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【専門家解説】インサイドセールスはデジタル化にどう対処すべきか海外における最新事例

インサイドセールスのデジタル化

本記事は、Google セールスイネーブルメント 本部長であるTheo Davies氏に海外の事例を交えながら、今インサイドセールスの担当者が直面している課題とその対策について語っていただいた。

はじめに

みなさんは、ハリウッド映画の『トロン: レガシー』をご存じでしょうか。この映画は、一部で熱狂的な支持を獲得しました。冒頭、逃亡中の主人公サム・フリンのもとに、友人のポケベルが受信したという不思議な番号についての情報がもたらされます。(ポケベル、みなさんは覚えていますか?)それは20年前から使われていなかった番号で、まさに彼の父親が失踪した時期と重なりました。サムは、古びたゲームセンターの中で秘密の通路を発見します。そして次の瞬間、ついさっきまでいた世界からデジタル化された世界に自分がいることに気付きます。

映画「トロン: レガシー」

作中、サムは自分がそれまで知っていた世界に似ているようで、実はまったく違う「デジタル世界」に身を置くという状況に直面しますが、これは、インサイドセールス担当者が今まさに身を置いている環境と言えます。この状況を、タイの露店でよく目にするTシャツの文句を取って「Same same, but different!」(「同じようで、違う」「だいたい一緒」などの意味)と表現してもいいかもしれません。

私たちは今、ここ数年間で浮き彫りになった数々の課題に直面しています。そこで今回は、インサイドセールス担当者が直面している最も大きな課題を3つご紹介しながら、その対策を探っていこうと思います。

1.状況の変化

セールスモデルの変化

 spotio.comの2022年のレポートによると、営業担当者の割合は、フィールドセールスが71.2%であるのに対し、インサイドセールスは28.8%でしたが、デジタル化の加速とパンデミックの影響で、事実上フィールドセールスの多くがインサイドセールスへと移行しました。これがきっかけでフィールドセールスと営業領域が被ったインサイドセールスは人員過多の状態になり、担当者はお互いにターゲットである意思決定者の関心を引こうと必死にアプローチをかけ競争が激化する結果となりました。意思決定者のもとには、営業担当者からのメールやSNSのつながり申請、メッセージや電話といったコンタクトがこれまでの量の何倍も届くようになりました。

また、2020年のMcKinseyのレポートによると、BtoBのセールスモデルも変化し、96%の意思決定者がGTM戦略(Go-to-market戦略:企業が新製品を投入する際に計画するアクションプランのこと)を変化させているとしています。下の図からGTM戦略の変化が見て取れます。

新型コロナウィルスによるBtoBセールスモデルへの影響

これに加えて、インサイドセールス担当者の不安をさらに煽っているのがAIの躍進です。ボットや定型文メール配信のオートメーション化などの分野で活用が進むAIは、人よりも優秀な仕事ぶりを発揮するようになってきており、インサイドセールス担当者の仕事を徐々に奪い始めています。Salesforceによる最近の「State of Sales Report」(営業分野における状況レポート)によると、営業部門のマネジメント層は、リード数や成約率、全体での営業パフォーマンスを向上させるためのAIの導入が他のどのテクノロジーよりも速く進むだろうと予測しています。また、2019年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』に掲載されたMcKinseyの記事によると、AIがマーケティングとセールスの分野で1.4〜2.6兆ドルの価値を生み出すと推定しています。

参考:https://www.mckinsey.com/business-functions/mckinsey-analytics/our-insights/most-of-ais-business-uses-will-be-in-two-areas

このような状況下でもインサイドセールスが成果を出す秘訣とは

Salesforceでトップレベルの売上を持つ担当者と話して、分かったことがあります。この担当者は、設定されている目標をコンスタントに達成できているのですが、成功の秘訣は、他の営業担当者や、ボット、AIなどといったデジタルとの差別化を図ることでした。このように、カスタマーケアや顧客との関係構築(LINEやWhatsAppなど、ソーシャルメディア上でのつながりも含む)に、求められている以上の時間と労力を投入することがカギとなります。また、ターゲットとする業界への知識や関連性を深めることも重要なポイントです。

2.顧客とつながりつつも断絶された世界

デジタル化によって、私たちはGoogle MeetやZoom、ソーシャルメディアを通じて人と簡単につながることができるようになりました。しかし、インサイドセールスが最も重要視する「顧客とつながる方法を見出す」という点では、状況はさらに厳しさを増しています。

企業に電話して意思決定者と話すという従来の手法は、完全に過去のものになりました。今、意思決定者はオフィスにはいません。意思決定者は在宅で仕事をしており、携帯でしかアプローチできない状況になっています。たとえ、電話を受け取ってくれるスタッフがオフィスにいたとしても、「門番」のような役割を果たすスタッフのため、意思決定者の携帯の番号までは教えてくれません。

ここで、Oracleのあるインサイドセールス担当者の例をご紹介しましょう。この担当者は、目標として設定されているアポイントメント数(主要な指標となるもの)が、過去2年で20〜30%減少したと考えています。1日の目標架電数は50、目標メール送信数は60ですが、現在ではかろうじて達成できるレベルにまで落ち込んでいると話します。この担当者は、80人のメンバーの中で常にトップ5に入るほどの人物ですが、この担当者ですらもこのように危機的な状況を肌で感じているのです。

新型コロナウィルスによりDXは身近に迫っている

電話がつながらない中でも営業担当者としてできることとは

ただ、このような状況下でもよい結果につながったものがあります。Oracleのこの担当者の場合、自身が送ったSNSのつながり申請やメッセージに、意思決定者が夕方から夜にかけて返信してくることに気付きました。そこでSNSをうまく活用し、スマートかつクリエイティブに働くことにしたのです。

この行動を裏付ける数字がHubSpotから公表されています。このレポートによると、ソーシャルメディアを活用した営業手法であるソーシャルセリングを用いる営業担当者の65%が案件獲得から受注するまで推進できているのに対し、活用していない担当者は47%しか推進できていません。また、OptinMonsterによると、多少なりとも利害の衝突があるものの、ソーシャルメディアの活用に積極的な営業担当者の78%が、同僚よりも高い実績を上げることができているといいます。

Oracleのケースでは、このほかにも、相手の役割やその業界に関連したケーススタディ、最近のニュースや財務報告に具体的に触れるなどしてメール内容を相手にカスタマイズしたものにすることで、返信率を大幅にアップさせることができました。また、独自性をもったボイスメールも効力を発揮しました。しかし、最終的に最も重要だったものは、WebスクレイピングツールであるSalesloft、Zoominfo、LushaやTriggrを使って相手の携帯番号を取得することだったと言います。

3.インサイドセールスは孤独だが、今やさらに孤独に

数年前、ポッドキャストのインタビューで、私はインサイドセールスを「孤独な場所」だと表現しました。インサイドセールス担当者には、「同じ船」に乗っているチームを除いては一緒に働く仲間はいません。彼らにあるのはオフィスのデスクやパソコン、電話だけでした。そして今、コロナ禍によりオフィスがなくなり、チームや仲間も意識できる状態でなくなってしまいました。

あるトップのテクノロジー企業を一例にとると、この企業は、アジア全土をカバーしていたインサイドセールスチームをリモート勤務へと移行させました。この企業のインサイドセールスチームはシンガポールに拠点を置いていましたが、そのオフィスを閉鎖し、チームメンバーがそれぞれの出身国から在宅で勤務する体制へとシフトさせました。このようなケースは、インサイドセールスやその他出社し直接会うことが仕事をする上で必須ではないチームにおいては、アジアに限らず世界中で見られます。(もちろん、インサイドセールスが実際は企業収益に欠かせない要素であることは言うまでもありません。とは言え、AIに取って代わられるまでは、の話ですが。)チームが顔を合わせて仕事をしなくなったことで、チームで一緒に食事をしたりインセンティブ旅行をしたりする機会は、キャンセルや延期となりすべて失われました。

これは、担当者のパフォーマンスに悪影響を及ぼします。オフィス勤務では、上司が常に自分の近くにいることになります。これを苦手と感じる人もいますが、在宅になり、上司の目が届きにくくなると、担当者がついつい「羽を伸ばしすぎ」て努力を怠ってしまう可能性もあります。これは最終的には、自分のインセンティブを損なう結果につながってしまうかもしれません。

加えて担当者をさらに孤独にしているのは、企業のオフィスに電話をかけても電話を受け取ってくれるスタッフが少ないか、あるいは全くいないという状況です。また、ターゲットとなる見込み顧客がオフィスにほとんどいないということも、担当者の孤独感に拍車をかけています。先週私は、Oracleのある担当者から「固定電話にかけても無駄だ。受付ですら受話器をとってくれない」と打ち明けられました。このように、何時間にもわたって誰ともまったく会話できないという状況は、孤独感をさらに募らせる結果になります。

これに関連して私が思い出すのは、カリフォルニアの太陽のもとで訪問販売をしていた日々です。その頃、家々を回っても在宅している人はほとんどいなかったため、一日中誰とも話さないことも多くありました。しかし今では逆に、多くの人が家にいます。結果、以前私が勤めていた企業では、14年間破られることのなかった私の販売記録が、昨年、3人の担当者によって更新されました。

リモートでもチーム力を発揮するには

最近、トップレベルのインサイドセールス担当者の1人が、リードを獲得する方法として「短期集中型の架電キャンペーン」を実施したことを私に教えてくれました。このキャンペーンは、1か月のうちのある1週間だけ集中して、オンライン上でリード獲得数を競い合うというものです。また、チームレベルでモチベーションを保つために、コスプレのイベントも取り入れています。チームは交代で週ごとにコスプレのテーマを決め、ベストドレッサーに選ばれた担当者には賞も授与します。モチベーション維持のためには、このようなクリエイティブな発想は非常に重要です。これに加えてさらに重要なのは、個人のレベルでもモチベーションを維持することです。

ここで、おすすめの本を2冊ご紹介しましょう。シャド・ヘルムステッターの『なぜ、あの人はうまくいくのか―自己説得の驚くべき威力』とフランク・ベドガーの『私はどうして販売外交に成功したか』です。どちらも時代を超えた価値のある素晴らしい内容です。今、営業担当者がこのような本を読む重要性はかつてないほど高まってきています。

さらに、仕事の進捗をチェックしあい、仕事の遂行を助け合えるパートナーを持つこと、トップの業績をもつ担当者の仕事をバーチャルで観察して真似ること、ビジョンボードを作成することも、このデジタル社会でモチベーションを維持していくための秘訣です。上司に細かく管理されるマイクロマネジメントが好きな人はいません。しかし、自分の営業活動を上司に詳細に報告すれば、自分の生産性、さらにはインセンティブをも高めることが可能になります。

まとめ

デジタル化は、インサイドセールス担当者やマネージャー、チームが孤独感をますます募らせ、クライアントとつながれないというデメリットをもたらすものになっています。しかし、正しいツール、創造力をもってスキルやテクニックを磨いていくこと、そしてモチベーションをうまく活用することができれば、冒頭でご紹介した『トロン』のサム・フリンのように、デジタル世界を勝ち抜いていくことができるでしょう。

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