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2021.12.27

ビジネスリーダーにとってストーリーテリングが必須スキルである理由

ビジネスリーダーにとってストーリーテリングが必須スキルである理由

本記事は、2021年8月までGoogleのストーリーテラー兼プロダクトマーケティングマネージャーを務め、現在は独立して多くの企業にストーリーテリングを活用したビジネス戦略構築支援をしているTucker Bryant氏に語っていただいた。

はじめに

専門分野の知識、決断力、自信―これらの優秀なリーダーの特徴は、あまりにも有名なので繰り返すまでもないでしょう。リーダーが論理的思考や創造的思考を持ち合わせていることに加えて、ビジネスを成功に導く最も貴重なスキルの一つとして、「優れたストーリーを語る能力」があります。

ストーリーテリングは、ビジネスにおいてミクロレベルからマクロレベルまで様々なシーンで効果を発揮します。これらを踏まえてストーリーを考える術を学ぶことは、リーダーとしての影響力を最大化するために最も重要です。

ミクロレベルでは、プレゼンテーション、セールストーク、日常会話のすべてにストーリーが必要になります。これらのシチュエーションにおいて、ストーリーを効果的に使う方法を学ぶことで、聞き手に望ましい変化をもたらす能力がはるかに高くなります。マクロレベルでは、自分達のビジネスのパーパス(存在意義)を説明するために、またチームを社内の事業戦略に沿ってまとめ上げるためにストーリーテリングを使うことが有効です。

では、なぜストーリーで考えるアプローチがリーダーにとって必要なのか、簡単にご説明します。

ストーリーテリングで複雑さを解消

製品やサービスは、お客様の課題や悩みを解決するものです。しかし、複雑な製品アイデアを、顧客がすぐに理解または賛同できる言葉で伝えるのは難しいことです。ストーリーを通してビジネスアイデアや製品の特徴を提示することで、ターゲットとなる顧客に、製品と関連付けてもらいたいコンセプトや感情を効率的に伝えることができます。

ストーリーテリングの手法の1つである「アナロジー」とは、視聴者がすでに慣れ親しんでいる概念と複雑なアイデアを関連付けることで、そのアイデアを単純化できるものです。アップル社はアナロジーの力を2000年代半ばの有名なコマーシャル「Mac vs PC」で実証しました。このCMシリーズでは、Macはカジュアルな服を着た、ハンサムで自信に満ちた陽気な若者に擬人化されているのに対し、PCはスーツを着た、本好きで堅苦しい男に擬人化されています。

ここでのアナロジーは、Macをコンピュータの「クールな男」と表現しており、他のPCの競合製品と比較した場合、Macはそんな役割を難なく果たしているということです。アップル社は自分たちの素晴らしさを表現する手法として、アナロジーの手法を用いました。こうすることで、競合製品が行っていた、技術的な機能のリストを並べるアプローチと差別化することができたのです。いかにストーリーテリングが彼らの主張を伝えるための強力な手法であるかということがよくわかります。

ストーリーテリングは信頼の構築につながる

お客様は、製品やサービスに対してお金だけを支払っているわけではありません。「信頼」をもって支払っているのです。特にBtoBの世界では、お客様は、組織全体に影響を与えるソリューションであっても、ビジネスにプラスの変化をもたらすと信頼できる場合にのみ投資を行います。お客様が製品を購入するための前提条件である信頼は、ブランドコンセプト、そしてそのミッションがなぜ顧客に信頼されるものなのかという、企業が発信するストーリーによって築かれます。

Airbnbは、個人が所有する家や部屋を、顧客が短期滞在用に予約できるプラットフォームとして知られています。これは、彼らの製品が何をしているかを示すシンプルな説明です。しかし、Airbnbのビジネスが存在する理由について、彼らが掲げるミッションによると「コミュニティマーケットプレイスを通して、世界中の何百万もの人々の実生活を繋ぐーこれにより、どこにでも所属できるようになります。」という、もっと志の高いストーリーがあるのです。

Airbnbの主力サービスは確かにミッションを実現していますが、このミッションはより幅広いサービスを展開しても信頼してもらえるようなコンセプトを持っています。これらのアプローチの結果、新サービスとして訪問者のアプリから現地のツアーやイベントなどに参加できるようにした「Airbnb Experiences」を発表した際、ユーザーはAirbnbが高品質なサービスを提供してくれると信頼することができました。これは、Airbnbのブランドの目的である「グローバルコミュニティの訪問者がどこにでもいられるように支援する」というストーリーと一致しているからです。

Airbnb Experiencesの画面イメージ

ストーリーが行動を促す

セールスやマーケティングへの応用だけではなく、ストーリーテリングは戦略を立てたり、チームでビジョンを共有することにも役立ちます。

戦略とはシンプルに考えると、リーダーがビジョンを実現する方向に聞き手を向かわせるために必要なものになります。戦略を説明するために使用するストーリーは、リーダーが部屋を出た後、聞き手がそのビジョンを実現するための一歩を踏みだすことを確実にするものなのです。戦略的ストーリーには、チームのビジネスシフトを促すために必要な3つの要素があります。またこれらの3つの要素は、セールストークやプレゼンテーションの場でも活用できます。

コンフリクト(対立・衝突・葛藤)

物語が「昔々あるところに‥」で始まるとき、「しかし、ある日‥」という言葉がどこかしらで続いて登場することがよくあります。このフレーズは、ストーリーに「コンフリクト(対立・衝突・葛藤)」が発生したことを意味します。戦略的ストーリーも同じやり方です。会社の組織、マーケティングアプローチ、オペレーションの戦略的な変化を提案しようとしているのであれば、その変化が必要であると自覚するような出来事(コンフリクト)があったはずです。戦略的ストーリーを語る上でまずやるべきことは、そのコンフリクトを聞き手のために描くことです。そうすれば、聞き手は製品やサービスを提案される前の段階で、変化が必要であるという結論に達するでしょう。

インサイト(洞察)

ビジネスに問題があること、あるいはチャンスのある分野があることがわかったとします。さて、何をすべきでしょう?次に紹介するのは「インサイト」です。これは、先ほど説明した問題を解決するために、戦略が示すクリエイティブなアプローチです。インサイトをストーリーに組み込む際に重要なのは、その独自性を伝えることです。ストーリーが聞き手の社内検討に耐え、印象に残るようなインスピレーションを与えるためには、そのアプローチが、これまでに試された、あるいは試される可能性のある他のソリューションとは異なる、独自のものでなければなりません。

ポッシビリティ(可能性)

戦略的ストーリーの最後には、提案した内容が実行された場合、どのような変革を聞き手にもたらすことが可能なのかを描くことが必要不可欠です。もちろん、これを効果的に行えば、提案したソリューションが追求する価値のあるものであることを、聞き手に確信させることができます。しかし、より重要なのは、描き示した可能性が聴衆の心にインスピレーションをもたらすということです。そのインスピレーションは聞き手の心に根付き、商談が終わった後もずっとゴールに向かって進んでいくことでしょう。

まとめ

以上を踏まえると、CEOから営業担当者、エンジニアまで組織におけるあらゆる人々が、優れたストーリーによって自分達の仕事に与える影響を理解することで、きっとより良いパフォーマンスを発揮できるようになると言えるでしょう。仮に上記の内容が読んでいただいている皆さんに当てはまらなかったとしても、私が心からお伝えしたいのは「ストーリーテリングはただ純粋に楽しい」ということです。今度、チームや組織、顧客を巻き込んだ戦略的な目標達成を目指す際は、是非いつものやり方から一歩離れて、こう考えてみてください。「伝えたいストーリーは何だろう?」と。

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