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デジタル・ディスラプション~定義の再確認とキャリア戦略

デジタル・ディスラプションという言葉が定着して久しい時代となりました。とはいえ、デジタル・ディスラプションという単語から連想されるイメージとしては、「iPhoneなどスマートフォンのイメージ」あるいは「Appleのような世界的大企業のイメージ」といった特定の分野のみを連想される方が多いのではないかと思います。今回は、そのようなデジタル・ディスラプションの現象について定義を確認するとともに、これまでの歴史や変遷についてご紹介したいと思います。

デジタル・ディスラプションとは~定義の再確認

PayPal創業者のピーター・ティール著 『Zero to One』 によると、ディスラプションとは、元々、シリコンバレー発祥の造語で、「企業が新しいテクノロジーを使用してローエンド製品(低性能・低価格な製品)を開発・改良した結果、既存のハイエンド製品(高性能・高価格な製品)にとって替わる製品を生み出す現象」について描写する言葉でした。具体的には、PCの台頭によって大型コンピューター市場が破壊(ディスラプト)された現象、そしてモバイルがPC市場を破壊した現象を物語るものでした。しかし今では、とにかく目新しいものや、トレンドの最先端をいくもの全てが「ディスラプション」というキーワードで形容されている傾向があると指摘しています。
この傾向は、デジタル・ディスラプションにも当てはまります。Tech Targetの定義によると、デジタル・ディスラプションとは、新しいデジタル・テクノロジーやビジネスモデルによって、既存製品・サービスのValue Proposition(バリュープロポジション)が変化する現象をさすものでした。しかし近年では、最新のデジタル・テクノロジーを使用している製品あらゆるものに使用される傾向があり、この傾向は、従来の「デジタル・ディスラプション」の意味をはき違えているといいます。こうした近年の傾向を把握しておくことで、「ディスラプション」という言葉に無意味に踊らされることはなくなるでしょう。

デジタル・ディスラプションの事例~コダック社倒産にみる既存マーケットプレイヤーの変化

デジタル・ディスラプションに関する例の「アナログカメラ」のイメージ

デジタル・ディスラプションという単語が定着したのはこの数年間ですが、デジタル・ディスラプションの現象自体は、実は1990年代から起きていました。ここでは、古典的事例として米コダック社の事例を紹介しましょう。コダックは、20世紀にはカメラ市場において圧倒的なシェアを占める主要企業の一つでしたが、1990年代後半にデジタルカメラの登場以降、顧客や顧客の期待値の変化に対応し続けることができませんでした。従来のカメラよりも利便性の高いデジタルカメラの台頭により、徐々に顧客の嗜好が変化していきました。一部の企業は、このようなユーザーのニーズの変化をいち早くキャッチし、デジタルカメラの製品開発に注力するようになりました。
ソニー、キャノンが顧客のニーズの変化に対応し、デジタルカメラの開発へと戦略をシフトしていく中、コダックは変化に対応せず、従来のカメラ製品で生き残りを賭けました。次第にマーケットシェアを失うも、コダックは従来の製品にこだわりつづけ、2012年にはついに倒産してしまいました。以降、様々な分野でデジタル・ディスラプションが生じ、多くの業界でマーケットプレイヤーの変化が起きましたが、デジタルカメラの台頭はこのデジタル・ディスラプションの流れを筆頭するものであったと思います。

スタートアップ企業はディスラプターを目標にするべきではない!?

スタートアップ企業にとっては、「ディスラプター」という呼称を得ることにより、世間から注目を集めることができそうな印象を受ける方もいるかもしれません。しかし、『Zero to One』では、スタートアップ企業は無闇にディスラプターになることを目標にすべきではなく、できる限り既存のマーケットプレイヤーと競争をしない分野でのビジネス展開を目標にすべきであると説いています。実際、著者のピーターは、PayPalのビジネス展開において、当時既存のマーケットプレイヤーであったVisaに対し、あえて真っ向から競争しない分野でのペイメントビジネスを展開したことを例に挙げています。
シリコンバレーにおいても、これまで多くのスタートアップ企業がディスラプションという言葉に憑りつかれたかのように、「ディスラプター」になることを目標にしてきました。しかし、本当に新しいサービスを世の中に生み出したいのであれば、既存企業をベンチマークにすること自体が得策ではない、というのがピーターの主張です。一方、日本国内においては「ディスラプション」「デジタル・ディスラプション」いずれも言葉の定義や理解が曖昧である故に、とりあえず知名度を上げるため、ディスラプターの称号を得ることが良いことであるかのように認識されてしまっている風潮があるように思います。しかしながら、「ディスラプター」として既存のマーケットプレイヤーに挑戦を挑むことは、あくまでも戦略の一つに過ぎず、しかも万能策ではないということです。

デジタル・ディスラプション時代のマーケティング担当者の心構え

今更ではありますが、デジタル・ディスラプションという現象自体、現代社会において孤立して生じているものではなく、様々なテクノロジーの発達と密接に関連して生じている現象です。近年のテクノロジー発達の結果、『ワーク・シフト』の著者であるリンダ・グラットンは、現代のテクノロジー社会の傾向として、以前であれば企業内に存在していた中間管理職やミドル層のポジションが業務自動化の結果として消滅し、若手にとってキャリアステップの見えにくい社会になっており、この傾向は今後も続くであろうと指摘しています。そのため若手社員にとっては、自らキャリアを切り開く努力が必要とされる時代になっています。
企業のマーケティング部門やマーケティング担当者としての心構えについては、ユーザーのニーズを正しく理解することが第一であることには変わりません。
いずれにせよ、変化の激しいテクノロジー社会においては、マーケティング担当者には常に最新の情報にキャッチアップすることが求められます。SATORIのイベント・セミナーでは、マーケティングオートメーション領域の最新動向をお伝えすることはもちろん、他社との合同セミナーも随時開催しているため、デジタルマーケティングの最新動向を効率的に把握するのに適しています。キャリアアップを志す若手の方のご参加はもちろん、企業の経営層の方にも広くご参加いただいているイベントです。

<参考文献>
・Peter Thiel and Blake Masters. 2014. Zero to One : Notes on Startups, or How to Build the Future. United States: Crown Business.
・ Definition from WhatIs.com, digital disruption, 2017. [Online]. Available: http://searchcio.techtarget.com/definition/digital-disruption [Accessed: 21- Aug- 2017]
・ Oxford College of Marketing, ‘Digital Disruption: What Is It and How Does It Impact Businesses?, 2016. [Online]. Available: http://blog.oxfordcollegeofmarketing.com/2016/02/22/what-is-digital-disruption/ [Accessed: 21- Aug- 2017]
・Daniel Franklin. 2017. Megatech: Technology in 2050: Work and the rise of machines, edited by Lynda Gratton, pp. 187-194. United Kingdom: The Economist.

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