マーケティングの知見が「経営の持続性」を高める

語り手
神戸大学
経営学研究科長 南 知恵子 氏

製造業の世界で「サービス化」が加速する中、多くの企業が経営・事業戦略の転換を求められています。しかし、市況が著しく変化し、商談や展示会などの営業・マーケティング施策にも制約が課される中では、どのように戦略を再考すればよいのでしょうか。製造業のサービス化の第一人者である、神戸大学 経営学研究科長 南 知惠子氏にお話を伺いしました。

マーケティングの知見が「経営の持続性」を高める

製造業の世界で求められる「顧客価値」とは

「モノからコトへ」という言葉が象徴するように、顧客が「モノを製造する企業」側 に求める価値は変化してきたといわれています。具体的にどのような点が変わってきているのでしょうか。

南氏 かつて製造業といえば「QCD」(Quality, Cost, Delivery)の改善が重要テーマとなっていました。しかし、ここ数年は「顧客価値」という言葉が浸透してきており、各社の課題感も変化している印象です。技術力や高品質といった強みだけでは、市場の競争に勝つことができない時代を迎えている、とも言い換えることができます。

例えば、BtoB向けの製造業であれば、製品自体の改善よりも、「顧客に対してどのように価値提案をするのか」「どうすれば価値を提供できるのか」という視点が重要視され始めています。製品単体の技術や品質を売り込むというより、製品をコンポーネント化・システム化すること。つまり、製品とサービスを組み合わせて提案することで、顧客価値を生み出す動きが増えている、ということです。

こうした変化によって顧客側の企業が得られるメリットは、「意思決定レベルが上がる」ことです。「搭載された機能は十分か」「性能が基準を満たしているか」、ということだけではなく「経営課題や業務課題の解決につながるのか」というところまで踏み込んだ意思決定を行いやすくなってきています。 このように、顧客側の企業にとってソリューションの提供を受けることには大きなメリットがあります。それらを一言で表現すると、「顧客価値が重要視されている」ということになります。

ITソリューションやクラウドサービスに提供する企業の場合にも、機能の豊富さではなく、「お客様の課題にどう寄り添うか」まで踏み込んで提案しなければ響かない時代だと感じます。

南氏 まさにそうですね。「それを購入、導入することで何ができるのか」「どんな成果に繋がるのか」という視点がなければ、なかなか価値を感じてもらえないわけです。

以前、製造企業のマネージャークラスの数十名を対象にアンケートを行ったことがあります。そこで「ソリューション提案の何を価値と感じるか」という設問では「固定費が下がること」「非生産的なダウンタイムが削減されること」といった回答を多く得られました。ここまでは想定通りだったわけですが、意外だったのは「イノベーションや新しいアイデアが得られること」という回答が他の回答よりも多く得られたことです。

今までにない、新しい何かを求められているというような傾向があるということですかね。

南氏 どの企業も、自社のリソースには限りがあります。だからこそ、足りない部分を取引先やパートナーに求めているのではないでしょうか。自社の強みや既存製品の売り込みをされるよりも、「次はこういったニーズが増えてくる」「こんな技術トレンドがある」というように、新しいアイデアや革新的な価値が求められていると感じます。

「サービス化」の本質は ”付加価値づくり ”から ”デジタル変革” へ

製品の機能や性能以上の価値を提案する上では、何らかの付加価値が求められると思います。近年耳にすることの多い「サービス化(サービタイゼーション)」という言葉も関連性があるのでしょうか?

南氏 製造業のサービタイゼーションについては、近頃その意味合いがだいぶ変わってきたように思えます。以前は製品とサービスを組み合わせて顧客への提供価値を向上させることを「サービタイゼーション」と呼ぶこともありました。しかし、近年はDX(デジタル変革)について語られる時に「サービタイゼーション」という言葉が登場するケースが増えてきています。

 例えば、IoT。センサーを通じて収集したデータをリアルタイムで分析することで、異常検知や故障予測も可能になりました。また、製品を提供する側からすると、製品メンテナンスやアフターフォローを製品とセットで提供することも可能になります。こうしたときに「製品のサービス化」が話題に挙がります。

 このサービス化が進展すると、サービス単体で販売も可能となります。例えば、デジタル制御にAIを活用し、絶え間なくアップデートやパフォーマンスの向上を繰り返すようなサービスも登場しています。その段階までサービス化が進展すると、最適な収益モデルも変わってきます。サブスクリプション(定額課金)や、従量課金も加えたリカーリングなど、様々なビジネスチャンスが出てきます。

 一方で、一度で何千万円、何億円といった収益を得るのではなく、月単位で収益を得るようになれば、ビジネスモデルや組織制度など、営業・マーケティング体制の根本から考え直さなければいけません。 つまり、サービス化を推し進める過程では、組織全体に広く影響を及ぼすわけです。

サービスの変化が、企業全体の変化につながる可能性がある、というわけですね。そうした変化を踏まえて、製造業の営業・マーケティング部門では、どういった対応が必要でしょうか。

南氏 まず、営業部門からすると商流が変わる可能性が出てきます。製品にセンサーをつけて、そこから得られたデータをもとにコンサルティングサービスを行うようになれば、販売代理店との関係性も再考が求められます。“代理店との関係を維持するのか、代理店を介さず直接顧客に提案するのか”、こうしたことを決めるためにはマーケティング戦略上の意思決定が必要でしょう。製品の品質や技術力だけではクリアできない課題がいろいろあるわけですね。

営業やマーケティング部門の方々に求められる役割も変わってくるという事ですね。お客様に対する理解という意味では、何か視点の変化が求められるのでしょうか。

南氏 お客様も製品のことだけでなく、業界全体の状況や他社事情を知りたいわけですよね。マーケティングでは本来、「市場の全体感を把握する力」と、その市場を細分化してどう攻めるかといった「発想力・想像力」が求められます。昨今はデータ分析やデジタルマーケティングのスキルも重要視されていますが、やはり高い視座からマーケティング戦略を描くことが企業の競争力を左右すると考えています。

マーケティングの知見を活かすことが、経営の持続性につながる

近頃、オフラインでの経済活動も再開しつつありますが、コロナ禍では製造業各社もオンラインでの営業が必須となっていました。対面の商談や展示会の出展が困難な状況では、どのような考えのもとで営業活動を進めればよいのでしょうか。

南氏 昨今は展示会をバーチャル化する取り組みも進んでいます。この状況は「リアルの展示会よりも制約が増えた」と捉えるのではなく、「価値の伝え方が変わった」と捉えるべきではないでしょうか。

例えば、バーチャル展示会でVR/ARといった技術を用いれば、これまでは物理的に会えなかった海外の顧客に対しても、製品の使い方を伝えることができます。そういった意味では、これまでになかった新しい機会が生まれているわけです。

製造業各社の社内でも、これまでと違った働きかけが求められそうです。営業やマーケティング部門がバーチャル展示会などの新たな機会を最大限生かすために、どのように社内を巻き込めばよいでしょうか。

南氏 マーケティングを担う部門では社外の様々な情報に触れる中で、新たな気付きやアイデアが生まれてくることもあるでしょう。しかし、製造・技術部門の方が急にそれを聞き入れてくれるかというと、そう簡単ではありません。だからこそ、マネジメント層が主体的にマーケティングにまつわる情報共有の場をつくることが重要です。

例えば、マーケティング上で得られたデータや知見、成果をイントラネットで共有したり、部門を越えていつでも見られるような場所に情報を置いたり、という方法があります。まずは情報を見える化していくことが、組織全体を前に進める一つのアプローチです。

最後に、DXやマーケティング課題感を持つ製造業の方にメッセージをお願いします。

南氏 製造業の経営者の方とお話しすると、「マーケティング」という単語は出てこなくても、言葉を言い換えればマーケティングの話をしていることが多々あります。自社が次に狙う市場はどこで、どんな価値を提供するのか。そういったシナリオを描くことは、まさにマーケティングそのものです。

企業経営や事業推進にマーケティング的な発想が必要だからこそ、これからマネジメント層を目指す方にこそマーケティングの考え方を学んでいただきたいですね。市場を俯瞰する能力や、新たな市場を想像する能力を持った人材が増えれば、企業の競争力も向上していくはずです。

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