2020年2月27日(木)、オンラインにて開催された「『標 -しるべ-』営業&マーケティングのちからを養う1日」。
「自社のプロダクトやサービスをもっと世の中に広めたい」「熱い想いを、多くの人に届けたい」そのために、目の前の壁をどう乗り越えればよいのだろうか?何に取り組めばよいのだろうか?プロダクトやサービスを一歩先へ進める、新たな「道標」を探す本イベント。
3つ目のセッション、「先人の失敗経験から学ぶ!マーケ初心者は何から手を付けるべきか」では、マーケティングで実績を出し続ける先人の成功と失敗の経験談が語られた。
株式会社才流
栗原 康太 氏(@kotakurihara)
https://twitter.com/kotakurihara
アライドアーキテクツ株式会社
藤田 佳佑 氏(@sato310sss)
https://twitter.com/sato310sss
株式会社ベーシック
河村 和紀 氏(@Kawamura_KZK)
https://twitter.com/Kawamura_KZK
株式会社セレブリックス
今井 晶也 氏(@M_imai_CEREBRIX)
https://twitter.com/M_imai_CEREBRIX
栗原 康太 氏(以下、敬称略):本日は、事業会社でマーケティングに関わる立場にいらっしゃる登壇者の皆さんに、各社のマーケティングの取り組みやその変遷についてお話しいただきます。まずは簡単に私の自己紹介を、その後皆さんからも自己紹介をお願いいたします。
私は、BtoBマーケティングの支援に特化したコンサルティング会社、株式会社才流の代表をしております。前職でもBtoBマーケティングに携わっており、かれこれ12年が経ちました。様々な現場を見てきましたので、今回も現場視点をもってお話を伺いたいと思っています。
藤田 佳佑 氏(以下、敬称略):SNSを活用したマーケティング支援を行っております、アライドアーキテクツの藤田です。私のキャリアは営業から始まりました。前職では証券会社や人材会社にて営業を経験し、アライドアーキテクツにも営業職での入社でした。そこから現在はマーケティングに関わっています。
今井 晶也 氏(以下、敬称略):株式会社セレブリックスでマーケティング責任者をしております、今井です。弊社は企業の営業活動を支援している会社で、営業代行や営業コンサルティングを行っています。
私はモットーに「Sales is cool」を掲げておりまして、「営業をもっとかっこよく、より社会的地位の高い仕事へ」という大義のもと、お客様の営業活動を支援しています。今日はよろしくお願いいたします。
河村 和紀 氏(以下、敬称略):株式会社ベーシックの河村と申します。弊社では日本で一番Webマーケターにご活用いただいております、Webマーケティングメディア「ferret(フェレット)」の運営や、BtoB企業向けのCMSツール「ferret one(フェレットワン)」の提供をしています。
現在はそのCMS事業のマーケティングマネージャーを担当していますが、もともと私のキャリアも営業が出発点でした。そこから、セミナー運営やオンライン施策などに携わってきました。本日はマーケター視点だけではなく、営業や現場のことも含めてお話しできればと思っております。
まずは顕在層にアプローチし、徐々に潜在層を開拓していく
栗原:まず、自社の顧客獲得のために現状どのようなマーケティング活動をされているか、教えていただきたいと思います。
今井:まず、「マーケティング」は企業によって定義が異なってくると思います。事業戦略上、いわゆるマーケティングの4Pであるプロダクト(製品)を作ったり、プライス(価格)を決めたり、プレイス(流通)、プロモーション(販売促進)について私が管轄しています。その中でもプロモーションを中心にお話しします。
プロモーションを大きく分けると「今日の飯を食べるためのマーケティング活動」と、「明日の飯を食べるためのマーケティング活動」、いわゆる「いますぐ客」と「そのうち客」を獲得するマーケティングを行っています。
「今日の飯」の施策では、「営業代行」というキラーワードで検索している、営業代行の発注を決めている企業に接触したり、リード(見込み顧客)を集めています。例えば、リスティング広告やSEO対策です。
栗原:今井さんはここ2年くらい、様々なイベントに出られていますよね。イベント登壇は「今日の飯」ではなく、「明日の飯」を食べるための活動だと思いますが、具体的にどのような目的で行っているのでしょうか。
今井:一言でいうと、ブランディング活動、いわゆるファン作りですね。企業の営業が困った時に、「セレブリックス」をできる限り最初にイメージする、第一想起の企業群に引き上げたいなと考えています。これが「明日飯を食べるためのマーケティング活動」です。実際、この施策の効果は非常に高いです。すべての影響を計測するのは難しいのですが、まず「セレブリックス」の指名検索、その割合が増えました。あと、私はTwitterを使って営業に関する情報を発信しており、TwitterのDMで直接「営業のご相談をしたいです」とご連絡をいただくこともあります。
河村:「ferret one」のマーケティング活動は大きく分けて3つです。まず、超顕在層である「今すぐホームページをリニュアルしたい」「Webからのお問い合わせを増やしたい」というお客様に向けて、リスティング広告や、特化型のセミナーを行っています。2つ目は比較的アクションして貰いやすいライトなお客様を、ホワイトペーパーをフックに毎月数千件単位で獲得しています。3つ目が、獲得したお客様を潜在層から顕在層にあげるための施策です。カンファレンス登壇を通して、「ferret one」を知って、そして好きになっていただくのもその一つです。このように「サイトを構築するなら、BtoBマーケティングで困ったらferret one」と第一想起していただくため、日頃マーケティング活動をしています。
栗原:河村さんはかなりセミナーに登壇されていますが、年間どれくらいのペースなのでしょうか。
河村:今は月に6回、年間70〜80回くらいでしょうか。累計では250回ほどのセミナーを行ってきました。巷では「セミナーの人」とよく声をかけられます。
藤田:弊社のサービスでは、EC通販といったBtoCの企業様に向けて、「Webマーケティング業務を楽にする、効率化する」というメッセージをSNSで展開しています。
「認知獲得」の施策としては、オウンドメディアによってビッグワードであるマーケティング用語の検索でリーチしやすくしています。その次では、サービスのLP制作ですね。お客様へのインタビューやノウハウを記事にして、弊社サービスに興味がある方々に向けたコンテンツをLPを通してお伝えしています。
また、オフラインのセミナーも頻繁に行っています。お客様にご登壇いただき、実際のマーケティング活動についてお話しいただくセミナーです。我々が営業している方々が本当に悩んでいること、知りたいことが得られる場所としてのセミナーを企画することを意識しています。また、導入の検討を進めていただくために、弊社の商材を主語としたウェビナーも開催しています。
ステップ0:いち早く目に見える実績を作り、アピールすること
栗原:皆さんのマーケティングレベルが非常に高いと感じました。しかし、ここからは、何もやれていなかった頃やゴリゴリのセールス活動をされていた頃のお話を聞いていきたいと思います。
マーケティング施策を行う前に、そもそも社内で予算を任せてもらう必要があります。社内で信頼を得るための、いわゆる「ステップ0」です。どのような小さな成功体験を積み、スモールスタートさせていったのでしょうか。
今井:「こんな効果がありました」「これだけ売上が上がりました」「業績貢献しました」と、出来る限り目に見えて分かるような実績作りに、徹底的にこだわりました。当時はマーケティング予算をもらったとしても、「今日の飯」としてどのくらい業績に貢献しているかを示さない限り、やはり信じてもらえませんでしたし、新しく予算をつけてもらうことも難しかったです。
あとは、あくまで営業の延長線上といった考え方で進めていましたね。「この施策で営業がもっと楽になる」「マーケティングにこれだけ投資ができれば、営業は商談に集中できる」と営業をしっかり仲間に引き込みました。そして、営業が実績を作り、そして予算が増えるという循環を小さなところから始めました。
経営者としては、やはり「マーケティング」という不透明なものにお金を投資するのは怖いと思います。よく「費用対効果」と言われますが、投資したお金に対して、どんな受注が取れて、どれだけ売上に貢献したかを把握したいのは当然です。
藤田:「ステップ0」でいうと、入社した後にメンバー5, 6人の営業部を任され、新規営業を頑張り続けていました。4年間、それを粛々とやり続け、2018年に当時の会長からインサイドセールス部門を任されました。そのため、僕としてはマーケティングを始めたというよりは、営業組織をもっと伸ばすために新しいことをした感じです。
栗原:インサイドセールスという、営業に近い工程からアクションを起こし、売り上げに貢献していったのですね。どのくらい数字を伸ばすことができたのでしょうか。
藤田:当時のトップセールスに、インサイドセールスからの商談を可能な限りお願いした結果、その人の単月営業成果が150%ほどになりました。「トップラインがここまで伸びるんだ」と社内で認識されたことが、インサイドセールスに対する意識が大きく変わった転換点でした。
河村:やはり「早期に成果を出す」ことが「ステップ1」ですね。特に弊社の場合は「ferret」というメディアがあり、そこからリードを獲得できます。しかし、そこだけだと「ferret one」が狙っているお客様のリードをすべてカバー出来ているわけではありません。
「『ferret』の会員以外にもお客様がいて、その方々も『ferret one』を検討、導入してくれるのだ」ということを証明する必要がありました。具体的にはまず、セミナーです。セミナーで自社が抱える課題別に集まっていただき、その課題は改善できるとお話しします。しかし、「ferret one」を活用して解決できるような悩みでないと、当然購入までの道のりは長くなります。なるべく、獲得に直接つながるような「コンテンツマーケティング」「サイトリニューアル」といったような切り口のセミナーを中心に開催していました。
栗原:マーケティングのプロジェクト初期は、中々予算がないことが多いです。そこでまず弊社がオススメしているのは、受注に近いところから手を付けること。コンバージョンレートを上げる施策やインサイドセールス辺りから着手すると、3ヶ月で分かりやすく成果が出ることがあります。
先人の失敗経験から学ぶマーケティング戦略
栗原:無事にマーケティングをスタートさせた後でも、手痛い失敗があったと思いますが、そこからどのような学びがあったのでしょうか。
今井:マーケティングで難しかったこと、それは「そのうち客」をどうやって業績貢献につなげるかという部分でした。見込み顧客にフォローしなかったら、2年以内に80%のお客さんが競合他社で契約するという理論もあり、それは左脳的にも理解しています。
でも、いざ実際そこにお金をかけようとすると、このお金の使い道は正しいのか、判断しにくい。例えば、メルマガを送ったことで、そのお客さんは本当にホットになっていくのだろうか、と。しっかりナーチャリングできているのか、悩みましたね。
栗原:具体的にどこへ投資されたのでしょうか。
今井:名刺管理システム「Sansan」から定期的にメルマガを配信して、リードナーチャリングしていくことが、一番最初のステップでした。そこから、お客様ごとにメルマガを送らなかった時期と送った時期を比較し、今年はどうやら問い合わせが150%増えているぞと。「これは顧客育成の効果だと言えるはずだ」と業績貢献を示して、また予算を増やしていきました。顧客育成における、業績貢献を示すポイントは、「計測の方法をしっかり工夫する」「多少リスクを背負う」、この2点です。
栗原:河村さんの失敗や、そこからの学びを教えていただきたいです。
河村:見せかけのプロダクトマーケットフィット(PMF)に陥ったことでしょうか。毎月受注が発生し、多い時で2桁も受注できた、かなりイケイケなタイミングがあったんです。「これは完全にマーケットフィットしたな」と感じ、上司も自分も投資に踏み込みました。
しかし、それが「見せかけ」でした。「ferret one」は年間契約なのですが、2年目以降に契約を更新されないお客様が多かったんです。はたして、「ferret one」にとって本当に正しいお客様だったのかと思い直しました。お客様のことを細かく見れていたら、もっと早期に気づけたはずなのですが……。
そこで一旦アクセルを踏むのをやめ、ターゲットをBtoB企業に絞りました。プロダクトもツールだけではなく、コンサルティング支援もセットに変更。そこで1年間進めたところ、継続率が3倍まで高まったので、やっとPMFしたなと感じました。
藤田:弊社では5年以上前に展示会やカンファレンスにかなりの頻度で出ており、ペイドメディアの施策も行っていました。しかし、「それって受注に繋がってないよね」と指摘があり、一旦取りやめたんです。絵に描いたようなセールスとマーケの分断が起きてしまい、お互い全く信用していない状態でした。そうした反省を経て、これまでの施策ではリーチできなかったお客様を獲得するために、お客様に登壇いただくセミナー企画を中心に取り組んでいます。
マーケティング成功のカギは、先人とお客様にあり
栗原:最後に皆さんから、今の経験を経て過去に戻るのなら、まず何をやるかお聞かせください。視聴者の方に、「マーケティングはこうするのがおすすめです」というメッセージを届けたいです。パワーアップした今井さんが昔に戻るなら、どんなことから手を付けますか。
今井:当時知らなかったことは、大きく2つあります。
1:無料で始められるマーケティングの方法がたくさんあること
2:マーケティングで成功している企業がたくさんあること
今はTwitterをはじめ、SNSを通じて自社を発信していく方法があるので、まず無料で出来ることはどんどんチャレンジしていきたいなと思います。あとは、マーケティングで成功している企業を比較、評価し、「こういう施策をやりたいです」ではなく、「こういう施策をやらないとまずいです」と社内で提案したいですね。そうすることで提案の訴求力と精度を増すことができます。
藤田:徹底して先人の真似をしますね。「徹底」の度合いを、本当に何から何まで調べ上げて真似すると思います。まずは先人にアクセスすること。その方法はたくさんあるので、根こそぎ調べ上げて、自社に合いそうな施策から始めていくやり方が良いと思います。
河村:シンプルに、「お客様のところに足を運べ!」ですね。当時も電話でお話や状況を聞いていましたが、やっぱりお客様の元に足を運ばないと得られない情報や、言葉にできない温度感があります。僕を含め、当時はそこを怠っていました。皆さんにお伝えしたいのは、PC画面に向き合っても問題は解決しないので、ぜひお客様と直接向き合ってください。ということです。
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『戦略プロフェッショナル―シェア逆転の企業変革ドラマ』
著者:三枝 匡 出版:日経ビジネス人文庫
『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』
著者:クレイトン・M・クリステンセン/タディ・ホール/カレイ・ディロン/デイビッド・S・ダンカン
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『ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書』
著者:アレックス・オスターワルダー/イヴ・ピニュール
翻訳:小山 龍介 出版:翔泳社
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著者:秋山 隆平 出版:宣伝会議