カスタマージャーニーとは「顧客が商品を購入し、利用、継続・再購入するまでの道のり」のことです。マップ化することで顧客とのタッチポイントを最適化するマーケティング施策が打て、さらに成果を伸ばすことができます。
ここでは、カスタマージャーニーの概念や必要性、事例について解説します。カスタマージャーニーマップの詳しい作成方法に関しては以下の記事をご覧ください。
参考記事:カスタマージャーニーマップとは?基本と正しい作り方(事例・テンプレート付き)
カスタマージャーニーとは
カスタマージャーニーとは、顧客が商品やサービスを知り、購入・利用意向をもって実際に購入・利用するまで、また、利用後に利用の継続や再購入の意思決定をするまでに、顧客が辿る一連の体験を「旅」に例えたものです。
消費者の価値観は多様化している上、タッチポイントの面でも、まとめサイトや、比較サイトといった、いわゆるアーンドメディアを含む多様な顧客接点が存在します。
そのなかで、商品やサービスの認知から購入・消費や、その後の消費者間の情報共有に至るまで、顧客体験は複線化しています。このような環境のなかで、見込み顧客を顧客化し、自社(商品・サービス)のファンとなってもらうためには、一連の顧客体験について一貫性をもってマネジメントしていくことが不可欠となっています。
顧客体験を効率的にマネジメントし、適切なマーケティング施策を打っていくためには、一連の顧客体験を顧客がたどる「旅」になぞらえ、地図上の旅のように可視化して捉える、カスタマージャーニーマップの作成が有用といえるでしょう。
カスタマージャーニーマップが必要な理由
ソーシャルメディアや比較サイト、口コミサイトなどの、いわゆるアーンドメディアの発達により、商品・サービスや企業そのものに関する消費者の評価・評判は、瞬時に広範囲に拡散されています。このように極めて高いレピュテーションリスク(風評リスク)に直面している企業は、売上などの短期的な業績のみならず、自社のブランド価値の維持・向上を目指す上でも、あらゆる接点における顧客体験を重視せざるを得なくなっているといえるでしょう。
一方、様々な商品・サービスにおいて検索・比較を通じた意思決定を行う消費者は、こうした行動をさらに即時的に行うようになっています。
このことは、商品・サービスの購入・利用に至るまでの行動プロセスや、商品・サービスに接する情報の内容・文脈(コンテクスト)が、消費者の価値観の多様化もあいまって、より複雑化していることを意味しています。
こうした環境下にあって、多様な顧客がそれぞれにどのようなプロセスを辿っていくのかを顧客の意識や感情を含めて整理し、適切にマネジメントしていくためには、カスタマージャーニーをマップに落として可視化することが有効です。
同じ商品・サービスであっても、カスタマージャーニーは顧客の属性や顧客自身がおかれている環境(購入・利用の目的やシーン)により異なります。そのため顧客の属性や環境を可視化して管理しなければ、複数のカスタマージャーニーを適切にマネジメントしていくことは困難です。
なぜ、カスタマージャーニーは「時代遅れ」と言われるのか?
一部ではカスタマージャーニーについて、「時代遅れ」「もう古い」「意味がない」と言われることがあります。果たして、本当にそうなのでしょうか?
そのように言われる背景として、消費者が予測したプロセスを無視して行動する場合があることが挙げられます。特にBtoCでは、消費者がインターネットを通じて得られる情報量が膨大です。そのため、予測したプロセスを踏まずに商品やサービスを購入するケースが増えています。これまで聞いたことのない名前の商品を偶然知って即購入したり、何を購入するか決めずにECサイト等に訪れたりする「パルス消費」は、その一例と言えるでしょう。
参考:データから見えた「パルス型」消費行動——瞬間的な購買行動が増えている:買いたくなるを引き出すために:パルス消費を捉えるヒント(2)- Think with Google
また逆に、予測したプロセスを一直線に進むのではなく、何度も行き来するケースも多く見られます。これは、商品やサービスをじっくり検討するために、予測したプロセス間を繰り返し行ったり来たりしてから購入にたどり着くというケースです。こうしたことから、カスタマージャーニーは「もう古い」「意味がない」などと言われているのでしょう。確かに、予測したプロセスを踏まず購入にたどり着いたり、予測したプロセス間を行ったり来たりして購入にたどり着いたりするケースもあり得ます。しかし、顧客がたどる様々なプロセスをすべて予測し、ジャーニーとして整理することは現実的ではありませんし、何より非効率です。「パルス消費」のようなプロセスを予測することは困難ですが、プロセス間を行き来しているということは顧客がプロセスを進むことを阻害する要因があり、顧客体験の向上に向けて改善の余地が残されていることを示しているともいえます。カスタマージャーニーマップを作成・管理していくことは、このような顧客体験上の課題を発見し、解決につながるマーケティング施策を考える上で、極めて有効な方法といえます。
カスタマージャーニーのメリットと活用方法
現代の環境のなかで、効率的にビジネスを行っていくためには、カスタマージャーニーについて考えることは不可欠といえますが、具体的にはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、そのメリットを整理しました。
1)顧客起点で自社の商品・サービスについて再確認できる
「顧客視点」の重要性を認識していても、日常のビジネスのなかでは売り手目線で物事を考えがちです。カスタマージャーニーマップの作成にあたっては、顧客の行動や意識のリサーチが必要になります。また顧客の行動や心理を、カスタマージャーニーとして整理していくためには、顧客の視点に立たざるを得ません。
このようにカスタマージャーニーマップ作成の過程では、購入検討、購入・利用まで、また、利用の継続や再購入の意思決定を下すまでのプロセスを丁寧にたどっていくことになることから、顧客視点から見た改善すべきポイントやその方向性など、マップに落とし込むまでもなく商品・サービスの見直しにつながるものも含めて、様々な気づきを得ることが期待できるでしょう。
2)認識の共有とスムーズな施策展開
カスタマージャーニーを考えていく中では、商品開発や広告・宣伝、営業、店頭のスタッフなど、商品と顧客に関わる様々な関係者との議論を通じて認識をすり合わせていくことが求められます。また、こうした議論を通じて顧客理解を深めた結果が、マップとして可視化されることで、社内外の関係者間で認識を共有できるようになります。
こうして共通認識を形成していくことは、副次的に関係者間の相互理解や意思疎通を円滑にすることにも寄与することから、施策を展開していく上でも、よりスムーズな展開が期待できるものと思われます。
3)マーケティング施策におけるKPIの明確化
カスタマージャーニーマップに基づいて検討されるマーケティング施策の目的は、「顧客ファネルのどの段階にある顧客の、どのような課題を解決するか」というように、明確に定まります。
例えば商品・サービスの認知を拡げ興味・関心を惹く(企業視点では集客・誘導にあたります)場合、広告におけるインプレッションが重要なKPIになり得ますし、具体的なニーズに対する解決手段を探す顧客(同、育成段階)に対しては、メールマガジンの開封率やウェビナーの閲覧数などをKPIとして、施策を検討することになるでしょう。
このように、カスタマージャーニーマップに基づくマーケティング施策のプランニングは、自ずとKPIの設定にもつながっていきます。業務運営上、顧客視点で明確にKPIが定まることが有効であることは、いうまでもありません。一方、カスタマージャーニーマップは、顧客の行動に関する仮説を整理したものですから、マップを精緻化していく上でも、測定されたKPIは重要な情報となります。
4)ブランド価値の向上
カスタマージャーニーマップは、顧客視点に立って自社の商品・サービスにつながる顧客の体験のすべてを設計するためのツールです。カスタマージャーニーマップを用いた顧客体験の設計により、顧客とのタッチポイントの最適化を図ることは、顧客体験の質を高めることにつながります。
こうした取り組みは、自社、あるいは自社ブランドの価値の向上につながることが期待できるといえるでしょう。
カスタマージャーニーの事例と分析ポイント
SATORIでも、カスタマージャーニーを活用しています。ここで、具体的な作成のプロセスをご紹介しましょう。
1)ニーズ・認識
顧客は明確な商品・サービスを求めているのではなく、どのような手段があるのか模索している段階です。そのため、顧客を対象に調査したり、担当者へ個別にヒアリングを行ったりします。顧客がニーズや課題を知る、あるいは、その手段として商品・サービスを認識してもらうための情報提供が重要です。具体的には展示会や講演会、オウンドメディア、Web広告などの施策が挙げられます。
2)商品・サービス認知
顧客は課題解決に向けて、具体的に解決へつながる商品・サービスを調べます。そのため、自社の商品・サービスについて具体的な情報を提供し、その有効性を感じてもらうことが大切です。Web広告やSEO、オウンドメディアのほか、セミナーやメルマガなどの施策も有効でしょう。
3)比較検討
具体的に購入すべき商品やサービスが明確になったうえで、顧客は複数の比較検討を行います。資料請求したり説明会に参加したり、具体的な商談の機会を作ったりする段階です。そのため、競合他社と比べた優位性の分かる製品資料や事例集を作成・提供したり、商談の場を設けたりという施策に取り組みます。その商品・サービスを購入した際のイメージを明確に持ってもらい、不安などの購入障壁をなくします。
4)購入・導入
自社の商品・サービスを選んでもらい、購入あるいは導入してもらう段階です。最終的な営業担当者による商談のほか、カスタマーサポートの役割も重要になります。
5)利用
顧客は商品・サービスを用いた、具体的な施策を講じ始めます。利用上の不明点などはカスタマーサポートに問い合わせが入るので、サポート体制の構築が欠かせません。また、活用セミナーを開催したりヘルプサイトを用意したりすることで、顧客の活用を後押しします。そうすれば、継続的な利用によって成果を実現でき、さらに新しい施策へと移っていくでしょう。
6)継続・再購入
商品は古くなれば買い替えが起こりますし、サービスも継続の見直しが行われます。ここでは、商品の再購入やサービスの継続利用へつなげるため、カスタマーサポートやセールスによるコミュニケーションが欠かせません。競合他社との比較が行われた場合にも自社を選んでもらえるよう、顧客の課題や不安点などを明確にし、解決に向けた提案を行います。
BtoBの場合は複数の人がプロセスに関わる
BtoCにおいて、商品やサービスの購入主体は個人の消費者です。購入のための意思決定を下すのも、基本的にはその個人本人である場合がほとんどでしょう。そのため、個人に対するアプローチが基本となります。
一方、BtoBでの購入および意思決定は組織として行われます。複数の人がプロセスに関わるため検討期間も長くなりますし、アプローチする相手も多くならざるを得ません。それゆえ、BtoCと比較してカスタマージャーニーが複雑になります。
これまで解説してきたように、カスタマージャーニーを考えることには多くのメリットがあります。カスタマージャーニーマップはマーケティング施策すべての羅針盤となりうる重要なツールです。
これを機に「顧客が商品を購入・使用するまでの道のり」を洗い出し、カスタマージャーニーマップを作ってみませんか?
参考:カスタマージャーニーマップとは?基本と正しい作り方(事例・テンプレート付き)
この記事が気になる方へ!おすすめの資料はこちら
テンプレート付き!カスタマージャーニーマップの作り方ガイド
カスタマージャーニーマップのテンプレートとともに作り方・使い方を分かりやすく解説しています。
商談・受注に向けた顧客分析にぜひともご活用ください。
\入力いただいたメールアドレスへ、テンプレートをお届けいたします/
・1995年:財団法人生命保険文化センター 入社
・2003年:筑波大学大学院ビジネス科学研究科経営システム科学専攻修了(経営学)
・2004年:株式会社ニッセイ基礎研究所社会研究部門 入社
・2024年~:現職
・高千穂大学商学部(2018年度~)非常勤講師
・相模女子大学人間社会学部(2022年~)非常勤講師
所属学会
・日本マーケティング・サイエンス学会
・日本消費者行動研究学会
・日本ダイレクトマーケティング学会
・生活経済学会
・日本保険学会
・生命保険経営学会