マーケティング担当者なら、誰もが「ファネル」という言葉を耳にしたことがあるはずです。
このマーケティングファネルの仕組みを理解することで、より効果的な施策が打てるようになるかもしれません。
この記事では、マーケティングファネルの基礎から活用法、さらには近年のファネルの実用性に関する評価を交えて解説していきます。
1.マーケティングファネルとは
まずはマーケティングファネルについての基本を、しっかりと身につけていきましょう。
1.1 ファネルに関する基礎知識
ファネルとは、「漏斗(ろうと・じょうご)」のことでこれが認知から購入にいたるまでの購買行動を示す形にそっくりなことから、「マーケティングファネル」という用語として使われています。
1.2 各段階について
マーケティングファネルのもっとも基本的なものは、次のような段階を踏んでいきます。
○認知→興味・関心→比較・検討→購入
このように、なぜ逆三角形となるのでしょうか。
自身の購買行動を考えてみましょう。
たとえばある小説を知った場合でも、必ずしもその小説を購入するとは限りません。調べていくうちに購入する必要はないと思ったり、他の小説と比べてみて買うのは止めようとなるかもしれません。
つまり一般的な購買行動は、基本的には最終ステップの購入までに少なくなっていきます。100人に認知されたとしても関心を保つのは60人、比較検討に進むのはさらに少なくなって30人・・・そして最後まで買う意志が残った場合のみ、購入にいたるという形になるのです。
マーケティングファネルは、こうした消費者の購買にいたる心理プロセスを表したものといえるのですが、ここからマーケティングに関する他のモデルを思い出さないでしょうか。
そう、「AIDMA(アイドマ)」です。マーケティングファネルはまさにこのAIDMAをもとにして生まれたモデルなのです。
なお近年は、AIDMAにとって代わり「AISAS(アイサス)」「DECAX(デキャックス)」という別のモデルなども提唱されています。それを反映してマーケティングファネルも購入を最終ステップにするのではなく、購入後の行動も含めたモデルが提唱されています。購入後の行動とは、共有のことを指し、「シェア」や「体験の共有」などが含まれています。
2.実際の活用方法
ここまでマーケティングファネルの知識についてお伝えしてきました。マーケティングに携わる方にとって気になるのは、「これをどう活かせばいいの?」といった点でしょう。この章では、それについてみていきます。
きちんとしたファネル分析を行うことで、どのフェーズの消費者に対しての施策を見直すべきなのか、重点的に施策を仕掛けるべきはどの過程なのかが明確になります。
これはWebページの遷移を例にとれば、わかりやすいでしょう。
興味を持ってランディングしたページでの離脱はあまり発生していないものの、次に閲覧したサービス紹介ページで急激な離脱の増加があったとします。つまりはこのサービス紹介ページに問題がある、ということです。その要因がページの作りなのか、サービス内容そのものなのかをさらに分析し、改善ポイントを探っていきます。
またフェーズごとで、消費者心理の移り変わりについても併せて分析することで「ペルソナ」作りに活かすことができます。
ペルソナがわかれば、それに適したタッチポイントが見えてきます。
タッチポイントごとでさらに、ペルソナをもとにしたコンテンツの出し分け、あるいはターゲットを絞ったメール配信といった、いっそう質の高い施策の実現にもつなげていくことができます。
なお、BtoBでファネルを活用する場合には、大きく「マーケティングフェーズ」と「セールスフェーズ」に分けることができます。
マーケティングオートメーション(MA)ツールは、マーケティングフェーズ側でナーチャリングや見込み顧客の状況把握に有効となります。
関連記事:マーケティングオートメーション(MA)で何ができるの?基本と機能・導入をわかりやすく解説
3.ファネルの3つの種類
ファネルには、大きく3つの種類があります。それぞれについて見ていきましょう。
3.1 パーチェスファネル
パーチェスファネルは、前章で紹介したAIDMAをもとにした、もっとも基本となるマーケティングファネルです。
もとになった消費者行動モデル「AIDMA」と関連づけて考えられることが多く、AIDMAのステップである「Attention(認知)→Interest(関心)→Desire(欲求)→Memory(記憶)→Action(行動)」に対し、現状おこなっているマーケティング施策により獲得した数をあてはめていきます。これによりステップごとの状況が可視化できるようになります。
可視化のあとに、Action(行動)までの過程のどこで消費者が購入にいたらず、離脱をしているのかを分析していきます。そうすることで、ファネルの一番下にあたるもっとも狭い部分である「購入」を広げるためにはどうしたらよいか、施策の見直しを図れるようになります。仮に「比較・検討」で数が大きく減少しているとなった場合には、比較コンテンツが不足していると考えられますので、そこを重点的に改善していくといいでしょう。
まとめると「ステップごとの消費者行動を可視化して、漏斗の狭い部分を把握する」「そこをできるだけ広げることを考える」というのが、パーチェスファネルの考え方です。
3.2 インフルエンスファネル
インフルエンスファネルは、購入後の行動を可視化したものです。
「継続」「紹介」「発信」の順に、数が増えていく三角形の図となります。
インフルエンスファネルは口コミやレビューといった、インターネット上での消費者の発信力の高まりとともに誕生したモデルです。
こうした口コミやレビューといったものは、SNSによりいっそう消費者の発信力を強くし、現在のデジタルマーケティングはSNSの存在を抜きには語れなくなりました。そうした背景もあり、インフルエンスファネルはより注目が高まりました。
それぞれのステップを、「リピート」「ファン化」「共有と拡散」といった表現にすると、SNSと関連ができてイメージがしやすいでしょう。
インフルエンスファネルの成り立ちを、消費者行動の変化と合わせて少し詳しく見ていきましょう。
具体的には、「AIDMA」から「AISAS」という消費者行動モデルが変化したことに関係があります。
AISASは、インターネットの普及により生まれた消費者行動モデルです。流れは「Attention(注目)→Interest(関心)→Search(検索)→Action(行動)→Share(共有)」です。実際の購入ステップとなるAction(行動)の前にSearch(検索)、後ろにShare(共有)が入るのがAIDMAとの大きな違いです。
それまでのパーチェスファネルでは、「購入」をしたらそれで終わりでした。しかしインターネット上の口コミやレビュー、さらにSNSにより、購入者のその先の行動も見据えることが大切になってきました。こうした購入後の行動に重点を置いたのが、このインフルエンスファネルです。
イメージとしては、「購入」までをおこなってくれた消費者が、実際に商品を使って「良かった」と感じた後に、口コミやSNSで広めていってくれます。そうした共有する行動により、その商品やサービスが新たに別の消費者の目に触れていくことになります。これにより、大きな宣伝効果が期待できるというわけです。
なおSNSが広く普及してきた今の状況では、単純に商品やサービスへの言及だけではなく、「フォロー」や「シェア」、「いいね!」といった共感による広まりも重要となっています。
このように直接の購入ではなく、「その商品やサービスにどういったイメージを持ってもらいたいか」「紹介をしてもらえるか」といった顧客側を主体にしたモデルが、インフルエンスファネルです。
3.3 ダブルファネル
パーチェスファネルとインフルエンスファネルを組み合わせたのが、「ダブルファネル」です。
パーチェスファネルとインフルエンスファネルのふたつを組み合わせることで、いったん細くなった部分をまた太くしていくイメージです。
この形は、パーチェスファネルとインフルエンスファネルのふたつを統合することで、認知度や購入率、継続率などをあげていこうという考え方を示しています。
ダブルファネルの成り立ちは、次のようなものです。
もともとのパーチェスファネルは、購入までのプロセスとして変わらずに存在するものです。一方で消費のコミュニケーションの主体が企業から個人に移ってきた現代において、必要不可欠なモデルとなったインフルエンスファネルを組み合わせることで、相乗効果が期待できるのではないか。そうした考えで生まれたのが、ダブルファネルです。
ダブルファネルの形は、購入したらそこでおしまいではなく、その顧客がファンになり、口コミやSNSなどでさらに新しいファン層をつくっていくという流れを示します。
このように企業が購買者に提供する良質な顧客体験、そこから生まれるのが顧客育成効果です。それにSNSや口コミを使った情報伝達から派生する、潜在顧客開拓効果を組み合わせます。この両方による相乗効果を、「ダブルファネル効果」と呼びます。
4.ファネルの考えは古い?
近年、「ファネルという考え方は古い」「時代にあっていないので役に立たない」といった声も聞かれます。最後にこのことについても、触れておきたいと思います。
4.1 消費行動のさらなる変化
ファネルにはもともと、「一直線型の購買モデル」「顧客行動の最大公約数」といった問題がありました。つまり非常に単純化された、画一的なモデルであるというネガティブな評価があったわけです。
現実の消費者の購買行動は多様で、必ずしもこうした画一化されたモデルにあてはまるわけではないというのが、ファネルを否定する考え方の根本にはあります。
近年はいっそう購買行動や心理が多様化しているため、ますますファネルは時代にそぐわないといった声が強くなり始めています。
たとえばGoogleは現代の検索、購買行動の実態を「バタフライサーキット」というモデルで提示しています。
これはあるユーザーが車の情報を探していたら、そのまま旅行やグルメ情報を探し出すといった検索行動を指します。そうした検索行動がいったん終わっても、しばらくした後にまた再開をして、結局は車の買い替えをするといった購買行動を取ります。つまり行ったり来たりを繰り返す、一直線型ではないモデルが現在のユーザー行動というわけです。
さらにこのモデルでは、対象となる商材や年代により行動に大きな違いが出るという調査結果も報告されています。こうした多様で複雑な購買行動は、最大公約数の反映であるファネルではとても説明がつかない、というのも頷けるところです。
さらに商品やサービスについても、シェアリングやサブスクリプションといったものが多くなり、モノの購入ではなく「体験の提供」へとシフトしてきています。基本的には購入をゴール(ダブルファネルの場合では重要な起点)としているファネルでは、こうした新たな提供形態もカバーしきれないといった問題も存在しています。
4.2 BtoBでは今も高い価値あり
ただし先に述べたことは、基本的にはBtoCでの話です。
BtoBでは依然として、マーケティングファネルは有効なモデルといえます。
たとえば企業が会計システムの入れ替えを行うといった場合に、会計システムを探していたのがいつの間にかビルメンテナンスの会社を探していた、といったことはまずないでしょう。
バタフライサーキットのように絶え間なく興味や関心が移っていき、それが実際の検索行動に結びついていくという行為は、ビジネスの現場ではあまり起こりません。
そう考えると、BtoBは一直線型で最大公約数のモデルに近い実態があるといえるのです。
BtoBはBtoCに比べて複雑といわれますが、それは関与者や決定過程における協議の多さ、さらに決定要因が複雑なことから言われるものです。一方で購入までのプロセスだけを考えると、シンプルといえます。加えてBtoCの購入とは違い、情緒的な思考が入る余地が少ないことも、ファネル型が有効になる要因といえます。
BtoBのマーケティングでは「カスタマージャーニー」もよく利用されますが、マーケティングファネルはそれよりもシンプルに各プロセスを見ることができるツールです。
そのため購買プロセスの全体像を把握したい場合には、マーケティングファネルの方がより有効といえます。
5.まとめ
最後にマーケティングファネルの重要ポイントをまとめておきましょう。
まずマーケティングファネルのもっとも基本的な考え方は、「認知→興味・関心→比較・検討→購入」というプロセスを示すものです。これはAIDMAがもとになっていて、「パーチェスファネル」と呼ばれるモデルです。
次に消費者の発信力の高まりとともに、AISASをもとにした「インフルエンスファネル」というモデルが登場しました。これは購入後の、消費者側の情報発信を示します。
さらにパーチェスファネルとインフルエンスファネルを統合し、相乗効果を生み出す「ダブルファネル」というモデルも存在しています。
このようにファネルには、大きく三つの種類が存在しています。
ファネル分析を行うことで、「どの段階に問題があるのか」「それぞれの段階で打つべき施策は何か」といったことが掴めるようになります。
一方でファネルは現代の購入行動には合っていないといった意見もありますが、BtoBでは今なお有効なモデルです。カスタマージャーニーに比べ、全体像を把握するためのツールとして価値があります。
現代の複雑化したマーケティングに携わっていると、往々にして思考が混乱したり、取るべき施策や判断に迷いが生じることがあります。
そんな時には全体を把握できるファネルを活用して、情報と考えを整理してみるのがおすすめです。