マーケティングの基礎知識としてよく登場する4Pという言葉。その意味・ルーツに加え、戦略にどう関わっていくのかまで詳しく解説します。
売り手側の視点「4P」とは
4Pとは、アメリカのマーケティング学者「E.J.マッカーシー」がマーケティング戦略上のフレームワークとして1960年に提唱した「Product(製品)」、「Price(価格)」、「Promotion(プロモーション)」、「Place(流通≒チャネル)」の頭文字をとったものです。
買い手側の視点「4C」とは
4Pは、大量生産・消費社会という時代背景のなかで、提唱されたこともあり、プロダクトアウト型の発想が強くなっていますが、アメリカの経済学者である「R.ラウターボーン」は、今日のように市場が成熟している状況下では、4Pよりもまず、買い手側の視点(マーケットイン)に立って発想することが肝要として、前述の「4P」を買い手側の視点に置きかえた4C(「Customer Value(顧客価値)」、「Customer Cost(顧客が負担するコスト)」、「Communication(顧客とのコミュニケーション)」、「Convenience(顧客の利便性)」の頭文字をとったものです)を提唱しています。
マーケティング戦略を検討・実行していくうえでは、前述の4Pや4Cのそれぞれの整合性に気を配っていくことが重要です。
「4P」戦略について
以下では、4Pのフレームワークに沿いつつ、4Cの視点を含めながら、戦略上の要点について解説します。
Product(製品)戦略
製品戦略は、「製品の特長」、「ブランドの構築・維持」、「保証」、「サービス/サポート」、「パッケージ」の5つの要点に分けて考えることができます。
買い手側の視点である「Customer Value(顧客価値)」からみた場合には、ターゲット顧客の生活上の課題に対して、自社のもつ技術やブランド力を通して、提案できる解決策(価値)を模索することになるでしょう。近年のように、あらゆる業界において急速にコモディティ化が進むなかでは、以下に示す5つの要点について検討する際、顧客価値を最大化するうえで重要な要素は何かといった観点も不可欠といえるでしょう。
製品の特長(quality)
製品の持つ本質的な機能(コア機能)と付随機能、形態をどうするかを決定することです。このうち、コア機能については、消費者には許容できる最低限の品質(水準)はあるものの、コア機能をどれだけ高めても満足度があがることはありません(当たり前品質)。逆に付随機能や形態については、(その機能が)ないからといってすぐには不満につながらないものの、ほかにはない優位性があると大きく満足度があがる(魅力品質)ことが知られています。製品のもつ要素のうち、何がコア機能で何が付随機能かは、競合する製品によって、また、時代の変化とともに変わる顧客の要求水準によっても、変わっていくため、市場の動向や顧客の変化には常に注意を払っておく必要があるといえるでしょう。
【事例解説】 パナソニック社の電動歯ブラシ「ポケットドルツ」は、コア機能である「磨き性能」を維持しつつ、付随機能として、静音性の確保や軽量・コンパクトといった携帯性とともに、ポーチに入れて持ち運びたくなるようなデザインにもこだわることで、ターゲットとした若いOLの昼食後の「ランチ磨き」市場の創造・拡大につなげています。
ブランドの構築・維持(brand)
ブランドに関しては、既存ブランドからのブランド拡張をはかるか、全く異なるブランド名で展開するかといったことを決定していくことになります。既存のブランドを活用しない場合には、どのようなブランド名(ネーミング)とするか、どのようなブランドロゴ(商標など)にするか、といったことも検討が必要になるでしょう。
ブランドとは、消費者の心(頭)のなかにある、商品やサービス、企業に対する評価や態度、イメージといった一連の連想として形作られていくものですから、既存のブランドを活用する場合には、ブランド拡張による効果と、既存のブランドエクイティを毀損するリスクの両面に注意する必要があります。
保証(warranty)、サービス/サポート(service/support)
保証の有無や保証期間の長さ、サービス/サポートの有無や内容は消費者の不安を軽減したり、払拭するうえで重要な役割を担っています。消費者に購入経験がない場合や、多機能で複雑な製品の場合には、不安の軽減や払拭のために保証やサービス/サポートの存在が重要視されます。保証期間の長さは、その製品の信頼性の高さを表すと考えられますが、一方で長期保証やサービス/サポートの手厚さは、より高い機会費用につながることから、製品価格にも影響してきます。保証やサービス/サポートをつけるべきか、どれくらいの保証期間やサービス/サポート体制とするかは、費用対効果を念頭において慎重に判断していく必要があるでしょう。
パッケージング(packaging)
パッケージングは、製品の容器をデザインし、つくり上げる活動のことであり、素材により3つのレベルに分けられます。例えば医薬品や化粧品などの商品のなかには、瓶入り(一次パッケージ)で、箱(二次パッケージ)入っており、輸送段階では複数個のものがまとめて入っていますし、スナック菓子などでは、一次パッケージと二次パッケージを一体的に考えることになるといえるでしょう。これらの検討段階では、パッケージが製品のためにどのような役割を果たすべきかというパッケージ・コンセプトの確立とともに、パッケージのサイズ、形、材質、色、表示文、ブランド・マークなどの要素を決定することになります。
【事例解説】 日本コカ・コーラ社の「い・ろ・は・す」は、軽い力で容易に潰せるペットボトルで独自の体験価値を提供しています。サントリー社の「伊右衛門」は竹筒を模したデザインや触感により、ブランドの世界観を表現しています。
Price(価格)戦略
商品・サービスの価格の設定には、以下にあげるように大きく3種類の方法があります。
コスト基準型
製造・仕入れ原価に人件費や販促費などのコストを積み上げ、一定の利益を加えたものを販売価格とする方法です。シンプルでわかりやすく、確実に利益を確保できそうですが、企業のコスト構造によっては、競合他社に対する価格優位性が築けず、損益分岐点を割り込むことにもなりかねない点には注意が必要でしょう。
競争基準型
自社のコストだけでなく、競合他社の価格帯などの外部環境を考慮して価格設定する方法です。市場価格帯のなかで自社のコストとのバランスを考慮しながら設定する方法が一般的ですが、価格競争を仕掛ける競合他社がある場合には、プライスリーダーとなっている競合他社に追随せざるを得ない場合もあるでしょう。価格競争に巻き込まれる場合には、企業体力が問われることになりますが、ダウンロード販売の普及により音楽CDの売上が激減したように、収益を脅かす代替品が登場するリスクがあることも考慮しておく必要があるといえるでしょう。
マーケティング戦略基準型
外部環境に囚われず戦略的に価格を設定していく方法です。マーケティング戦略基準型の価格設定には、航空運賃やホテルの宿泊料が季節や曜日によって異なるように、需要に応じて価格を変えたり、初回割引や長期継続割引を設けるなどの「価格差別化」と、同じ商品カテゴリー内において品質や付加サービスを変えるなど、希少性やブランドを理由にプレミアム価格を設定したり、逆にまとめ買いやついで買いを誘発するための集客手段として大幅な割引価格とするほか、品質や付加サービスに差をつけて価格差のある複数プランを提示する「プレミアムプライシング」の2つのアプローチがあります。このうち価格差別化は、低価格の時だけ需要が殺到したり、初回割引のみ利用して離反するなどの価格設定による過剰な需要の偏りのリスクを内包しています。一方、プレミアムプライシングには、通常価格に対するプレミアムについて消費者の理解が得らないこともありますし、割引した商品の大量購入による需要の先食いや、低価格志向が強い消費者が集まりすぎることによる収益の圧迫、ブランドの毀損などのリスクがあるといえるでしょう。
なお、顧客が負担するコスト(Customer Cost)の観点からは、これらの価格(経済的負担)以外にも、製品を探したり、購入して実際に入手するまでに要する時間的負担や、購入にあたっての精神的・肉体的負担にも配慮が求められます。通信販売や配送サービスは購入後に自宅まで商品を持ち帰る肉体的負担を、試供品の提供は精神的負担を、それぞれ軽減していますし、Amazonプライムのお急ぎ便などの即日配送サービスは商品を入手するまでの時間的負担を軽減することに、消費者はより高い価値を感じているのではないでしょうか。
価格の設定に際しては、それぞれの設定方法が内包するリスクのほか、顧客が負担する様々なコストとのバランスにも配慮が必要といえるでしょう。
Promotion(プロモーション)戦略
プロモーションとは、消費者の自社や自社製品に対する認知を高めたり、好意的な意識変化や実際の購買につなげることを目的とした一連の活動であり、「広告宣伝」、「広報・PR」、「人的販売」、「セールス・プロモーション(SP)」の4つの取り組みからなっています。
広告宣伝
TV、ラジオ、新聞の3マス媒体や雑誌、インターネットなどを通じて行うプロモーション手法ですが、ターゲット顧客の日常生活のなかで目に留めてもらうためには、「いつ」、「どこに」広告を出すかといった、媒体選択や出稿タイミングの選択が極めて重要です。ターゲット顧客により多く目にしてもらうためにはまず、顧客の行動や趣味嗜好などを深く理解していくことが必要といえるでしょう。また、表現・メッセージの内容によっても消費者の反応は異なることから、広告表現についても十分な検討が求められます。
広報・PR
広報・PRは、様々なステークホルダーとの関係構築や維持、向上を目的としたニュースリリースの発信や新聞・雑誌の紹介記事、各種のイベントなどの諸活動からなっています。エコ消費やフェアトレードなどの、エシカル(倫理的・道徳的)消費、あるいはソーシャル消費が拡がりつつあり、企業としての倫理観や社会問題への考え方や取り組みを積極的に示していくことが求められるようになっています。一方で、消費者を取り巻く情報量は増大し続けており、広告宣伝には反応しなくなっていることからも、認知の獲得や好意的なブランドイメージの形成に向けて、広報・PR活動においても、より戦略的な活用が求められるようになってきています。
人的販売
人的資源を使って営業活動をする双方向のプロモーション手段です。訪問販売や営業活動が該当しますが、双方向であるがゆえ、顧客や仲介業者、小売業者に馴染みがない商品・サービスであっても、説得的コミュニケーションを通じて認知や購買意欲をあげていくことが可能です。ただし、人的資源を投入していくためには、相当のコストを必要とすることから、取り組みにあたっては費用対効果に対する十分な検討が必要となるでしょう。
セールス・プロモーション(SP)
SPは、店頭でのPOPや陳列、潜在顧客へのダイレクトメールや営業部隊・小売店に対するインセンティブ付与など、販売促進に向けた一連の活動です。スーパーや書店などでみられる新商品や特売品の大量陳列や目を引くPOPのほか、陳列棚やウェブのどこに配置するか、といったいわゆる棚割りもSPの一環です。消費者向けのSPは、サンプルやクーポン、キャッシュバック、ポイントプログラムなどの「価格プロモーション」とブランドイメージを高めることを目的とした「付加価値プロモーション」に大別されますが、価格プロモーションは一時的には売上の向上に寄与するものの、長期的には消費者の価格感度の高まりや、ブランドの毀損といったリスクを内包している点には注意する必要があるといえるでしょう。
【事例解説】 「ポケットドルツ」の事例では、ターゲット顧客である若いOLの日常生活のなかで、効率的な露出を実現するため、同じ顧客層を対象とした女性誌への広告の掲載やタイアップ企画を実施するほか、出勤中に目に留まるよう駅構内や電車内にも広告出稿することで認知の拡大を目指していました。また、ランチ磨き市場の創造・拡大に向けて、昼食後に歯磨きの習慣がない層に向けて、日本歯科医師会シンポジウムにより啓蒙をはかるなどの取り組みも行っています。
なお、顧客とのコミュニケーション(Communication)の観点からは、上記の3つの取り組みを通じて、また、市場調査やユーザーからのフィードバックの機会を通じて、潜在顧客との接点の構築や、既存顧客との関係の深化を目指していくことが求められます。また、顧客との直截的なコミュニケーションのほか、FacebookやTwitter、LINEなどのSNSが急速に普及しつつあるなかでは、消費者間の双方向のコミュニケーションである口コミも、製品や企業のブランドに対して無視できないほどの高い影響力をもつようになっています。オンライン・オフラインにおける消費者間の口コミにおけるブランドへの言及内容にも常に注意を払い、適切な対処のあり方について検討しておくことも必要といえるでしょう。
Place(流通≒チャネル)戦略
流通戦略は、商品・サービスを「どこで」提供するかという戦略になります。通常、チャネルの整備には多くのコストを要しますが、高価格少量生産の建売住宅や一部の高級ブランド商品であれば、販売量や額がこれらのコストを十分に賄うことができるため、自社でチャネルを整備して直接販売することで、販売活動の方向づけや管理を容易にしたり、顧客が要求する技術サポートなどのサービスを的確に提供できるなどの利点を享受できます。また、理髪店や美容院、ホテルやレストランなどのサービス業では、消費者が実際にその店舗を訪問しなければ、サービスを受けることができないため、自社によるチャネル整備が理想的ですが、サービスプロセスについて、画一化できる要素が大きい場合には、フランチャイズ方式やライセンス方式などにより、低コストでチャネル整備が進む場合もあるでしょう。しかし、多くの製品がコモディティ化するなかでは、多額のコストを負担してチャネルを整備するよりも、既存の流通業者と関係を構築し、ネットワークを活用する方が、より効率的といえます。ウェブやコールセンター等のチャネルであれば、低コストで構築でき、直接販売の利点を享受できそうですが、顧客の手元に届ける「ラストワンマイル」まで自社で賄うケースはほとんどなく、配送業者等を介して届けることになっている(=既存のネットワーク活用)のが一般的ではありません。
チャネルの要点
チャネルの要点は、顧客が商品・サービスを入手できる場を用意することであり、チャネル設計には次にあげる5つの要素について考慮が必要です。
1.ロットの大きさ(顧客の購買単位)
例えば生鮮食品の場合、単身世帯や高齢者のみ世帯と子どもがいる世帯では、希望するロット(購買単位)は異なっているものと考えられます。業務用の場合には、さらに大きいロットで購入できることが望まれるでしょう。想定する顧客層にあわせて、ロットの大きさを最適化しておく必要があります。
2.待ち時間(商品・サービスを受け取るまでの待ち時間)
通常は、待ち時間はほとんどなく迅速に受け取れるチャネルが好まれます。曜日や時間帯などによる顧客の集中・分散の状況にあわせて、待ち時間を短縮するための取り組みが求められます。
ただし、顧客は必ずしも物理的な時間の長さにより評価を変えるわけではないことから、時間がかかる場合であっても、待ち時間を負担に感じさせないような工夫の余地もあります。
3.空間的利便性(チャネルの利用しやすさ)
物理的な店舗であれば、店舗までの距離の近さや営業時間の長さのほか、通路の広さや商品の探しやすさといった店舗内の買いまわりのしやすさが、ウェブの場合でも、画面の見やすさ(商品の探しやすさ)や購入手続きを終えるまでの画面遷移の状況などが、利便性にかかわってくることになります。
4.製品の多様性(品揃えの幅)
選択の幅が広いほど欲しいものが見つかるチャンスが増えるため、通常、顧客は品揃えが豊富であることを望みます。ただし、あまり品揃えが多すぎても、かえって探しづらくなる場合もあることから、品揃えの多様性と探しやすさとのバランスには、配慮していくことが求められます。
5.サービスのバックアップ(顧客への付随サービス)
配達や取り付け、修繕サービスの提供は顧客のチャネルへの評価につながります。また、サービスのバックアップは、商品・サービス購入に際しての不安軽減や払拭につなげる役割をも担っているといえるでしょう。このほか、顧客に十分な知識や判断力が備わっていない場合には、多様な品揃えのなかから選択するための、何らかのサポートも求められるのではないでしょうか。
顧客の利便性(Convenience)の観点からみても、上記の5つの要素が充実していることは極めて重要であることは言を俟たないでしょう。セブンイレブンが消費者の支持を得て店舗数を拡大してきた背景には、ドミナント戦略により特定の地域に大量出店することで、エリア内の消費者に対して「近くにある」利便性をアピールするとともに、多様なアイテムを揃え、レジで提供できるサービスを拡充することで、ワンストップの利便性をも提供してきたことにあるといえるでしょう。
あとがき
このように4Pそれぞれの概念について、考慮すべきことは多岐にわたっていますが、もっとも重要なことは、冒頭でも述べたように4Pの各要素が互いに矛盾なく整合性をもった状態で実現(マーケティング・ミックス)されていることにあります。マーケティング戦略の検討・立案に際しては、4P個々のバランスを欠くことのないよう、細心の注意を払うことこそが、肝要といえるでしょう。
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・1995年:財団法人生命保険文化センター 入社
・2003年:筑波大学大学院ビジネス科学研究科経営システム科学専攻修了(経営学)
・2004年:株式会社ニッセイ基礎研究所社会研究部門 入社
・2024年~:現職
・高千穂大学商学部(2018年度~)非常勤講師
・相模女子大学人間社会学部(2022年~)非常勤講師
所属学会
・日本マーケティング・サイエンス学会
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