検討期間の長い商材を扱うことが多いBtoBビジネスにおいて、コンテンツマーケティングは有効です。オウンドメディア運営やメールマーケティングなど、コンテンツ制作から配信まで、基本の進め方と最新の成功事例をわかりやすく解説します。これからコンテンツマーケティングを始める方だけでなく、現在のコンテンツマーケティングの実施方法の振り返り・見直しにもご活用ください。
BtoBコンテンツマーケティング、3つの成功ポイント
コンテンツマーケティングとは、コンテンツを使って潜在顧客や見込み顧客、顧客とコミュニケーションを行うマーケティング施策の一つです。同じコンテンツを一斉に提供するのではなく、的確なタイミングで閲覧者に合うコンテンツを提供することが大切です。
BtoBにおけるコンテンツマーケティングでは、この「パーソナライズ」の設計が成功のカギとなります。すぐに成果の出る施策ではないので、継続できる運用体制も重要です。成功するために注意したい3つのポイントをまとめました。
1)全体設計を行ってからコンテンツを制作する
多くの企業で、目的があいまいな状態でブログやオウンドメディアの運営を開始する様子を見かけます。「誰に、何を、いつ、見せるのか」が設計されていない状態では、コンテンツの価値は下がってしまいます。ペルソナを設定して「誰に」を明確にし、ペルソナごとのバイヤージャーニー設計を行って「何を、いつ、見せるのか」のシナリオを設計しましょう。
そうすることで、リード獲得やリードのステータス変更などの導線も予め設計した状態でコンテンツ制作を行うことができます。
2)運営体制を整備しておく
コンテンツマーケティングは、広告と違ってすぐに成果に結びつくものではありません。全体設計を行ってから、コンテンツ制作・配信など実施し、全体設計を見直して調整を行いながらPDCAを繰り返していく長期施策となります。運営体制がないまま始めてしまうと長く続きません。誰が何をやるのか、役割を明確にしていきましょう。人員が不足している場合は、外部ベンダーの利用も検討し、その予算を確保しておくことを強く勧めます。
3)SEOだけに頼らない
コンテンツを制作してブログやオウンドメディアに投稿し、SEOを施して流入数を稼ぐことに集中し過ぎているプロジェクトをよく見かけます。
BtoBビジネスにおいては特に、コンテンツで流入を獲得しやすい情報収集型クエリの検索ユーザーは、今すぐコンバージョンしない潜在顧客が多く、売上などの成果につながりません。会員向けニュースレターやホワイトペーパー、セミナー、コミュニティ運営など、流入してきたユーザーに再訪してもらうための施策も予め準備しておきましょう。
以上、3つの成功ポイントを念頭に置いて、コンテンツマーケティングの導入を検討し、進めてみてください。
BtoBコンテンツマーケティングの進め方・基本
コンテンツマーケティングは、コンテンツを制作して配信をする前に、全体設計を行うことがとても重要です。BtoBビジネスなど検討期間の長いサービスは特に、ペルソナ設定やバイヤージャーニー設計が成果を大きく左右します。
以下の6つの手順で、全体設計、コンテンツ制作・配信、効果分析、コンテンツ改善のPDCAを実施していきましょう。
1)ペルソナ設定
はじめに、ターゲットとなる潜在顧客・見込み顧客についてイメージするためにペルソナを設定します。
- どのような業種、どの程度の売上規模の企業が多いのか?
- 担当者は、何の部署・役職にいるのか?
- どのような課題や悩みを抱えているのか?
- 何についての情報を求めているのか?
- 製品・サービスを選ぶときに、何と比較するのか?どのような基準で選ぶのか?
既存顧客の傾向を営業担当者にヒアリングしたり、見込み顧客からの問い合わせデータを調べたりなどして、ペルソナのプロフィールを作成します。
関連記事:【入門編】マーケティングの「ペルソナ」とは?作り方と例・無料テンプレート
2)バイヤージャーニー/顧客ステータスの定義(シナリオ設計)
見込み顧客の意思決定プロセスを把握します。。
見込み顧客が製品の導入を決めるまでには、どのように候補先の企業と接触するのか?情報の収集方法や、決裁ルートなどの契約までのプロセスに対し、どのタイミング(顧客ステータス)でどのコンテンツを見せるべきか、「バイヤージャーニー」(=購入に至るまでの道のり)を可視化して定義します。
関連記事:わかりやすい「カスタマージャーニーとは」概念・必要性・事例
3)顧客ステータスに合わせたコンテンツテーマ設計
顧客ステータスごとに情報ニーズが見えてきたら、具体的なテーマの洗い出しを行い「コンテンツリスト」を作成します。
ブログやオウンドメディアの記事となるテーマについては、検索ニーズの調査も行いましょう。
検索エンジンからの流入が多いほど、安定的なアクセスが期待できます。
GoogleAdwordsの提供している「キーワードプランナー」やその他キーワード調査ツールを利用します。 (キーワードプランナーは、GoogleAdwordsのアカウントを持っていれば使用できます)
コンテンツリストには、閲覧後に期待するアクションもセットしておきましょう。主には、リード獲得の方法や、閲覧することでリードのステータスが向上するための施策への誘導となります。
関連記事:【わかりやすい】リードジェネレーションとは?具体的な手法と事例も紹介
関連記事:リードナーチャリングとは?基本の手法と成功事例
4)KPI設定
バイヤージャーニーなどのシナリオと、コンテンツのテーマがおおよそ決まってきたら、KPI設定を行いましょう。
集客を担うコンテンツでは「アクセス数(PVやセッション数)」、閲覧者をナーチャリングするためのコンテンツでは閲覧後の「イベント発生数(商談申し込み数、製品資料ダウンロード数等)」などをKPIとして定義します。
KPI設定の例
KPI | 内容 | 例 |
---|---|---|
有効商談数 | コンテンツで獲得したユーザーから発生した商談 | 100件 |
商談獲得単価 | 1商談あたりの獲得費用 | 50,000円 |
獲得リード数 | コンテンツから発生した資料請求・問合せなど | 1,000件 |
コンバージョン率 | リード獲得数÷セッション数 | 0.5% |
送客数 | コンテンツから資料ダウンロード、製品紹介ページ、事例ページなどに誘導した数 | 3,000セッション |
セッション数 | コンテンツへのユーザーの訪問回数 | 200,000セッション |
このように、商談から逆算してKPIを設定し、一定期間での運営費用対効果も可視化します。
費用対効果を出しておくことで、広告やDMなど他のマーケティング施策と比べやすくなり、運営予算の獲得がスムーズになります。
これらのKPIを設定したうえで、目標のリード獲得数を達成するために必要なセッション数や、コンバージョン率といった、Web上のKPIに落とし込んでいきましょう。
関連記事:コンテンツマーケティングのKPIは?目的に合わせた設定法
5)コンテンツ制作と配信
全体設計が終わったら、テーマごとにコンテンツを制作します。コンテンツが出来上がったら、シナリオに沿って正しいターゲットとタイミング(日時・メディア)で、最適なコンテンツ(内容)を配信していきます。
シナリオに沿ってすべての人に手動で配信するのは難しいので、配信にはマーケティングオートメーションが活用されています。設計したシナリオとコンテンツを登録しておくことで、ユーザーに合うタイミングでコンテンツを自動配信することが可能です。具体的には、ターゲティングメールや、Webサイト訪問時に表示するポップアップ・ページ埋め込みコンテンツなどを用いて配信することができます。
このブログを運営している「SATORI」も、BtoB企業に評判の高いマーケティングオートメーションなので、よかったら資料をダウンロードしてみてください。
6)分析と改善
「4)KPI設定」で設定したKPIが達成されているかを確認しましょう。
未達のKPIについては、KPIの見直しか、コンテンツ内容・配信のタイミングなどの配信方法を見直します。
また、セッション数やコンバージョン率が高いコンテンツを洗い出し、その理由を特定して、新規テーマの作成や他のコンテンツの改善にも活用します。
分析して気づいたことは、「1)ペルソナの設定」「2)バイヤージャーニー設計」「3)コンテンツテーマ設計」に立ち戻り、修正を行いましょう。
「5)コンテンツ制作と配信」と「6)分析と改善」は、最低でも6ヶ月、理想は1年以上繰り返します。1年運用すると、コンテンツマーケティングの成果が見えてくるはずです。
成功事例
BtoBのコンテンツマーケティングで成功している事例をご紹介します。
オウンドメディアを立ち上げ、問い合わせ件数約100件を350件超に増加(株式会社関東製作所)
関東製作所は、東京に本社を置き海外に11箇所の拠点を持つ、金属・プラスチックなどの資材や自動化機械の製造メーカー。Webサイトのリニューアルを行い、カスタマージャーニーを設計。オウンドメディアのコンテンツ制作に活用し、カスタマージャーニーに沿ったポップアップや埋め込み機能でコンテンツを配信。年間3件だった新規問い合わせを、年間約100件に増加させることに成功しています。
より間口が広いコンテンツを掲載するオウンドメディアと、『射出成形』といった専門的なコンテンツだけを掲載するオウンドメディアの2種類を運営。
間口が広いオウンドメディアの記事の中で『射出成形』と関連する記事には、『射出成形ラボ』の記事へ誘導するポップアップを設置し、その先の記事にはホワイトペーパーダウンロードのポップアップを設置して問い合わせにつなげるシナリオを実行しています。
参考記事:ポップアップ機能をフル活用!マーケティング未経験の「1人マーケター」が、年間の新規問い合わせ件数約100件を350件超に増加させるまで
閲覧コンテンツに合わせたポップアップ施策(株式会社ジェイアール東日本企画)
JR東日本グループの企業として、駅や電車、駅ビルといった公共性の高いコミュニケーションゾーンを活用するだけでなく、Webやマス広告といった各種媒体を駆使し、広告主が抱えるマーケティングの課題解決に向き合っています。
「キクコト」は、広告の様々な課題、お悩みを解決に導く、”効く”広告のソリューションサイト。広告施策における様々な課題解決のヒントとなるコンテンツを発信し、コンテンツを閲覧した訪問者を、無料オンライン相談やお問い合わせにつなげる仕組みになっています。
例えば、交通広告の記事を閲覧しているユーザー限定で、交通広告の特価情報を案内するなど、ニーズとタイミングに合った適切な情報をポップアップで配信。きめ細やかなシナリオ設計とコンテンツ配信を行った結果、リリースから約1年で100社以上のオンライン相談の実績、2.5倍のリード件数(オンライン相談、資料請求、メール相談、セミナー等)を獲得しています。
参考記事:「0からのスタートで100社以上のオンライン相談を実施!コロナ禍で自社インバウンドマーケティングを始めたjekiの「SATORI」活用術」株式会社ジェイアール東日本企画
「そのうち客」「いますぐ客」と顧客を分類してコンテンツと接触方法を、シナリオを描いて実施(SATORI株式会社)
SATORIでは、マーケティング基礎知識やマーケティングオートメーションに関するノウハウをオウンドメディアで発信。マーケティングに関する課題解決型のホワイトペーパーやセミナー・イベントを用意し、見込み顧客や顧客とのコミュニケーションに活用しています。
「そのうち客」が「いますぐ客」に変化していく過程を、マーケティングオートメーションを活用して把握し、ポップアップや埋め込みコンテンツで読者に合ったコンテンツを配信しています。
例えばMAの比較ページと料金ページの閲覧を行っているなど、導入を本格的に検討している方には、詳しいSATORIの製品情報を提示し、積極的に商談につなげています。コンテンツマーケティングで重要なのは、いかに自然に必要なタイミングでアプローチするか。資料ダウンロードやセミナーなどさまざまなコンテンツから少しずつ「SATORI」を知ってもらい、興味を持ってもらえるようなコミュニケーション設計を意識しています。このような自然なコミュニケーションはMAツールを使って実現することができます。
BtoBコンテンツマーケティングの現在と展望
2020年~2022年、新型コロナのパンデミックにより、BtoBサービスにおける情報収集などの消費者行動とマーケティング活動は大きく変化しました。
インターネット検索による課題解決法の探索、製品資料の入手、口コミサイトで比較検討、オンライン商談の申し込みなど、従来オフラインで行っていた行動が、オンライン・Webコンテンツに置き換わりました。パンデミックが終焉した今現在も、オンラインでの行動は多く残ったままです。
Content Marketing Institute (CMI)が行った調査(世界全体)で、BtoBコンテンツマーケティングの重要性について、コンテンツマーケティング実施者に尋ねたところ、71%が「前年度より重要度が増した」と答えています。
また、BtoBコンテンツマーケティング従事者の85%が「大きく成功・それなりに成功」していると答えており、日本においても、成果につながる施策であるとの認知も広がっていると感じます。
この流れは2024年以降も続くことが予想され、BtoBビジネスでのコンテンツマーケティングはさらに重要度を増し、より戦略的で洗練された施策となっていくでしょう。
コンテンツマーケティングを実施するには、シナリオ設計などの全体設計が重要となります。導入・施策の見直しを行う前に、“BtoBマーケティングの戦略”を考える上で必要なマーケティングの基礎を学んでみませんか?
「BtoBマーケティング戦略ハンドブック」では、デマンドジェネレーション、インサイドセールス、BtoBマーケティング施策、CRM・カスタマーサクセスにまつわる情報を一冊にまとめています。ぜひご活用ください。
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SATORIマーケティングブログ記事の中から、“BtoBマーケティングの戦略”を考えるうえで必要なマーケティングの基礎やデマンドジェネレーション、インサイドセールス、BtoBマーケティング施策、CRM・カスタマーサクセスにまつわる情報を一冊にまとめました。(全194ページ)
映像コンテンツプロバイダー・化粧品メーカーECでのWebディレクション・マーケティング担当を経て、コンサルタントに。20社以上のオウンドメディア・コンテンツの企画・戦略設計を行った経験を持つコンテンツマーケティング専門家。2018年5月に独立。検索ユーザーに寄り添うコンテンツ設計を得意とする。