オウンドメディアとは「自社で保有するメディア」のこと。ここでは、オウンドメディアの意味を図でわかりやすく説明、運営方法についても解説していきます。
オウンドメディアの意味と目的・役割
オウンドメディア(Owned Media)とは、直訳どおり「自社で保有するメディア」という意味で、広義で解釈すればホームページもオウンドメディアのひとつであると言えます。しかし、昨今「オウンドメディア」と呼ばれるときは、ブログや情報サイトのようなWebメディアを意味することが多く、「オウンドメディア運営」をマーケティングチームが担い、コミュニケーション施策の一つとして実施されているのをよく見かけます。
「信頼を獲得するメディア」という意味のアーンドメディア(Earned Media)は消費者が中心となっているSNS・CGM・個人ブログのことで、「有料のメディア」という意味のペイドメディア(Paid Media)は広告としてお金を払って掲載することができるメディアのこと。この3つを「トリプルメディア」と呼び、合わせて施策を行うことで多くの見込み顧客と接触したり、顧客との関わりを活性化したりとさまざまなコミュニケーション施策を行うことが可能です。
ホームページとオウンドメディア、役割の違い
そもそもホームページ(Webサイト)は和製英語であり、本来の意味は「ブラウザを開いたときに最初に表示されるWebサイト」のことでした。しかし日本ではなぜかWebサイトのトップページという意味から、Webサイト全体を指すことも多くなり、いわゆる「公式サイト」「コーポレートサイト」などがホームページと呼ばれています。そのため、ここでは「ホームページ=自社サイト(公式Webサイト)」と位置付けて解説します。
公式サイトはサービス・製品を紹介したり、企業の概要やビジョンなどを伝えたりすることが目的となっていますが、オウンドメディアは情報を発信することを目的としています。自社サービスに関係することでなくても掲載しやすいことがオウンドメディアの強みになるのではないでしょうか?
わかりやすい例に言い換えると、公式サイトが「本題」であるのに対して、オウンドメディアは「雑談」になります。常に「本題」しか話さない人とは仲良くなりづらいと感じませんか?「雑談」を通じて打ち解け、自然と「本題」を話すことも活性化される。オウンドメディアはまさに「雑談」の役割を持っています。
オウンドメディアを使ってできること・目的
オウンドメディア運営の目的は、コンテンツを通じて見込み顧客や顧客とのコミュニケーションを行うことです。集客目的に集中してしまう例もよく見かけますが、そのようなオウンドメディアは必ず「コンバージョンしない」という壁に突き当たります。オウンドメディアは「さまざまなタッチポイントを生み出すコミュニケーションツール」であると理解しておきましょう。主に以下のようなことができます。
1) 商材とは直接関係ない幅広い情報の発信と集客・接触
サービス・製品と直接関係ないが、それを必要とする人が欲しい情報・困りごとを解決できるコンテンツを配信することで、自社サイト(ホームページ)へ良質な見込み顧客を集客することが可能です。適切なCTAを設置することで、サービス・製品紹介ページへ送客することも可能です。
2) SNSやメルマガへの転送・ネタの保有
SNS投稿やメルマガのネタが、毎回「製品訴求」では次第に飽きられて、誰も見てくれなくなってしまいます。オウンドメディアに有益な情報を掲載するコンテンツを置いておくことで、そのネタを転用し、SNS投稿やメルマガの内容を多様化させることが可能です。URLを記載することで自社サイトへ再訪させるきっかけとすることも可能です。
3) 閲覧履歴によるセグメントとターゲティング
オウンドメディアにさまざまなコンテンツを用意しておき、閲覧行動を取得することで、見込み顧客や顧客が何に興味があるのか、何に困っているのかを把握することが可能です。マーケティングオートメーション(以下MA)を使って、セグメント・ターゲティングを行い、閲覧ユーザーとOne To Oneなコミュニケーションをとることが可能です。
SATORIの例を挙げると、メルマガ関連のコンテンツを閲覧している方に「MAを使ったメール配信の実施法(無料セミナー)」というセミナー誘致のポップアップを表示することが可能。一斉表示のポップアップに比べてアクション率が高い施策となります。
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4)独立ビジネスとしてマネタイズ
オウンドメディアに多くの人が集まり、人気メディアになれば、本業とは別事業として、広告やコミュニティを構えて独自でマネタイズも可能です。もちろん、そのように成長したメディアは売却も可能。最初から独立ビジネスを目指してオウンドメディア運営を開始する場合もあります。
事例で解説!2種類のオウンドメディア
オウンドメディアは大きくわけると2種類あります。1つは自社ドメイン配下やサブドメインで、サービスへの集客・既存顧客とのコミュニケーションを担う目的のオウンドメディア、もう1つ別のドメイン・UIデザインで運営し、企業ブランディングや露骨なサービス訴求を行わない接触・コミュニケーション、または独自ビジネスを狙うものになります。ここでは前者を「公式サイト型」と呼び、後者を「独立型」と呼ぶことにします。
公式サイト型オウンドメディア
自社サイトのドメイン配下やサブドメインで運営し、UIデザインも同じテイストで作成します。いくつか事例をご紹介します。
【BtoB】SATORIマーケティングブログ(https://satori.marketing/marketing-blog/)
あなたが今読んでいるこの記事が掲載されているSATORIマーケティングブログも自社サイト型オウンドメディアです。
MAに限らず、マーケティング担当者やインサイドセールス・カスタマーサクセス担当者に有益な情報を配信しています。投稿された記事は検索結果から流入してくる見込み顧客と接触したり、メルマガに流用して既存顧客の読み物となったり、さまざまな施策で活用されています。
【BtoC】花王の顔(https://www.kao.com/jp/kaonokao/)
花王の商品開発者・研究者に焦点を当てた、商品の特性や企業ブランドを啓蒙するためのオウンドメディアです。
消費者からすると「せっけん」や「シャンプー」などの日用品は、特にこだわりを持たずに選んでいる商品かもしれません。しかし、そこには「イノベーション」があります。「花王の顔」から、その取り組みを消費者にも知ってもらいたいという熱い気持ちが伝わってきます。例えば、毛穴の詰まり「角栓」を落とす洗浄成分を発見するまでの体験記事。とても興味深く、毛穴の詰まりに悩んでいる読者は花王の洗顔を手に取るのではないでしょうか。また、このように真剣に取り組む開発者の姿を目の当たりにした読者は、花王という会社に魅力を感じるようになることが容易に想像できますね。
参考:なぜ角栓は落ちないのか?スキンケア研究員が暴く驚きの実態(前編&後編)
独立型オウンドメディアの事例
独立型オウンドメディアは、サブドメイン・別ドメインで運用され、UIデザインも自社サイトと変えられていて、一見同じ企業が運営していると気づきにくいようになっています。
【BtoB】経営ハッカー(https://keiei.freee.co.jp/)
多くのスタートアップ企業の経営者が読者となり、経営ハッカーに出会うことで会計ソフトのfreeeを知ったことになったのではないでしょうか。会社設立から資金調達、上場準備などのバックオフィス系ハウツーから経営者インタビューまで、事業経営者に必要なコンテンツが充実しています。
創業当時はCEOのブログからスタートしているそうですので、freeeの宣伝を目的に立ち上げたメディアではないということです。会計ソフトfreeeへの送客も目的の一つとなっていますが、「経営・バックオフィスの情報発信」を主な目的としているところで独立型オウンドメディアとして位置づけられるでしょう。
参考:ITmedia エンタープライズ freeeの自社ブログ「経営ハッカー」は業務効率化に役立つヒント集
【BtoC】Lidea(https://lidea.today/)
ライオン株式会社が家事など日常の困りごとを解決するコンテンツを配信するオウンドメディアです。サイト名はLIONとIdeaの造語、ブランドカラーはライオン社の緑で統一されてはいますが、サイトデザインは公式サイトと大きく変えられており、ライオンが運営していることを目立たせていません。
直接的な宣伝や送客を第一の目的とせず、見込み顧客や顧客とのエンゲージ創出や、ファーストパーティーデータを蓄積して商品開発やマーケティングに活用することを主な目的としています。会員登録を行うことで、コメントや「いいね」などのアクションを行うことができるようになり、アクションでポイントが蓄積されプレゼントに応募できるようになっています。このように会員化させることで、運営側からのプッシュ型のコミュニケーションが可能となり、会員に対してマーケティングリサーチやPR活動などを行うことが可能となります。宣伝色・企業色が強いと会員登録に障壁を感じるネットユーザーも多いため、このような独立型にしておくことでより会員を集めやすいといえます。
参考:https://thinkcontent.jp/lion_lidea
オウンドメディアの運営手順
オウンドメディアを始めるときに「まずはサイト制作!CMSの導入!」と逸る気持ちで進めてしまいがちですが、最も重要なのは「コンセプト設計」です。コンセプトがあいまいなままサイトを制作・コンテンツ制作を行ってしまうと、成長段階で「なんのために運営しているのか」がわからなくなり、目的を見失ってしまいます。わかりやすく手順をまとめました。
1)コンセプト設計
まずは「誰に何を提供するメディア」なのかを明確にしましょう。ターゲットは顧客なのか、未接触の見込み顧客なのか、業界全体の消費者なのか…それによってこの後の設計が大きく変わってきます。STP分析のフレームワークを使うと整理しやすいです。
より細かいコンセプト設計には「コンセプトマップ」を使います。先ほどのSTP分析で定義した「誰に何を提供する」を充実させるために必要なことをまとめましょう。
参考:Web担当者フォーラム 2時間でメンバーの相互理解を深める「コンセプトマップワークショップ」の手順とは?
https://webtan.impress.co.jp/e/2017/12/20/27668
2)サイト制作
1)のコンセプト設計によって、「公式サイト型」か「独立型」かが決まると思います。それによってデザインの方向性が決まります。このタイミングでオウンドメディアを構築しましょう。多くの企業はサーバーインストール型のCMS(WordPressやMovableTypeなど)を活用しています。独立型の場合はドメイン取得も必要となります。
3)コンテンツのテーマ案作成
1)のコンセプトに合わせてコンテンツのテーマを作ります。この先半年から1年程度、運用できるくらいのテーマを用意しておきましょう。集客目的の記事は、主に検索からの流入を狙うこととなります。検索ニーズを洗い出し、月間検索回数から想定流入数を考えて選定していきましょう。自社サービスへの送客が目的のコンテンツのテーマを選定するときには、月間検索回数が多いからという理由でサービスに興味関心が全くない方が読者となる検索ニーズを取り上げないことが大切です。
4)運営方針・ルールの策定
コンセプトやテーマの方向性がある程度固まってきたら、運用方針とルールを作っていきましょう。決めておいた方がいい方針やルールを挙げてみました。
- チーム体制・役割
- 毎月の制作本数
- 構成・執筆・画像制作・公開作業のフローやスケジュールサイクル
- テーマの制限(例えば、特定ブランド紹介や他社比較をNGとする、など)
- 原稿のトンマナやNG表現
- 画像の制作ルール・選定基準
他にも初めに決めておきたいことはたくさんあります。チームで話し合い、決定していきましょう。
5)コンテンツ(記事ページ)の制作
4)が出来上がった段階で、個々のコンテンツを作成していきます。コンテンツの品質を担保するため、多くの運営チームが「外部ライター丸投げ」にせず構成案を作成してライティング依頼を行っています。また、自社サービスへの送客を目的とする場合は、CTA挿入位置も構成段階で決めておくとより成果が出やすくなります。
CTAの設置
CTAを一括でサービスTOPページやランディングページにしている例をよく見かけますが、そのような乱暴な設計では全くクリックされません。読者やコンテンツの文脈に合ったCTAを設定していきましょう。例えばSATORIマーケティングブログでは、文脈に合うCTAを記事毎に決めて設置しています。
読者に合うオファーが存在しない場合は、まずは無料会員登録やメルマガ登録でもよいでしょう。
6)配信
コンテンツが出来上がったら公開作業を行い、配信していきます。
SEO・オーガニック
コンテンツ制作時に検索ニーズを把握し、検索意図に応える構成にすることで検索結果の上位に表示されます。作ってしまったあとからのSEO施策はできないため、かならず構成する際にオーガニック流入を狙うテーマなのかどうかを管理して、対応する検索ニーズを把握しておきましょう。
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SNS・メルマガ
公式SNSやメルマガを運営している場合は、そこでもコンテンツの配信ができます。サマリーを書いて続きを読む場合はURLをクリックしてもらう構成にしておきます。
広告
コンテンツデリバリー広告(ネイティブ広告など)を使って、外部メディアに露出させることが可能です。オウンドメディア立ち上げ直後はアクセス数が少なく、コンテンツに対するユーザーの反応が見えづらいことが悩みとなります。初期数か月は広告予算を取っておくとよいでしょう。いくつか人気のネイティブ広告を掲載しますので、参考にしてください。
7)閲覧行動によるターゲティング・CTA設計
固定で挿入されたCTAへの反応が悪い場合は、マーケティングオートメーションなどを使ってCTAを動的にし、One To One施策を行っていきましょう。閲覧ユーザーの過去の行動からターゲティングし、動的にCTAを切り替えます。たとえば、以前に「Aセミナー案内」ページを見ていた場合、その後に閲覧している「記事B」に「残席わずか、Aセミナー申し込みはこちら」というCTAが表示されるようなイメージです。このように閲覧者に寄り添う表示はアクションを起こす確率は高くなります。オウンドメディアの運用に慣れてくると、このような高等テクニックを使って送客施策をレベルアップしていくことが可能です。
運営継続がオウンドメディア成功のカギに
オウンドメディア運営は先ほど解説した5)~7)を繰り返し行い、1年に一度はコンテンツ設計や運営方針についても見直しや調整を行う、忍耐の必要な施策です。最初から大きな目標を設定してしまうと、「成果が出ない」と短期間で終了してしまうことも。まずは小さなことからトライして、小さな成果を繰り返し、チーム規模やコンテンツ品質・量を充実させていきましょう。とにかく、コツコツ軌道修正をしながら続けていくことが大切です。
オウンドメディア以外にも、コンテンツマーケティングやコミュニティ・ファンマーケティングなど、コミュニケーションを大切にしたマーケティング手法に注目が集まっています。
これら長期型の施策は、カスタマージャーニーに基づくコミュニケーション設計を行い全体のシナリオを管理していきます。特にBtoBビジネスや、検討期間の長いBtoC商材では重要な手法。新しいマーケティングトレンドとして理解しておきましょう。
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映像コンテンツプロバイダー・化粧品メーカーECでのWebディレクション・マーケティング担当を経て、コンサルタントに。20社以上のオウンドメディア・コンテンツの企画・戦略設計を行った経験を持つコンテンツマーケティング専門家。2018年5月に独立。検索ユーザーに寄り添うコンテンツ設計を得意とする。