Cookieレス時代のデジタルマーケティング

Jefferson Araujo (SAS デジタルマーケティングソリューション部長)

本記事は、SASラテンアメリカのデジタルマーケティングソリューション部長として活躍される Jefferson Araujo氏に語っていただいた。

はじめに

デジタルマーケティングの分野では、独自のチャネルやサードパーティのメディアチャネルで消費者にパーソナライズされた体験を提供するためにサードパーティCookieが使用されてきました。しかし、そのサードパーティCookieが段階的に廃止されるという大きな課題に直面しています。将来を見据えたデジタルマーケティング戦略を確立するために、さまざまな取り組みを行い、この新しい時代で成功する方法をご紹介します。

そもそもCookieとは?      

Cookieとは、ユーザーがさまざまなWebサイトにアクセスする際に、ユーザーのWebブラウザに追加されるコードのことです。ログイン情報、ロケーション設定、カートの中身など、過去のインターネット上の行動の記録がCookie情報に含まれるため、よりカスタマイズされたユーザー体験を提供できます。

マーケティング活動の中では、現在以下のような状況でCookieデータを活用しています。

  • ユーザー設定の保存
  • ユーザーの行動記録
  • 行動ターゲティング
  • 広告のリーチ&フリークエンシーの追跡/管理
  • コンバージョントラッキングとアトリビューション
  • リマーケティングとサイトリターゲティング
  • ターゲティングとセグメンテーション

Cookieの主な種類とその違い     

基本的に以下の2種類のCookieが存在しています。

ファーストパーティCookie (1st party Cookie)

ユーザーが現在アクセスしているドメインと同じドメインの下に保存されます。つまり、ユーザーがexample.comにアクセスしている場合、このドメインの下に保存されているすべてのCookieは、ファーストパーティCookieとみなされます。このCookieは通常、ページ間でユーザーを識別したり、選択した設定を記憶したり、ショッピングカートを保存したり、その他の行動に使用されます。今現在、ファーストパーティCookieを使用していないウェブサイトはほとんど見られません。

サードパーティCookie(3rd party Cookie)

ユーザーが現在訪れているドメインとは別のドメインに保存されます。サードパーティCookieは主に、Webサイト間でユーザーを追跡し、Webサイトやソーシャルメディアで、より関連性の高い広告を表示するために使用されます。

参考:Setupad.com. 2022. 7 Types of Internet Cookies | Everything You Should Know | Setupad. 

サードパーティCookieの段階的廃止とその影響     

サードパーティCookieの段階的廃止

今後デジタルマーケティング業界に大きな影響を与えるとされるサードパーティCookieの廃止について2021年に大々的に報じられると、デジタルマーケティング担当者の懸念は顕となりました。

SafariやFirefoxなどのブラウザでは、すでにサードパーティCookieの使用を段階的に廃止していますが、最も大きな影響を与えるのはGoogle Chromeでしょう。なぜならば、世界で最も広く使用されているブラウザがGoogle Chromeだからです。

各ブラウザの使用率

Google Chromeも、サードパーティCookieを段階的に廃止する計画があります。しかしながら、GoogleによるCookie廃止は市場を混乱させる恐れがあることや、Google自身も廃止した場合の代替案をまだ確立できていません。そのため、Googleは、サードパーティCookieを廃止する期限を、当初予定していた2022年1月ではなく、2023年後半に変更しました。下記に、その理由についてのGoogleによる声明を掲載します。

Googleからの声明

出典 : Lyden, C., 2022. Google pushes back plan to block third-party cookies until 2023. ‐Search Engine Land.

ここで重要なのは、Cookieの概念が完全になくなるわけではないということです。Webサイトの管理者は、ファーストパーティCookieを引き続き活用することができます。そのため、これからのマーケティング活動はサードパーティCookieではなく、ファーストパーティのデータ収集に重点を置くように進化する必要があります。

サードパーティCookieの段階的廃止による、マーケティング活動への影響があるか?

サードパーティCookieの廃止は、パーソナライゼーションや新規顧客獲得といったシーンで影響を及ぼします。Cookieの変更によって最も影響を受けるのは、ユーザーが個人情報を企業に開示していない初期の段階です。現在マーケターは、ユーザーがWebサイトを閲覧し、デジタル広告に接触し、Webサイトに戻ってきたときに、ユーザーを識別するため、Cookieを使用しています。

Cookie廃止の影響を受けるフェーズをマーケティングファネルの図で表すと、サードパーティCookieの段階的な廃止によって影響を受けるのは、以下の通りです。

マーケティングファネル図


出典: Wijenayake, M., 2022. The Ultimate Guide to Marketing Funnels.‐ Business 2 Community.

サードパーティCookieの段階的廃止に関するもう一つの重要な事実は、世界中でデジタル環境に関する新しい法律や規制が増えていることです。以下にその一部をご紹介します。

各国のプライバシー保護法

出典: Medium. 2022. Is our digital privacy lawfully protected ?.

注目すべき重要な見識の一つは、「デジタル関連法の認知度はそれほど高くなく、44%が『法律があることは知っているが、詳細は知らない』と答えたのに対し、『デジタル・プライバシー関連法を知っているか』という質問に『はい』と答えたのは28%しかいなかったことです。」– BlockSurvey

出典:Medium. 2022. Are people aware of Digital Privacy?.

調査結果からも、世界中の企業はデジタル環境に関する新しい法律や規制をもっと意識する必要があります。

法律をきちんと理解することで、ユーザーに関する重要な情報と引き換えに、ユーザーにとってよりよいカスタマー・エクスペリエンス提供できるようになり、また、すべての顧客データを管理するための正しい方法を提供することにもなるからです。

データの可視化について

もう一つの興味深いデータは、将来のデータの可視化についてです。Dall Int.社の「The cookieless era – introduction. Let’s start with the basics!」という記事によると、「サードパーティCookieが使用できなくなることで、2021年に可視化されていたデータのうち、驚くべきことに80%が2022年にはアクセスできなくなる」とのことです。

それでは、2019年にeMarketerが行った下記の調査を参考に、世界のデジタル広告費について簡単にご説明します。デジタル広告はサードパーティーのクッキーに依存しております。全世界のデジタル広告費の市場は巨大であり、グラフの通り2023年までの5年間で約1. 8倍になると予想されています。サードパーティCookieの廃止は収益と広告費に確実に影響を与えるでしょう。

世界デジタル広告費

出典: Insider Intelligence. 2022. Global Digital Ad Spending 2019.

では、マーケターが複数チャネルを駆使して顧客とのエンゲージメントを構築するために使用する主なチャネルは何かを見てみましょう。

マーケターの使用する主なチャネル

出典: Insider Intelligence. Global Digital Ad Spending 2019.

上の図を見ていただくと、マーケターが利用するチャネルのほとんどが広告チャネルに関連していることが分かります。もうひとつ興味深いのは、Google自身が調査を行った結果、サードパーティCookieがない場合、広告主のインプレッションにおけるデジタル広告収入が52%減少すると結論づけていることです。今後、市場やマーケターの考え方が大きく揺らぐことは間違いないでしょう。

Cookieレス時代のマーケティング     

では、Cookieレス時代に台頭する新しい手法はあるのでしょうか?

cookieレス時代に台頭する手法とは

サードパーティCookieの代替技術は数多くありますが、サードパーティCookieが使われているすべての事柄に対応する特効薬はありません。現在、Googleが開発している新しいプライバシー・サンドボックス※の機能を活用して、下記のようなサービスが展開されています。

LiveRamp (RampID)、The Trade Desk (Unified ID 2.0)、MediaWallah (Identity Resolution Startup)などのUniversal Identifierから、FLOC (Federated Learning of Cohorts)やFLEDGE (First Locally-Executed Decision over Groups Experiment)などのPrivacy Sandbox Proposal     

※プライバシー・サンドボックス:サードパーティのCookieを使用せずにオンライン広告を促進することが可能になる

参考:En.axeptio.eu. 2022. FLoC and FLEDGE, two acronyms to replace third-party cookies on Chrome.

また、企業は、顧客との対話、エンゲージメント、データ収集の方法を戦略として再構築することに注力すべきです。以下のように3つのステージに分けて、ご紹介します。ヒントとなるプランをご紹介します。

短期的アクション

クローズド・プラットフォーム(ウォールドガーデン)との付き合いを継続

・クローズド・プラットフォームで提供されるファーストパーティCookieに基づいて広告を出稿し、ターゲットオーディエンスやルックアライクオーディエンスを構築することで、見込み顧客や既存顧客の個人情報に直接アクセスすることなく、関連性の高い広告を継続的に訴求することができます。

・留意すべきは、クローズド・プラットフォームを使って消費者を特定し、ターゲットにすることはコストがかかるということです。また、ウォールドガーデンを利用する企業が増えるとともにインプレッション数が有限であることから、出稿に必要な価格が高騰するため、コストはさらに高くなるでしょう。

コンテクスト広告は手段の一つになり得る

・パブリッシャーが公開しているキーワードやトピックに基づいて広告を購入し、ページの文脈に基づいてウェブサイトをパーソナライズすることで、サードパーティ・クッキーに頼らずに見込み顧客や既存顧客に広告を配信することができます。

異なる識別子の消失や、人工知能や機械学習の発展により、コンテクスチュアル広告は時代遅れではなくなり、再び増加傾向にあります。

中期的アクション

質の高いデータ収集手法の導入

・     ユーザーから明示的に提供されたデータや、消費者と接触し直接収集したデータなど、質の高い顧客データを収集することで、貴重な顧客の潜在ニーズにアクセスでき、行動に移すことが容易になります。

消費者の同意を得ることが第一

・消費者との信頼関係を構築し、データの収集と使用方法について透明性を確保することで、顧客との関係を強化し、プライバシー規制が進化し続ける中で自社ブランドを守ることができます。

・ユーザー追跡に関する最近の法律やアップデートが示すように、顧客データの収集には自発的な合意を得ることが標準となっています。合意に基づくデータ共有を標準にしているブランドは、政府やテクノロジー企業が打ち出す次の一手が予測しにくい状況に備えることができます。

顧客に早めに認証してもらうようにする

・消費者にできるだけ早く自社のブランドを認識してもらうことで、包括的な顧客プロファイルを作成する前でも、より適切で効果的なカスタマー・エクスペリエンスを提供することができます。

・同意を得ることと同様に、消費者に認証を行う理由を示すことが重要です。特別なプロモーション、インセンティブ、ロイヤリティ・プログラムはすべて、早期認証を促す優れた方法であり、製品、サービス、コンテンツへの特別なアクセスを提供することも同様です。

長期的アクション

自分自身のマーテックスタック※を見てみる

・カスタマー・エクスペリエンスを支えるマーケティング・テクノロジーを活用することで、業界の変化に対応するために必要な運用体制を確立し、投資収益を最大化することができます。

※マーケティング部門が活用すべきテクノロジーを体系化したもの

アイデンティティはコアでなければならない

・自社の顧客を正確に把握することで、カスタマー・エクスペリエンス戦略を最も強固な基盤の上に構築することができます。

テスト、測定、そして最適化

・今後の変化を先取りし、次の変化に備えることで、避けられない調整が必要になったときに、慌てて戦略を更新する必要がなくなります。

参考 

Dall. 2022. The cookieless era – introduction. Let’s start with the basics! – Dall.

Davis, K., 2022. For e.l.f. Beauty, customer data is the currency of their digital ecosystem. -MarTech.

SmartBrief. 2022. A 5-step path to cookieless digital marketing.

DMG – Digital Marketing Group. 2022. What Does a Cookieless Future Mean To Digital Marketing – DMG – Digital Marketing Group.

Kamble, A., 2022. Marketing in a Cookie-less World. -MarTech Series.

Hilson, S., 2022. How Transparent Digital Marketing builds lasting customer loyalty. Rock Content.

PROFILE

Jefferson Araujo

SAS デジタルマーケティングソリューション部長

SAS ラテンアメリカのデジタルマーケティングソリューション部長としてカスタマーインテリジェンス分野に携わる。過去にはAdobe社でもデジタルエクスペリエンスやマーケティングテクノロジー分野で活躍し、Accentureなどの大手企業でコンサルタントとしての経験も持つ。
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