マーケティングリサーチ(市場調査)とは、マーケティングにおける意思決定に役立てるために行う調査・分析などの活動です。商品やサービスの開発や顧客満足度の把握、CMやキャンペーンの効果測定などを目的として、様々な手法で実施します。
この記事ではマーケティングリサーチの手法や具体例、実施手順などについて、基本的な事柄を分かりやすく解説します。
マーケティングリサーチ(市場調査)とは
マーケティングリサーチ(市場調査)は、企業が商品・サービスを提供するにあたって顧客(市場)の「考え」を組み込むために行う調査・分析活動のことです。
マーケティングリサーチの目的とは
マーケティングリサーチの目的は、一言でいえばマーケティング活動における意思決定を支援することです。商品・サービスの開発や自社の知名度調査、実施したキャンペーンの効果測定や顧客満足度の把握といった多様な目的のもとに調査・分析を行い、得られた結果をその後の施策に活用します。
マーケティングリサーチの方法と具体例
リサーチの方法はさまざまで、状況にあった方法を選ぶことが重要です。たとえば、50-60代向けの商品開発のためのニーズ調査にインターネットでのアンケート調査という手法を用いると「インターネットが得意な50-60代」という目に見えないセグメンテーションが入り、正しい結果が得られない場合があります。リサーチを実施する対象や採用する手法の特徴を理解し、適切な調査を行いましょう。
マーケティングリサーチの具体例
- 商品・サービスの認知度を調査するため、想定ターゲット顧客層を対象としたアンケート調査を行う
- 商品の改善点の洗い出しを目的として、ホームユーステストやグループインタビューを実施する
- 顧客満足度を調査するため、アンケートや郵送調査を行う
※マーケティングリサーチの具体的な手法については、本記事の後半で解説します。
マーケティングリサーチの種類
マーケティングリサーチは、定量調査と定性調査の二種類に大別することができます。
明確な数字をもとに傾向を調べるなら「定量調査」
定量調査とは、人数や金額、割合(パーセンテージ)といった数字で表現できるデータ(定量データ)を収集・分析するタイプの調査です。広い範囲を対象として実施することで全体的な傾向を把握できるため、市場の実態把握や施策実施前の仮説検証などに用いられることが多いといえます。
特定のテーマについて掘り下げるなら「定性調査」
定性調査は定量データのように数値化するのが難しい情報(定性データ)を収集・分析するもので「商品・サービスの使い勝手」や「自社に対する印象」といった感覚的な情報を扱います。定量調査だけでは把握しづらい、「価値観」や「印象」といった情報を集められる可能性があり、特定のテーマについて掘り下げた調査を行いたい場合に利用されます。
マーケティングリサーチ手法
マーケティングリサーチには、主に以下のような手法があります。
種類 | 手法 | 内容 |
---|---|---|
定量調査 | アンケート調査 | インターネットや書類(郵送や該当アンケート)を使って顧客に質問を行い、回答を集計して分析する手法。実施が簡単、かつ低予算で行える調査方法として、広く利用されている。 |
定性調査 | グループインタビュー・座談会 | 顧客・消費者を一か所に集めてインタビューや討論を行う手法。企業側から質問を投げたり、参加者同士で討論してもらい、意見を収集する。 |
定性調査 | 面接法(デプスインタビュー) | 調査員と対象者が1対1で対面してヒアリングする手法。質問項目はあらかじめ決めておき、回答を調査員が書きこんでいく。対面ならではの信頼関係構築のしやすさから、アンケートでより深いニーズを読み取ることが可能。 |
定性調査 | 覆面調査(ミステリーショッパー) | 調査員を雇用し、顧客として店舗などを訪問してもらい調査する手法。 |
マーケティングリサーチの手順
マーケティングリサーチは、基本的には以下のような流れで進めます。
ステップ1)目的を明確にする
ステップ2)調査計画をたてる
ステップ3)調査実施
ステップ4)データの分析
ステップ5)意思決定
以下、順に解説していきます。
ステップ1)目的を明確にする
はじめに、マーケティング上のどのような課題解決を目的としてリサーチを行うのかを明らかにしておきます。というのも、既に述べたように目的によって調査対象や用いるべき手法などが変わってくるためです。
リサーチの目的が新商品開発のための市場調査なのか、既存顧客への満足度調査なのか、あるいは商品に関する改善点の洗い出しなのかといったことを可能な限り具体化した上で、関係者間で共有意識を持てるように明文化しておくことをお勧めします。
ステップ2)調査計画をたてる
リサーチの目的が明らかになったら、次は調査計画の立案です。具体的には、1.仮説の立案、2.調査対象や手法・調査項目の決定、3.スケジュールの具体化というステップで進めます。
以下、順に説明していきましょう。
1.仮説の立案
まず、ステップ1)で明確にした目的を踏まえて仮説を立案します。はじめに仮説を立てることで「どのような調査を行えばよいか」が見えてきます。
2.調査対象・手法・調査項目の決定
次に、立案した仮説に基づいて、調査対象や採用する調査手法、具体的な調査項目などを決めていきます。たとえば、商品の売れ行きが思わしくなく、改善点を洗い出すのが目的ならば、「なにが原因で売れていないのか」について仮説を立てたうえで、その仮説を実証するためには誰に対してどのような調査方法を採用すればよいのかを考えるのです。
調査対象の選定は、調査手法と並ぶ重要なポイントとなります。基本的には、新商品開発に先駆けた市場調査や商品の認知度調査などを行う場合は見込み顧客層、既存の商品やサービスの使い勝手や改善点の把握、顧客満足度調査などが目的であれば既存顧客(ユーザー)層がターゲットとなります。
課題例 | 課題に対する仮説 | 調査対象 | 調査手法候補 |
---|---|---|---|
新商品の開発にあたり、市場性を確認したい | 本製品は日本全国の20-30代女性に受け入れられるはずである | 20-30代女性 | アンケート(インターネット/郵送) |
既存商品のオプションプランの成約率が悪い | 解約が増えている、クロルセルがうまくいっていない | 既存顧客層 | グループインタビュー/座談会 |
最近リリースした商品の売れ行きが思わしくない | 商品が売れないのは、十分に認知されていないためである | 見込み顧客層 | アンケート(インターネット/郵送) |
なお、調査に用いる具体的な項目についても、この段階である程度に詰めた上で、アンケートであればアンケート項目、グループインタビューや座談会であれば「インタビュースクリプト」などに落とし込んでおきましょう。 調査項目の決定にあたっては「回答しやすさ」を意識する必要がありますが、その一方で、「自社にとって都合のよい回答」に誘導するような設問設計にならないよう注意することも大切です。
3.スケジュールを具体化する
最後にスケジュールを具体化します。採用した手法によって必要な準備が異なりますので、そのあたりも踏まえて現実的なスケジュールを立てましょう。
たとえば、調査手法としてインターネットアンケートを採用するのであれば、調査対象リストや回答用フォームを準備しなくてはなりません。グループインタビューを実施する場合は、会場や設備を整えたり、参加者に連絡を取ったりする必要があります。
スケジュールを具体化する過程で、こうした「やらなければならないこと」がより明確になり、準備の抜け漏れを防ぐことができます。グループインタビューのようにリアルタイムで実施される形の調査では、実施当日の進行表なども作成しておくとよいでしょう。
ステップ3)調査実施
ステップ2)で立てた計画に沿って、実際に調査を行います。
アンケートのように開始から終了までにある程度の期間を要するものは、適時状況を確認し、何か問題が生じていた場合は迅速に対処しましょう。
グループインタビューのように参加者を集めて実施するタイプの調査では、実施当日に思わぬトラブルが起こる可能性もあります。あらゆる状況を想定して準備を整えておきましょう。
ステップ4)データの分析
調査期間が終了したら、収集したデータを整理・分析します。
「リサーチ」というと実施の部分がメインのように思われがちですが、実はこの分析のフェーズが非常に重要な役割を果たします。
データというのは、ただ集めただけではあまり役に立ちません。集めたデータをさまざまな切り口で分析することで、データに潜む「意味」が見えてくるのです。データ分析の手法には、回答を単純に集計する単純集計、複数の回答を掛け合わせて集計するクロス集計、平均値の算出、中央値の算出、時系列の変化を見るトレンド分析などさまざまなものがありますので、目的に応じてうまく使い分けましょう。
なお、定性データの場合は集めた回答を一つひとつ詳しく確認していくことになりますが、個々の回答の内容を分類してナンバリングすることで、定量的に分析するやり方もあります。
ステップ5)意思決定
データ分析の結果を踏まえて、意思決定を行います。この際、調査結果が当初の目的を果たせているかを検証することが大切です。
ステップ2で立てた仮説を検証するのに十分な結果が出ていない場合は、再度リサーチを実施するという判断もありうるでしょう。一度実施したリサーチをもう一度やり直すのは手間も時間も費用もかかりますが、不十分な調査結果を施策に組み込む方が、はるかにリスクが高まります。
リサーチをやり直す場合は、仮説の内容は正しかったのか、調査対象選定は適切であったか、より精度の高い回答を得られるような設問設計はないか…といった視点で計画を見直すとよいでしょう。
マーケティングリサーチの活用事例
以下、マーケティングリサーチの具体的な活用事例を2つご紹介します。
事例1)アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶の商品開発にマーケティングリサーチを活用(アサヒビール株式会社)
2021年4月に発売開始された「アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶」。通常の缶ビールに比べて天面が大きく開いており、生ジョッキでビールを飲んでいるような感覚を味わえる点が特徴の製品です。
アサヒビールはこの商品の開発に際し、商品名の決定から缶の形状の検討まで、様々な局面でマーケティングリサーチを活用。Webアンケートによる合計11回の定量調査と4回の定性調査を行い、かつ消費者のリアルな感想を確認するために1対1で行うデプスインタビュー形式での定性調査を行いました。結果、同商品は発売直後から売り切れが続出し、販売停止に踏み切らざるを得ない程の高評価を得たそうです。
>>参考記事:「アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶」 大ヒットを確信させたマーケティングリサーチの舞台裏:「n=1」から始める深いインサイト発見 – ITmedia マーケティング
事例2)開局50周年記念企画の方向性検討にマーケティングリサーチを活用(FM大阪)
開局50周年を迎えるにあたり、記念企画の方向性検討にマーケティングリサーチを活用。
現リスナーと潜在リスナーの双方をターゲットとしてWeb調査とグループインタビューを実施し、FM放送に対するニーズを探るとともに、番組に対する要望をヒアリングしました。
得られた分析結果をもとに社内の仮説を検証し、よりFM大阪らしい番組編成を検討することができたそうです。
>>参考記事:ワークショップを行ったことで社員が自分事として会社の未来を考え、リサーチ結果を”血肉”とすることができました。 | 企業インタビュー | リサーチ・市場調査なら株式会社ネオマーケティング
まずは簡単なことから始めよう
以上、この記事ではマーケティングリサーチの概要から具体的な手法、実施の手順を解説しました。
調査や分析といった作業にはそれなりに手間や費用がかかるため、「マーケティングリサーチは大変!」と躊躇している方もいらっしゃるかもしれません。しかし、自社の顧客やWebサイト訪問者、セミナー参加者を対象としたアンケート調査など、比較的手軽に始められるリサーチも少なくありません。Twitterの投票機能など、SNSサービスが提供するツールを活用して調査を行うこともできます。
なにより、リサーチによって実態を把握した上で施策を展開することにより、失敗や手戻りといったリスクを回避できるのは大きなメリットです。まずは自社にできる身近なところからはじめて、「データに基づいて意思決定する」という習慣作りに取り組んでみてください。
この記事が気になる方へ!おすすめの資料はこちら
システムエンジニア/フリーライター/BtoBマーケターの3つの顔を持つワーキングマザー。
BtoB商材を扱うIT企業に在籍し、課題解決ブログの立ち上げ・SNS活用を始めとしたコンテンツマーケティングの導入に取り組んだ経験を持つ。
ライターとしては20年を超える経験を有し、『小さな会社のAccessデータベース作成・運用ガイド』(翔泳社)をはじめ、プログラミング関連の著書多数。
現在はIT企業にてシステム評価に携わりつつ、IT、マーケティング分野を中心に精力的に執筆活動を展開中。