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2022.03.10

製造業の営業部門を支援する3つのコンテンツマーケティング・アイデア

製造業の営業部門を支援する3つのコンテンツマーケティング

本記事は米国のBtoBマーケティングコンサルタントとして活躍する、Pam Didner氏に語っていただいた。

はじめに

私は様々な製造業の方とお仕事をさせていただくなかで、マーケティング担当者が限られたリソースと予算で営業部門をサポートする際の課題に直面してきました。

営業部門とマーケティング部門の目指す事業目標は同じ方向ですが、優先順位やアプローチ方法は異なります。これは、異なる都市に住んでいる家族のメンバーが家族旅行のために旅行先で集合することを決めた場合、それぞれが違うルートで集合先に向かうのと似ています。

はじめに、製造業のマーケティング担当者が知っておくべき営業部門とマーケティング部門の基本的な違いをご紹介します。

  • マーケティング部門は次の図で示すファネルの一番上に注力する一方で、営業部門はファネルの一番下に焦点を当てます。営業部門にとって最も重要なのは、商談の成立と契約(購入)です。
  • マーケティング部門は、数四半期かけて認知度の向上とナーチャリングに焦点を当てます。一方で営業部門には、四半期ごとのノルマがあります。
マーケティングファネル
  • マーケティング担当者は、「誰が」、「どのように」、「何を」を基準に施策を推進するのに対し、営業担当者は「誰が」、「なぜ」、「どのくらいの量・価格」という、マーケティング担当者とは異なる視点で顧客にアプローチします。
  • マーケティング担当者はデジタル時代の最前線に立つ一方、製造業の営業部門は個人的な関係性を重視する傾向にあり、メールや電話、対面での会議を好みます。

参考:「The Number One Reason for Sales and Marketing Misalignment(営業とマーケティングとの間に乖離が生じる一番の理由)」(原文のみ)

このように、営業部門とマーケティング部門との間には大きな違いがありますが、私は両者の共通点に注目するようクライアントにお伝えしています。

マーケティング担当者が営業部門をサポートする上で活用できる両者の最大の共通点は、コンテンツです。マーケティング担当者はコンテンツを使用して認知度を高め、見込み顧客に自社製品の必要性を伝え、啓蒙を行います。

営業部門は、自らの主張の妥当性を確認し、製品が顧客に与えるメリットや訴求ポイントを裏付けるためにコンテンツを使用します。コンテンツは、Webサイト、メール、イベント、電話での会話、お客様との商談、デジタルマーケティング・外部のメディアサイトなどで活用されます。そのため、コンテンツは営業部門の成功に欠かせないのと同様に、効果的なマーケティングにも不可欠です。

まず自社コンテンツを管理する

現状、製造業のマーケティング担当者として自社コンテンツをすべて管理できていないと感じて不安に思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、それはあなただけではありません。多くの製造業の方が抱えている課題ですので、ご安心ください。もしも、自社コンテンツの状況に関する全体像をしっかりと把握しているのであれば、他社よりも一歩先を進んでおり、素晴らしい状態です。

多くの場合、コンテンツは様々な場所で保存・管理されています。なぜならば、予算やリソースがある人なら誰でもコンテンツを作成できるからです。

コンテンツは製品部門の専門家、営業組織の強化・改善(セールス・イネーブルメント)のための研修内容、マーケティング部門のコンテンツ管理者など、部門関係なく、誰からでも生まれるものです。

混沌とした状態に、ある程度の秩序をもたらすためには、主なコンテンツ作成者が団結する必要があります。集まって成果物の進捗と予想される完了日について話し合う場をつくるなど、連携を図ることが必要です。

さらに理想的なのは、マーケティング担当者を中心としたチームが、DivvyHQ、Kapostなどのツールや、オラクル、アドビ、Salesforce、マイクロソフトなどのマーケティング・クラウドアプリケーションを用い、コンテンツ制作のワークフローを管理するプラットフォームを一括で利用することです。

マーケティングコンテンツを営業の流れに落とし込む(マッピング)

自社コンテンツの全体像を把握した後にやるべきことは、営業担当者が必要としそうなコンテンツを特定することです。これを行うためのアプローチ方法は沢山あります。営業部門と共によく使われるコンテンツリストを作成し、コンテンツを彼らのニーズに落とし込みます。

ヤッコ・ファン・デル・コーイ氏が作成したカスタマージャーニーを例に挙げましょう。下記の図で示したように、顧客は悩みや課題の明確化ができると、「具体的な情報収集」段階に費やす時間が多くなる傾向にあります。

皆様はマーケティング担当者として、インバウンドトラフィック(サイトへのアクセス)とアウトバウンドプロモーション(サイトに誘導するための広告など)に使用する教育的なコンテンツの要素を既にお持ちだと思います。さらに顧客の購買意欲を高めていき(ナーチャリング)、「比較検討」また「導入/活用」の段階において見込み顧客の意思決定を助けるためのコンテンツリストも備えていることでしょう。

顧客中心のカスタマージャーニー

顧客の検討段階に応じて様々なコンテンツがあると思うので、最も閲覧数の多いもの、最新のもの、特定の商品に関するもの、購入者のペルソナ など、特定の選択基準に基づいて10〜15個の要素を選んでみましょう。そして段階ごとにリスト化します。(下記の図を参考にしてください。)

マーケティングコンテンツを顧客中心にジャーニーに落とし込む

今度は、営業部門がたどる流れを見てみましょう。ご存知のように、一般的な営業活動の流れは、マーケティング施策を通して獲得した見込み顧客に対し、営業担当者が自社への興味度の高い見込み顧客と接触し、絞り込みを行います。そして、見込み顧客が高い関心を示せば、営業担当者はデモを見せる段階に進みます。

複数回、電話でのヒアリングやミーティングを行った後、または活用イメージ(PoC:概念実証)のデモまで行った後に、見込み顧客は提案を求めます。そして最終的に、営業担当者は商談を成立させます。なお、以下に記載された典型的なセールスジャーニーをご確認ください。

営業中心のジャーニー

それでは、カスタマージャーニーをセールスジャーニーに落とし込みましょう。一般的に見込み顧客が自社製品の詳細情報に興味を示した時点から、最初の営業ステップが始まります。これは既に、カスタマージャーニーの具体的な情報収集段階の一部となっています。

以下の図は、カスタマージャーニーをセールスジャーニーに落とし込んだ様子を示しています。

カスタマージャーニー・コンテンツをセールスジャーニーに落とし込む

具体的な情報収集と比較検討、導入の段階における主要コンテンツを特定できたら、次は営業の各段階に適したコンテンツを選別しましょう。そうすることで初期段階のマッピングができ、このマッピングしたコンテンツを用いることで、営業部門との建設的な会話を行うことができます。

注記:営業部門と話す上で営業担当者のニーズに合わせてコンテンツを多少書き変えたり、再設計したりすることが求められるかもしれません。この場合、一部のマーケティングコンテンツを別の目的のために作り変えるため、営業担当者とコンテンツ作成者が別途話し合うことが必要です。そして、コンテンツは、複数の検討段階に当てはまる可能性があることを念頭におきましょう。

営業部門のためのコンテンツ管理を行うことで、営業担当者がコンテンツを活用しやすくする

営業部門が利用するコンテンツを特定した後にやるべきことは、営業担当者がコンテンツを探しやすい状態にすることです。営業部門が抱える課題の一つに、適切なコンテンツを適切なタイミングで見つけることができないということが挙げられます。

参考:Help Sales Find Content They Need(営業に必要なコンテンツ探しを支援するには)原文のみ

では、営業担当者が適切なコンテンツを見つけ、活用するにはどのような取り組みをするべきかご紹介します。

一つは、営業部門の行動に沿ったコンテンツの管理を行うことです。関連性のあるコンテンツを管理する場所にアップロードし、製品、地理情報、キーワード、テクノロジー、コンテンツのフォーマット、営業部門がコンテンツ検索に使うカテゴリーでタグ付けします。最近では、マーケティング担当者の作業を楽にしてくれる自動タグ付けを提供しているプラットフォームもあります。なお、コンテンツ管理のプラットフォームを導入する際は、この機能が提供されているかを確認しましょう。

典型的なコンテンツ管理のプラットフォーム(セールスイネーブルメントプラットフォームという名称を使っている可能性があります)は、Highspot、Showpad、Seismic、Attachなどがあります。なお、営業部門に向けたコンテンツ管理方法は、マーケティング部門のコンテンツ管理方法と同一ではありません。営業部門のコンテンツを管理する場所には、商品ロードマップ、価格表、営業中心の研修(マーケティング担当者向けではない)コンテンツなど、営業のみが把握している機密情報が含まれている可能性があります。

マーケティング部門がコンテンツを管理する場所には、営業担当者が気にかけないデザインやクリエイティブな要素が含まれる傾向にあります。マーケティングと営業部門のコンテンツ管理場所をある程度つなげることは可能ですが、営業部門独自のコンテンツ管理場所を備えておくことを強くお勧めします。

営業部門のコンテンツ管理場所には、直接営業(直販)と代理店営業の両方の部隊に役立つコンテンツを格納します。そして、利用したいコンテンツについての問い合わせは、まずマーケティング担当者に連絡をする前に、営業コンテンツ管理場所を確認するよう、営業部門に伝えていきましょう。営業が自身でコンテンツを探し易いように整えることは、コンテンツマーケティングで営業を助けるための第一歩になります。

また、営業部門がコンテンツ管理ツール(セールスイネーブルメント・プラットフォーム)を使用することの主なメリットの一つは、最も使用されてきたコンテンツやコンテンツを使用するユーザー、コンテンツに費やす時間、さらにはキーワード検索さえも測定できる機能がある点です。これらのデータは、使用されるコンテンツの形式と検索されるキーワードに関するフィードバックを繰り返し提供してくれます。

これらに営業部門からの口頭でのフィードバックや調査結果を加え、コンテンツ作成者とマーケティング担当者は、今後のコンテンツロードマップを営業部門のニーズにより沿うよう微調整して精度を上げることができます。

アカウントベースドマーケティングを通したコンテンツのパーソナライズ

Engagio社のThe Clear and Complete Guide to Account-Based Marketing(ABM)「アカウントベースドマーケティング(ABM)の徹底ガイド」 によれば、ABMは戦略的かつパーソナライズ(個別化)されたマーケティング手法であり、営業とマーケティングとの緊密な連携を通してターゲットアカウント(企業)の人々と関係性を築くことです。

参考:     【入門】ABMとは?概要とツールをわかりやすく解説[1] 

製造業の担当者の大半は、おそらくABMとは気付かずにABMを営業部門と行ったことがあるでしょう。これは、営業部門が商談を成立させるのを助けるために活用できる既存のマーケティング手法です。ただし、ABMのアプローチは、顧客の視点から捉えた従来の購買プロセス(マーケティングファネル)とは異なります。

たいていマーケティング担当者は、認知、検討、購入というマーケティングファネルに沿ってマーケティング施策を立案します。それに対し、ABMは真逆です。まずターゲットとなる企業を特定しなければなりません。その後、営業部門と協力し、戦略的で計画的なアプローチを通してその企業内のターゲットとなる人からその関係者まで拡大して関係性を築きます。

的を絞ったBtoBスマーケティング

コンテンツマーケティングをABMのために活用するのであれば、特定のアカウント(企業)とその中でターゲットとする個人に関連するコンテンツを選択し、カスタムする必要があります。

コンテンツをABM戦略に合わせてパーソナライズするうえで考慮すべき手順を、以下にご紹介します。

  • 自社コンテンツの状況を把握し、カスタマージャーニーの各段階に適したコンテンツを理解すること。
  • ターゲットの業界・企業特性、技術特性など営業部門の知見を借りながら調査する。そして、ターゲットとなる企業のインサイトに基づき、独自の購買プロセスにコンテンツを落とし込むこと。
  • 自社のコンテンツやキュレーションされたコンテンツ(※)の組み合わせを制作、入手し、カスタマイズすること。(これは手作業、またはTerminus、DemandBase、PathFactoryまたはUberflipなどのツールを使用して行うことができます。)
  • ターゲットとなる企業に合わせたマーケティング戦略・施策に基づいて選択したコンテンツを組み入れること。

主な成功指標のモニタリングと測定を行い、最適化し改良しましょう。

当たり前のように思えるプロセスであっても、効果的なABMを実現するために必要なツールとプロセスを整備することは必要な作業です。

※キュレーションされたコンテンツ:あるテーマに基づき、第三者が発信した内容を一つのコンテンツにまとめたもの

さいごに

私が今回取り上げた内容は全てシンプルに思えますが、実際に導入することは簡単ではないと断言できます。これが現実なのです。

よく考えて話し合い、マッピングを行い、さらにはツールを選定して導入することも求められます。「テクノロジーとデジタル」が関わるものは何であれ、成果を出すためには時間と予算がかかることを個人的に実感しています。私は、マーケティング担当者が営業部門をサポートするためのクリエイティブな方法を提案することに情熱を注いでいます。製造業のマーケティング部門が営業部門をサポートする方法は、それぞれ若干異なります。

どの営業部門も、マーケティング部門に対してそれぞれ独自の期待を抱いています。営業とマーケティングの機能自体はどの企業でも同じですが、課題や連携のプロセス、さらには事業の優先順位は企業ごとに大きく異なります。

私はコンサルタントとして実績のある手法をたくさん知っていますが、それでも特定の具体的なニーズに合わせてフレームワークなどの提案内容を調整する必要があります。「どんな場合にもうまくいく万能な方法」はありません。そのため、製造業のマーケティング担当者や営業部門と一緒にお仕事させていただくのは、とても楽しく、やりがいを感じています。