新型コロナウイルスをきっかけに、より一層注目が集まるデジタルトランスフォーメーション(DX)。リモートワークやオンライン面談の普及など、あらゆる企業のビジネスに大きな変化をもたらしている。
なかでも、AIやロボット技術の発達を背景に以前からデジタル化が期待されていた製造業界においては、コロナ禍を契機に、生産から営業まで幅広い変革が求められている。
このような状況を踏まえ、今回のカンファレンスでは、持続的な企業成長に必要な「DX」の心構えから、製造現場の現状と課題、先進企業の取り組み事例までをテーマに、製造業DXの第一線で活躍されるプロフェッショナルが登壇。 2021年12月2日に開催したオンラインイベント「製造業DXの標-しるべ-〜ものづくりと営業のデジタル改革がもたらす未来〜」における、2つの基調講演と3社合同セッションをレポートする。
基調講演
第一部講演「アバターと未来社会」 ロボット学者/大阪大学基礎工学研究科教授(栄誉教授) 石黒 浩 氏 | |
第二部講演「国内製造業DXの勝ち筋とは」 株式会社FAプロダクツ 代表取締役会長/Team Cross FA(チームクロスエフエー) プロデュース統括 天野 眞也 氏 |
「アバターと未来社会」
冒頭、石黒氏は「アバターは究極の営業ツール、これから働き方を変えていく新しい技術であり、DXの究極の姿なのかもしれない」と語った。
具体的には、ロボット技術が進化し、アバターが自分の身代わりに、いつでもどこでも働いてくれるツールになることを示し、コロナ禍の対面サービスはアバターに置き換えることができるという。さらには、仮想空間で仕事ができるようになってきているので、性別・年齢・外見、そして身体的な障害の有無における対面コミュニケーションの壁がなくなるのだという。
それを体現するのが、世界的に注目がされている「遠隔操作ロボット/アバター ジェミノイド」「自律会話ロボット ERIKA」「想像で関わる遠隔操作ロボット テレノイド」である。石黒氏はこれらを紹介し、ロボットがどのように人々の生活に関わっていくのかを説明した。
ロボットは知能、意識、身体性等のメタ技術を進めていく必要があるという。
そして、人工知能は、人間の知能とは次元が違うことを示した。例えば、犬や猫の認識なら、人間だと10枚程度の写真があれば認識できるようになるが、ロボット(AI)は10‐100万枚必要になる。
対話型ロボットでは、マルチモーダルチューニングテスト(MTT)を目標に開発しているという。
「中に人間がいるのか、コンピューターで制御しているのかがわからない」状態になれば、テストをパスという指標である。
「見た目がロボットであっても、心が通じ合えるように感じる」このことを石黒氏は大切にしている。
利用シーンによって人工知能を作り変えていくことは現実的ではないため、人間と会話をすることで自発的に学習をする「社会養育型ロボットIbuki」の研究開発にも取り組んでいる。Ibukiは子供の姿をしていることが特徴で、わからないことを周りの人に聞きながら活動するロボットの実現を目指している。このIbukiを用いて社会に適したロボットは何かを知るため、日々研究を重ねている。
次に石黒氏は、アバターを使った「仮想化実世界」について言及した。
コロナ禍の2年間で、リモートワークが急速に受け入れられるようになった。SNSやオンラインでの仮想空間では、様々な世界を匿名で楽しむことができるが、実世界では生身の体で働いていて、一度失敗すればやり直すことは難しく、ストレスを感じている人も多くいるだろう。
もしもその体をアバターに置き換え、自分の外見とは違う姿かたちで働けるようになると、可能性が広がるという。自分そっくりのアバターを使って、関係者が自分の代わりに講演してもいい。教育、医療においては、アバターはその自律機能で個人に合わせたコミュニケーションを取り、より高度な知見が必要なタイミングでは、専門家がアバターに乗り移り直接コミュニケーションを取ることができる。
「実世界で様々なアバターを使って働く」仮想化実世界を今後目指すべきであり、それを普及させていくことが究極の働き方DXの世界を実現することであると語った。
また、仮想化実世界は、日本から世界に普及させていけるイメージがあるという。
「VTuberを思い浮かべてほしい。CG、ロボット、アニメーション、まさに日本が得意な技術である。この日本が得意な技術にインターネットを組み合わせた仮想化実世界は、日本が先導できる」(石黒氏)
実際、内閣府の研究プロジェクト「MOONSHOT」では、2050年までに、”アバターで世の中を変える”という目標を掲げている。また、4年後に開催される大阪関西万博では、アバターやロボットの技術を使って、人々がどのような生活ができるのか、新しい社会の未来をテーマにした博覧会を開催するという。
石黒氏は「再びコロナのような状況に見舞われても、国際的なイベントが開催されることが重要で、そこにはアバターやロボット技術が必要である。『人間・アバター・ロボットの共生社会』を日本から作り上げることができれば、素敵な未来になる」と締めくくった。
「国内製造業DXの勝ち筋とは」
「製造業における課題として、不確実性が高まり先が見通せず、サプライチェーンの断絶がおきている。設備投資をするものの、旧型設備が多く生産性が低い。リードタイム縮小・人手不足・・・。そういった事象に対してダイナミックケイパビリティやデジタルトランスフォーメーションが課題解決のカギとなる」と語るのは株式会社FAプロダクツの代表・天野氏だ。
同氏の指摘によると、今の製造業をけん引する上層部(経営者)はものづくりでの過去の成功体験があるがゆえに、製品ファーストで「いいものを作れば売れる」と考えており、マーケティングを推進されると「『製品力がない』と言われていると思ってしまう」とのことだ。
今でも古い成功体験を引きずっている企業の上層部に対し、製造と販売を分けて考えたがることに警鐘を鳴らしており、「ものづくりの良さで売っていきたい」という圧倒的な自社目線が問題であると語った。
どれが正しいか正しくないかの正解はないが、どう未来を予測するか?が重要であり、価値あるものにブランディングを行い、しっかり利益をのせて販売すること、また、営業においては難しい顧客を突破する方法を考えるより、商品を欲しがっていて高く評価してくれる顧客を探すことに労力をかけるべきだという。
「ひとりの顧客に大量の製品を一気に売れる時代が終焉し、多くの顧客にアプローチをしなければいけない。しかし、人ができるデータ処理には限界がある。そして今は個人情報の取り扱いが厳しくなり、新規顧客へのアナログなリーチはかなり難しい。部署の変化も激しく、(アプローチを)少しでも間違えると取り次いでもらえない現状。一方で、デジタルは無限の広がりがある」とのことだ。
SNSが一般的なコミュニケーションツールとして使われているように、ビジネスにおいても、「Slack」や「Chatwork」などに代表されるように、顧客との連絡手段が多様化してきていることを例にあげ、営業におけるデジタルツール活用の重要性について言及した。
「Googleマップや飲食店検索サイトが普及し集客もインターネットで完結する。ビルの何階に店舗が入っているかということは、今や関係がなくなってきた。なぜそういったデジタルツールを使うようになったかは明確で、ただ便利だから。普段の生活にデジタルツールが一般化しているように、営業手法についても、マーケティングと協力してデジタルツールを活用することで、便利になることに気づいてほしい。1社ずつ架電をすることや、営業担当が会えば何とかなる時代は終焉に向かっている。対人コミュニケーションのデジタル化はビジネスにおいても時代に合った手法であり、先を予測して挑戦してほしい」(天野氏)そしてデジタルツールは、コストパフォーマンスが高いとまとめた。
天野氏は「いち早く動いた企業が生き延びていく。大企業も今の時代は安泰ではない。だからこそ先を予測して挑戦した方がいい。新しい時代の営業DXを一緒に加速していきましょう」と締めくくった。
製造業DXを推進する企業3社のセッション
人脈のデータベース化をSansan株式会社、デジタル新規開拓をSATORI株式会社、営業プロセス改革をサイボウズ株式会社の3社が、それぞれの強みを連携させることで、製造業における営業DXを支援する。
Sansan株式会社 ビジネス統括本部 エンタープライズ営業部 マネジャー 真道 萌黄 氏 | |
SATORI株式会社 営業部 部長 兼インサイドセールスグループ グループ長 堀 康佑 | |
サイボウズ株式会社 kintoneエバンジェリスト 櫻井 飛鳥 氏 |
製造業の営業DXは「人脈のデータベース化」から!
営業DXの起点として、顧客情報のデータベース化の重要性について解説したのは、Sansan株式会社ビジネス統括本部エンタープライズ営業部マネジャーの真道萌黄氏。業界シェア84%、導入7,000社数以上のクラウド名刺サービス「Sansan」を提供している。 ※シェア及び導入社数はイベント開催時点
真道氏は、「企業が保有する顧客データの約40%が使えない状態になっているという調査結果もある」として、顧客との接点を正確にデータ化し、会社の資産にしていくことの重要性を解説。
同社の強みは、OCR*で名刺情報をデータ化するだけではなく、AIとオペレーターの手入力を掛け合わせることで、名刺のデータ化の精度を99.9%まで高めた点だという。また、同一人物や同一企業の判定をし、データを統合する「名寄せ」の技術も提供している。
OCR*・・・Optical Character Reader(またはRecognition)の略で、画像データのテキスト部分を認識し、文字データに変換する光学文字認識機能のこと。紙文書をスキャナーで読み込み、書かれている文字を認識してデジタル化する技術。
オンライン商談が主流となった昨今では、オンライン名刺や、メール接点をデータとして蓄積できる新機能「スマート署名取り込み」にも力を入れているという。
「様々なデータを統合することによる、データドリブンな営業アプローチを提案します。常にフレッシュな顧客データを手元に揃えることが、営業DXの起点として最適です。」(真道氏)
製造業の営業DXは「デジタル新規開拓」から!
次に、SATORI株式会社営業部 部長兼インサイドセールスグループ長の堀康佑は、1,000社以上が導入する、オンラインで新規顧客を獲得できるMAツール「SATORI」を活用した営業DX事例を紹介。
課題を解決しようとする人の92%は、インターネット上で情報収集をすることから始め、購買検討先を絞り込むところまでを終えている。BtoB企業でもこうした顧客のデジタル化が進んでいる今、会わずして、どのように認知され比較検討の土俵に乗せてもらい営業機会に繋げることができるかどうかが新規開拓を進めるためのカギとなる。
MAツールは、非対面のコミュニケーションツールであり、ウェブサイトに訪れたお客様の行動をウォッチし、それぞれの行動に合わせたアプローチを取れることが最大のメリットである。また、セミナーや展示会といったオフラインで獲得した名刺情報とオンライン上の動きを組み合わせて、個々に最適なタイミングで営業担当が連絡をすることができる。
「製造業においても、MAツールを導入することで新規顧客やオンラインでのお問合せ、商談獲得数が伸びています。やみくもな営業活動や、意欲の高まっていないお客様の突破を考える必要はなく、本当に欲しいと思っているお客様を見つけることができる効率的な営業活動が実現します」と堀は提言する。
「SATORI」は、デジタル上で新規顧客開拓から意欲を高め、商談化につなげるための営業DXツールである。
製造業の営業DXは「業務プロセス改革」から!
ラストは、導入者数22,000社を突破したクラウド型データベースシステム「kintone」を開発運営するサイボウズ株式会社「kintone」エバンジェリストの櫻井飛鳥氏が、案件管理や受注にまつわるDXについて説明した。
「案件進捗が属人化している、顧客・案件・見積の情報が紐づいていない、納期調整が可視化できていない」こういった課題をデータをひとつにまとめて情報の共有をすることで解決できるという。
企業業種や案件に合わせた100種類以上のテンプレートが無料で使用可能、ドラッグ&ドロップで項目を移動ができ、プログラミングの知識がなくてもカスタマイズができる、バラバラのデータはCSVファイルデータを読み込むだけで取り込みができ簡単操作が特徴。「kintone」は、ファストシステムにこだわっている。
製造業で導入された事例紹介。
営業担当が顧客情報を各々で管理しており、見積もりを二重対応するミスが発生、予算に合わないという事象があった。そこに「kintone」を活用することで、あの人しか案件の進捗がわからないということがなくなり、予算状況が共有されることで、他の営業担当が危機意識を持つことや自身の案件に活かすことができるようになったという。
「プラグインやAPI連携、外部ツールとの連携も可能なため、特殊なニーズの案件を抱えているという企業でも、カスタマイズすることによりコストパフォーマンスをあげることできます。見えるデータが変わると営業メンバーの動きが変わります。現場の小さな困りごとを情報共有で解決していきましょう」と締めくくった。
将来に起こりうることを予測し、迅速に対応することが重要であり、従来のように勘や経験だけに頼るのではなく、「未来志向」に変革することは製造業にとって大きなチャンスになる。
ものづくり大国日本といわれた、輝かしい時代の製造業界が戻る日はすぐそこだ。
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