ディスラプション時代のマーケティング戦略について、海外の事例を用いてご紹介します。前回の記事、デジタル・ディスラプション~定義の再確認とキャリア戦略においては、デジタル・ディスラプションの定義や歴史、そしてテクノロジー社会におけるキャリア戦略についてお話ししました。今回は、より具体的なマーケティング戦略についてご紹介します。
ディスラプション時代のマーケティング戦略
McKinsey Global InstituteのJacques Bughin氏は、既存マーケットプレイヤーが後発企業によるディスラプションにいかに対応すべきかについて、『ハーバードビジネスレビュー』で紹介しています。同氏によると、ディスラプション時代のマーケティング戦略においては、(1)プラットフォーム戦略、(2)新しいマーケットを創出する、(3)新しい製品を生み出す、の3つの戦略が重要です。主要産業における既存マーケットプレイヤーの収益のうち、毎年約半分は、デジタル・ディスラプションの影響を受けて新規参入企業に持っていかれるようになるといい、約3分の1の既存マーケットプレイヤーは、デジタル・テクノロジーの変化に対応できず淘汰されていくといいます。このようなデジタル・ディスラプションが頻繁に起こりうる状況下では、既存マーケットプレイヤーは、単に価格競争に参戦するのではなく、攻めのマーケティング戦略を実施していかなくてはなりません。以下、3つの戦略について具体的な事例を交え解説していきます。
(1)プラットフォーム戦略
既存マーケットプレイヤーがプラットフォームを持つことにより、業界における相対的な力を高めていくケースが往々にしてあります。プラットフォーム戦略を用いることで、企業は業界全体のバリューチェーンを見直し、顧客とのコミュニケーションを円滑に行うこともできます。また、業界のネットワーク自体からメリットを得られる点も大きな魅力です。 例えば、アコーホテルズは、ホテルのオンライン予約プラットフォームを提供することで成功した事例です。
Source: Accor Hotels.com, credit: www.accorhotels.com
尚、顧客とのコミュニケーション構築については、当然ながら、一人ひとりのユーザーを理解する姿勢が必要不可欠です。
(2)新しいマーケットを創出する
約13%のマーケットプレイヤーは、デジタル・テクノロジーを駆使し、新しい分野でサービスを創出し、収益を上げています。例えば、H&MやIKEAは、リサイクルサービスのプラットフォームを提供しており、顧客は自らリサイクル商品の売買を行うことができます。
以下、海外版H&Mのオンラインサイトです。2013年に同プラットフォームを開始以降、32,000トンにも及ぶ衣類をリサイクルしていると書かれています。(2017年8月現在、日本のH&Mではオンラインサイトで同様のプラットフォームは展開していませんが、H&M店頭の衣類回収ボックスでは、常に古着回収を行っているようです。詳細はH&Mウェブサイトをご参照ください。)
Source: H&M Group, credit: about.hm.com
一方、IKEAのリサイクルサービスは、国・地域によって様々な形で展開されています。フランス・ベルギーのIKEAでは、『Second Life for Furniture』というプログラムを展開し、不要になった製品を店頭に持ち込むことで、IKEAの商品券と交換できるようにしています。また、イギリスでは『Reverse Vending Machine』と称し、使用済みの蛍光灯を回収するプログラムを実施しています。
2016年12月時点での調査結果によると、IKEAグループでは、現在80%の家具・製品をリサイクルしており、2020年までにこの数値を90%まで伸ばすことを目標にしています。また、IKEAグループでは毎年30億ユーロをサステナビリティ分野に投資してしており、リサイクルや医療分野におけるバイオマテリアル、森林保護といった分野に配分しています。
日本市場向けには、『家具下取り・還元サービス』と称し、フランス・ベルギー等と同様のリサイクルサービスを実施しているようです(2017年8月現在)。
Source: IKEA, credit: www.ikea.com/ms/ja_JP/
(3)新しい製品を生み出す
最新のデジタル・テクノロジーを、これまでデジタル対応していなかった製品・サービスに適用することで、新しい製品を生み出すことも欠かせない視点です。例えば、P&G’sの『オーラルB (最先端電動歯ブラシ)』は、歯ブラシとBluetoothを組み合わせ、新しいニーズに対応しています。
Source: Braun OralB, credit: www.oralb.braun.co.jp/ja-jp
注意点:コストパフォーマンスを重視しすぎるのはNG
Jacques Bughin氏によると、デジタル・ディスラプション時代において約半数の企業は、コストパフォーマンスを重視してデジタル施策を選択しているといいます。しかし、成功している企業というのは、実際のところコストパフォーマンスよりも、新しい製品や顧客のことを重視しているものです。マーケティングチャネルとしてとりあえずデジタル活用を進めることや、既存商品のパッケージを変更すること、コストパフォーマンスを重視して施策を選択するなどの守りの姿勢に入るのではなく、新しい製品・新しい顧客に目を向けなくてはなりません。
しかしながら、プラットフォームを有する企業が多数存在する中で、この点をわきまえている企業はごく一部であると同氏は指摘しています。本記事でご紹介した3つのマーケティング戦略を上手く実践することで、後発企業によるディスラプションを上手くかわせるようになる可能性が高まります。
一方、コストパフォーマンスを重視しながらも、顧客のニーズ理解を重視したOne to Oneマーケティングの実施をめざす場合には、マーケティングオートメーションの導入を実施するなど時代の流れに沿った工夫が必要です。SATORI紹介セミナーでは、経験豊富なスタッフが、各企業様のご状況に応じて適切なアドバイスをさせていただきます。自社のマーケティング戦略にお悩みの方は、ぜひ一度足を運ばれてみてください。
参考文献
・Jacques BughinNicholas and Van Zeebroeck, ‘6 Digital Strategies, and Why Some Work Better than Others’, 2017. [Online]. Available: https://hbr.org/2017/07/6-digital-strategies-and-why-some-work-better-than-others [Accessed: 25- Aug- 2017]
・Jessica Hullinger, ‘Ikea Wants You To Stop Throwing Away Your Ikea Furniture’, 2017. [Online]. Available: https://hbr.org/2017/07/6-digital-strategies-and-why-some-work-better-than-others [Accessed: 25- Aug- 2017]
・Robin Nierynck, ‘IKEA reports 88% recycling and recovery rate’, 2016. [Online]. Available: http://www.letsrecycle.com/news/latest-news/ikea-reports-88-recycling-and-recovery-rate/ [Accessed: 25- Aug- 2017]
この記事が気になる方へ!おすすめの資料はこちら
グリー株式会社、複数の外資系企業を経て、独立。海外企業におけるデジタルマーケティング施策の戦略立案を得意とし、日本市場へのローカライゼーションを幅広く手がける。スタートアップ企業のブランドマーケティングにも関心があり、デジタルマーケティング支援を広く行っている。慶應義塾大学法学部卒。