとして活用することも肝要といえるでしょう。なお、カスタマージャーニーマップの作成において、関係者間の意見が分かれる部分は、全員が納得できるまで議論し、詳細を詰めていくようにします。そうすることで、自ずと改善策や、何をKPIとすべきかについても見えてくるのではないでしょうか。

こんな作り方は失敗する

一方で、カスタマージャーニーマップを作ってみたものの、うまく活用できなかったり、成果につながらなかったりするケースもあるようです。
こうした、いわば失敗の背景には、以下に示すとおりいくつかの共通する要素があるように思われます。

カスタマージャーニーマップの失敗のイメージ図

ターゲットの設定上の問題

カスタマージャーニーマップは、前述のとおりペルソナごとに作る必要がありますが、自社の商品・サービスのターゲットとする顧客像が、明確に定義されていなかったり、複数の顧客像について優先順位がつけられていない場合などには、そもそもペルソナに落とし込むことができなかったり、ペルソナがぼやけたものになってしまいます。このような状況を放置したまま、カスタマージャーニーマップを作成しても、想定する顧客が取る行動や意識・感情が、実際の顧客像と乖離してしまい、期待する成果に結びつかなくなってしまいます。

カスタマージャーニーマップは、限られた情報のなかから顧客の行動や意識・感情を想像しつつ描くものです。そのため、厳密なターゲットの定義に基づいて作成していたとしても、少なからず実態と乖離する部分が出てきます。こうした際は実態に照らし合わせ、ペルソナの設定を含めて全体を柔軟に見直し、修正していく必要があります。しかし、定義や作成当初の関係者間の合意にこだわり、辻褄合わせの修正に留めてしまえば、得られる成果も限定的なものとなってしまうでしょう。

一方で、明確なペルソナの定義のもとでカスタマージャーニーマップを作成できていても、これをもってすべての顧客に関するカスタマージャーニーとみなしてしまうと、期待するほどの成果にはつながりません。カスタマージャーニーは顧客によりそれぞれ異なっているものですから、顧客のタイプ別に典型的なペルソナ像を描き、それぞれのカスタマージャーニーについて検討し、どの(タイプの)顧客の、どの段階のタッチポイントについてマーケティング施策を展開するのかを、常に意識しておくことが肝要といえるでしょう。

詳細まで作りこみ過ぎる

前述の通り、カスタマージャーニーマップの作成にあたっては、関係者間の意識や視点を共有し、誤解や行き違いの回避にもつながることから、ターゲットとするペルソナについてはできるだけ細部にわたり設定し、具体的なペルソナ像を描いていくことが求められます。確かに、詳細に渡り作り込まれ、あたかも実際に存在する顧客のようなペルソナが設定できれば、彼(彼女)のカスタマージャーニーについても手触り感(現実感)のあるものとして作成でき、マーケティング施策を検討する上でも施策の効果に期待がもてるかもしれません。精緻なマップを作成できれば、施策の費用対効果についても正確に予測できる可能性も高まるでしょう。

一方で、ペルソナを詳細に作り込むことは、顧客セグメンテーションに際して分類軸を徐々に追加していくことと同義であり、ペルソナに設定を追加するほどセグメントが細分化されることを意味します。分類軸が多くなるほど個々のセグメントのボリュームは小さくなっていきますから、詳細に作り込まれたペルソナは、ごく少数の顧客しか含まれない小さなセグメントを表しているにすぎず、彼(彼女)に向けたマーケティング施策に大きな効果を期待することはできないでしょう。このように詳細に作り込まれたペルソナは、具体的であるがゆえに、大まかなくくりとしては同じグループに属しているものの、ペルソナに“ぴったりあてはまる”少数の顧客と、方向性は一致しているものの“ペルソナとは決定的に異なる”多数の顧客を生み出してしまうリスクも内包しています。

精緻に作り込まれたマップも同様に、実際の消費者が異なる動きをした場合に対応できず、成約に至る前の離反につながる恐れもあるといえます。カスタマージャーニーを描く上で、できるだけ具体的なイメージをもつことは重要ですが、効果的なマーケティング施策につなげていくためには、「施策検討上の手段を目的化してしまい、ペルソナの設定を作り込みすぎてターゲットとなるセグメントを過度に絞り込むことになっていないか」、「ジャーニーにアソビがなくなるほどマップを細かく作り込みすぎていないか」といった点にも留意しておく必要があるでしょう。

顧客の行動・意識に関する知見の不足

前述のとおり、カスタマージャーニーマップを作成する際は、徹底した顧客視点が求められますが、普段の売り手視点での思考から切り替えることは容易なことではありません。
商品・サービスや顧客の行動、意識や感情を顧客視点から検討するためには、顧客を対象としたリサーチなど、多くの知見の蓄積が不可欠といえます。
顧客に関する知見が不足した状態の検討では、例えば広告メッセージを受け取ったら、こう動いて欲しい(動くに違いない)、といったように、売り手側の願望だけが反映されたものとなってしまいかねません。また、売り手が意識していない初期接点が不足し、重要なステップが抜け落ちてしまう可能性もあるでしょう。これでは、本来のカスタマージャーニーマップではなく、売り手側のひとりよがりな顧客導線の設計に過ぎず、期待する成果には繋がらなくなってしまいます。

また、顧客の行動や意識に関する分析においては、「いかに不満を解消するか」に焦点をあてた分析に集中しがちです。顧客満足の向上には、顧客の不満につながる課題の解決が寄与する点は多いですが、カスタマージャーニーマップにおいては、「よりよい顧客体験」についても注目し、こうした体験を広げていくための方策の検討も不可欠といえるでしょう。

KPIを設定しない(設定があいまい)/見直さない

冒頭でも述べたように、カスタマージャーニーマップは、顧客とのタッチポイントを最適化するマーケティング施策につなげることで、成果の向上を目指すために作成するものです。
しかし、顧客の行動や意識のリサーチを行い、結果に基づいてカスタマージャーニーを検討するなかで、「マップを作ること」そのものが目的となってしまうことがあります。このようにマーケティング施策に際して、設定すべきKPIを明確に示さないままとなってしまえば、十分な成果を得ることはできなくなります。

また、スマートフォンの急速な普及に代表されるようなデバイスの変化や、新たに強力なメディアが登場するなどの外部環境の変化は、顧客体験にも多大な影響を与えます。カスタマージャーニーマップも、このような環境変化を鑑みて、定期・不定期に見直し、必要に応じて修正していくべきです。しかし、日常の業務に追われておざなりにしてしまえば、カスタマージャーニーマップに基づくマーケティング施策と、実際の顧客体験とのミスマッチが次第に大きくなっていく危険性もあるでしょう。

参考になる本のご紹介

実際にカスタマージャーニーマップの作成には、成功している他社や他業界がどのようなマップを作っているのかといった事例を参考にしたくなるのではないでしょうか。しかし顧客の行動や思考は、対象となる商品やサービスにより異なりますし、同様の商品・サービスを取り扱う、競合他社と自社とでは、主要な顧客層が異なる場合も多くあります。そのため、確実に成果につながるカスタマージャーニーマップを描く上では、成功している他社事例でも、応用できる範囲には限界があります。カスタマージャーニーマップの作成にあたっては、顧客視点や顧客の体験の重要性について理解するとともに、具体的なペルソナに落とし込んでいくための手法についても、書籍を通じて事前に身につけておくことが肝要といえるでしょう。
ここでは、カスタマージャーニーマップ作成に際し、事前に知識を得る上で、参考になる書籍をご紹介します。

「顧客体験の教科書」ジョン グッドマン(著),畑中伸介(翻訳)

「顧客体験の教科書」のイメージ図
参照:Amazon

“Customer Experience 3.0: High-Profit Strategies in the Age of Techno Service”という原題が示すように、本書はスマートフォンやソーシャルメディアの普及に代表される近年の社会環境変化のなかで、顧客体験について再考しています。さらに、顧客サービスの戦略構築に向けて、取るべき戦略や方法論を解説しています。かつてホワイトハウスから受託した消費者行動研究の報告から、米国の大手企業を中心としてフリーダイアルの導入や、顧客相談窓口の設置を促したことで知られる著者による解説書である本書には、さまざまな事例やデータを通じて、顧客視点や顧客体験を重視すべき理由が明解に示されています。カスタマージャーニーマップの作成に関わる関係者間で、顧客視点の重要性について共通認識をもつ上で、必読の書といってもよいでしょう。

「実践ペルソナ・マーケティング-製品・サービス開発の新しい常識」高井紳二(編)

「実践ペルソナ・マーケティング-製品・サービス開発の新しい常識」のイメージ図
参照:Amazon

カスタマージャーニーマップを成果につなげる上で、どれだけ詳細にペルソナを設定できるかは、重要な鍵の一つです。本書では、ペルソナの基本から実際の作り方、活用事例まで幅広く解説しています。なかでもペルソナの作り方については、調査手法を含めて1章を割いて詳述しています。
顧客調査を実施した経験に乏しい方は、調査の実際を含めて必読の書といえるでしょう。一方で、以前から顧客調査に力を入れており、十分な情報の蓄積があるという方でも、ペルソナに落とし込んでいくための具体的な手順など、参考にしていただけるのではないでしょうか。

「The Customer Journey 「選ばれるブランド」になる マーケティングの新技法を大解説」加藤希尊(著)

「選ばれるブランド」になる マーケティングの新技法を大解説」のイメージ図
参照:Amazon

カスタマージャーニーを中心に据えた書籍は、まだ国内外ともにそれほど多くはありません。本書は、宣伝会議社とともに国内100社のブランドを対象とした、トップマーケターのネットワーク―JAPAN CMO CLUBを立ち上げ、運営に携わってきた著者によるものです。
JAPAN CMO CLUBの参加企業のなかから選ばれた30社の事例や、最終章に示されているマップの作成手順は、参考になるところも多いのではないでしょうか。

活用・成功事例と、そのポイント

活用・成功事例をご紹介

これまでみてきたように、カスタマージャーニーマップは関係者を巻き込みつつ、要点を押さえて作成することで、顧客体験の向上やビジネス上の成果を生み出していくツールといえます。ここでは、カスタマージャーニーマップ作成の手順や活用法として、参考にすべき事例をご紹介します。

事例1:USA.govにおけるカスタマージャーニーマップ

電子政府化を推進するDigital Govのブログでは、米国の電子政府サイトであるUSA.govについて、カスタマージャーニーマップを活用して、ウェブのデザインやコンテンツ、コールセンターの自動応答メニューの改善につなげた事例を紹介しています。

Digital Govでは、カスタマージャーニーマップを作成する上で、最も重要なポイントを、ペルソナの設定と、彼(彼女)の行動を詳細に描くことにあると考えています。実際にペルソナの行動の設定にあたっては、既存のサイトにおけるユーザーの性別や年齢といった、デモグラフィックや利用デバイス、頻出するページ遷移の状況やよく見られているページ、外部リンクかサイト内検索の利用状況などをウェブのアクセス解析から探るとともに、顧客満足度に関する調査データやGoogleの検索結果、ほかの公的機関のウェブサイトにおけるアクセス状況の分析結果(入手可能なもの)などの情報を参考にしています。

ペルソナが取る一連の行動を設定した段階で、まずこれらの行動を壁に張り出します。さらにステップごとに、以下の1~4についてワークショップ形式で、USA.govの運営メンバーで議論し、カスタマージャーニーを整理するとともに、改善策のアイディアについても検討していったようです。

1.顧客と関わる人やシステム
2.顧客との対話をサポートする人やシステム
3.顧客の態度や感情、ニーズ
4.このステップにおける最良(最悪)の顧客体験

ワークショップでは、4回に分けて実施したセッションを通じて110個の改善案が導き出されました。これらの改善案について優先順位をつけて取り組むことで、コンタクトセンターの自動応答メニューの改善や、ウェブのデザイン、コンテンツの改善など、顧客体験の向上を実現しています。また、カスタマージャーニーマップの作成を通じて顧客理解を深めた経験から、新規プロジェクトにあたっては標準プロセスとして、ペルソナやカスタマージャーニーマップの作成を行うようになっているようです。

このように、カスタマージャーニーマップ作成の事前段階で、詳細にペルソナを設定するために、できる限りの情報収集を行うことが重要です。また、実際のマップ作成の段階では、現状の顧客体験とともに、各々のタッチポイントにおける顧客体験の理想形や最悪の状態についても、関係者間で共有化することが、重要な鍵といえるでしょう。
参照:USA.govにおけるカスタマージャーニーマップ

事例2:カスタマージャーニーマップをブランド維持に活用するエミレーツ航空

一方、フォレスター社がケーススタディとして公表している、エミレーツ航空の事例からは、多様な言語や文化をバックグラウンドにもつ従業員を抱えるグローバル企業においても、カスタマージャーニーマップが顧客体験の向上に効果的に寄与することがわかります。

エミレーツ航空は競争の厳しい市場のなかで高いサービス品質を誇るブランドとして急成長している航空会社です。同社では、企業の成長に伴う急激な従業員の増加と、顧客体験の維持という課題に対し、カスタマージャーニーマップを活用することで、顧客体験の向上と従業員教育に取り組んでいます。

企業の成長とともに、顧客体験の質の低下に直面したことにより、同社ではその向上を目的としたチームを組成し、取り組みを開始しました。同チームでは、現状、想定されるカスタマージャーニーマップを示すことで、顧客体験に関する課題を示すとともに、顧客中心の視点を内部化するための従業員向けの研修を実施ししています。ネガティブな顧客体験を生み出す根源的な原因と解決策を提示することで、顧客体験の向上を図っていったようです。

経営層からの支援を受けていたものの、当初は非協力的な部門もあったようですが、協力的な部門とのプロジェクトを通じて成果を積み重ねるなかで、徐々に協力者を増やしていったとのこと。
また、会社全体を通じ、多言語の全従業員がカスタマージャーニーについて一貫した認識をもてるよう、研修には翻訳なしでも意図が共有できるような教材を作成し、活用しているようです。

カスタマージャーニーマップの活用は、同社に「従業員間で顧客体験に関する認識の共有」や「顧客の認識に基づく品質基準の確立」という成果をもたらしています。同社はこのような教材の作成以降もカスタマージャーニーマップから得られた教訓を活用した改善への取り組みを続けており、現在に至るまで優れた顧客体験を提供する航空会社としての地位を維持しています。

カスタマージャーニーマップは、USA.govの事例が示す作成段階における効果のみならず、その後の従業員に向けの研修教材としても活用できることがわかります。一方で、カスタマージャーニーマップを活用して顧客体験を向上させたとしても、顧客の慣れや競合先が提供する顧客体験により、自社の顧客体験が陳腐化するリスクが残ります。また、技術革新や顧客の意識・行動の変化により、理想的なカスタマージャーニーのあり方も変わっていくものと予想されることから、エミレーツ航空同様、一定の期間ごとにカスタマージャーニーを見直し、マップの修正や刷新を重ねていくことが重要といえるでしょう。
参照:カスタマージャーニーマップをブランド維持に活用するエミレーツ航空

事例3:スマートフォンアプリでカスタマージャーニーのシームレスな前進を実現するロレアル

カスタマージャーニーやカスタマージャーニーマップは、顧客と自社や、自社の商品・サービスとのタッチポイントにおける顧客体験を理解し、タッチポイントの効率化や弱点の修正を通じて、より高い成果を目指すフレームワークとして提唱されてきたものでした。しかし近年では、綿密にカスタマイズされた体験を積極的に生み出せるようにカスタマージャーニーを設計し、ジャーニーがスタートしたら、関わり続けずにはいられなくなるようにすることで、卓越した顧客体験を提供して成果を高める企業も出てきています。

例えばD.エデルマン・M,シンガーのハーバード・ビジネス・レビュー誌への寄稿の中で紹介されているロレアル社の事例では、スマートフォンを顧客体験の中心に据えて、カスタマージャーニーを描き、顧客のジャーニーを効率よく先に進めることに成功しています。

同社のスマートフォンアプリ「メイクアップジーニアス」は、顧客がバーチャルにメイクを試し、気に入ったメイク商品をそのまま購入できる機能を有しています。顧客がアプリで自分の顔をスキャンすると、自動的に顔の特徴が分析され、その後はメイクサンプルを選択するだけで、同社のさまざまな商品でメイクを施した顔のイメージが表示されます。気に入ったメイクを選択すれば、必要な商品の購入までできるようになっています。このほか、同社のアプリは利用状況や購入履歴から、顧客の好みを学習し、似たような顧客の選択に基づく推測も加えて、レスポンスを調整するなどしています。これによりジャーニーにおける顧客の位置を検討段階から購入段階にシームレスに前進させる、楽しい体験を作り出しています。

こうして同社のアプリは、メイクを試し、気に入ったルックやメイクのヒントを友人とシェアしたり、商品を購入したりするという一連のプロセスを、シームレスで楽しい体験にすることで、多くの顧客の支持を得ました。2014年のリリース以降1,400万回もダウンロードされ、バーチャルな商品試用は2億5000万回を超えるなど、ロレアル商品へのロイヤルティ構築に寄与しています。

参照:デイビッド C. エデルマン、マーク シンガー著、辻仁子訳(2016)「カスタマージャーニーを構築する4つの能力「顧客体験」はプロダクトに勝る」ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー2016年6月号(原著:”Competing on Customer Journeys,” HBR, November 2015)


いかがでしたか。
カスタマージャーニーマップは、自社の商品・サービスを提供する過程について顧客視点で捉え直し、あらゆるタッチポイントにおける顧客体験の向上を実現する上で、極めて有用なツールといえます。実際の作成や活用にあたっては注意すべき点もありますが、確実な成果の向上を目指して、カスタマージャーニーマップの作成・活用に取り組んでみてはいかがでしょうか。

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PROFILE

井上 智紀(いのうえともき)

ニッセイ基礎研究所

生活研究部 主任研究員
・1995年:財団法人生命保険文化センター 入社
・2003年:筑波大学大学院ビジネス科学研究科経営システム科学専攻修了(経営学)
・2004年:株式会社ニッセイ基礎研究所社会研究部門 入社
・2006年~:同 生活研究部門
・山梨大学生命環境学部(2010年~)非常勤講師
・高千穂大学商学部(2018年度~)非常勤講師

所属学会
・日本マーケティング・サイエンス学会
・日本消費者行動研究学会
・日本ダイレクトマーケティング学会
・生活経済学会
・日本保険学会
・生命保険経営学会
・ビジネスモデル学会
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