【2017年】サブスクリプションモデル時代のマーケティング戦略

鈴木あゆみ (デジタルマーケティング・コンサルタント)

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先日、Zuora(ゾーラ)の創業者・CEOの方のTien Tzuo氏の記事を見つけました。ちなみにZuoraとは、SaaSアプリケーションを開発・提供しているソフトウェア会社で、サブスクリプションモデルのビジネスに最適化した商品を販売しています。最近はZuoraの事例に限らず、多くの業界において「製品ごとに販売を行う」従来の販売方法から、サブスクリプションモデルへの移行が見受けられます。宝飾店や服飾店によるレンタルサービスなども、これに当たります。

サブスクリプションモデルにおいては、従来の販売手法と異なり、顧客が商品を購入(契約)した後も顧客との関係性が続くことが特徴です。そのため、顧客とのリレーションシップ構築が上手くできれば、従来の販売手法よりも大きな収益性を見込めることがと特徴です。今回は、日本でも注目度の高まる「サブスクリプション」ビジネスにおけるマーケティング戦略について、考えてみたいと思います。

サブスクリプションモデルとは?

Search Cloud Computingの定義によると、サブスクリプションモデル(あるいはサブスクリプション型ビジネス)とは、個人・法人の商品購入に際し、契約期間に応じて支払いを行うビジネスモデルで、通常は月額制あるいは年額制での支払いとなります。

A subscription-based pricing model is a payment structure that allows a customer or organization to purchase or subscribe to a vendor’s IT services for a specific period of time for a set price. Subscribers typically commit to the services on a monthly or annual basis.

Tien Tzuo氏は、SalesforceやAmazon、Netflixに代表されるこのサブスクリプションモデルは、消費者に対してどのようにサービスを提供するかだけでなく、CRMの在り方をも変革したと指摘しています。サブスクリプションモデルにおいては、企業と顧客との関係性は商品購入の一回きりではありません。企業は顧客をsubscriber(=購読者)とみなし、長期的な関係構築に努めなくてはなりません。顧客はどのような人たちであり、どのようなコンテンツを閲覧し、どのような商品を購入するのか、またどのような商品を好むのか、そしてその他どのような属性をもつのか、など様々なことを理解する必要があります。

現在では、ソフトウェア会社のほか、書籍や音楽、メディアなどのエンターテインメントサービスから、TripAdvisorに代表されるコンシューマーサービス、AXAにみられるフィナンシャルサービス、ヘルスケア、Kaplanなどの教育関連サービスなど、様々な業界でサブスクリプションモデルが採用されており、企業はこのモデルを採用することにより継続的に収益を上げられるようになっています。

サブスクリプションモデル

サブスクリプションモデルにおけるマーケティング戦略

ハーバードビジネスレビューでのRobbie Kellman Baxter氏の主張によると、サブスクリプションモデルにおいてこそ、顧客とのリレーションシップ、つまりメンバーシップが重視されるといいます。例えば、Netflixは単に動画配信を行っているのではなく、一人ひとりのユーザーの嗜好を徹底的に理解し、ユーザーが求めるコンテンツを配信しています。自社製品よりも、まずはユーザーを愛することが必須であると同氏は主張します。月額課金制によって継続的な収益を上げることを目的としていたのでは、サブスクリプションモデルは上手くいきません。ユーザーと長期的な関係性を築くための第一歩が、サブスクリプションモデルの導入であることに過ぎないのです。

ここでは、サブスクリプションモデルにおけるマーケティング戦略として、(1)フリーミアムによる新規顧客獲得、(2)アップセルによる収益増加、そして(1)と(2)の結果、(3)解約率(Churn Rate)の減少を狙う方法についてご紹介します。

(1)フリーミアムによる新規顧客獲得

Robbie Kellman Baxter氏は、サブスクリプションモデルにおけるマーケティング戦略として、フリーミアムの実施を推奨しています。具体的な成功事例はDropboxやLinkedInで、無料でも一定のレベルまで使用することができ、サービスに価値を感じたユーザーに課金をさせるという仕組みです。Dropboxのサービスに価値を感じたユーザーは、使用容量を増加するために課金をしますし、LinkedInの提供するネットワークに価値を感じたリクルーターや求職者は、オプション機能に価値を感じて課金します。とはいえ、一度無料サービスとして定着してしまうと、有料課金制へのシフトが難しくなるケースもあるため注意が必要です。What’sAppなどは、無料サービスとして定着しすぎてしまい、有料課金制への転換に苦戦した事例です。

(2)アップセルによる収益増加

一方、アップセルによる収益増加施策も見逃せません。アップセルとは、既存顧客が当初購入を希望した製品よりも高いグレードの製品を販売する手法です。サブスクリプションモデルは、継続的に収益を見込めるビジネスモデルですが、アップセルを実施することで、収益増加幅を大きく上昇させることが可能になります。製品の価格を1%上昇させることにより、11%の収益増加が見込めるというデータすらあるほどです。また、Zuoraの公式ブログでは、アップセルによる既存顧客から見込める収益は、新規顧客からの同程度の収益と比較し、コストが24%に抑えられると述べられています。

アップセルの最たる成功事例はAppleです。Appleでは、iPhoneの出荷台数などはKPIにしておらず、ID獲得、そして個々のIDあたりの収益にフォーカスしています。毎年顧客に新しいiPhone購入してもらうより、Apple Musicなどの「アップグレード」の方がはるかに大きな収益性を見込めるためです。

サブスクリプションモデル                Source: chaotic-flow.com

(3)解約率(Churn Rate)の減少

サブスクリプションモデルにおいては、解約率(Churn Rate)についても考慮しなくてはなりません。特に、新規会員が短期間で契約解除を行う場合、収益性という観点では損失になる可能性もあります。そのため、フリーミアムによる新規顧客開拓施策、アップセルによる収益増加施策により、既存顧客の解約による損失をカバーできるよう事業計画を立てる必要があります。

サブスクリプションモデルにおけるコミュニケーション戦略

サブスクリプションモデルにおけるコミュニケーション戦略として、ユーザー一人ひとりを理解することは重要ですが、具体的にどのような工夫をすれば良いのでしょうか。Tien Tzuo氏は、目先の売上・収益に目を向けるのではなく、顧客一人ひとりのIDに紐づいた分析を行うことの重要性を指摘しています。こうしたユーザーとのコミュニケーションが上手いのはAppleで、彼らは個々のIDに対し、詳細の分析を行い、ユーザーのニーズに応じたアップグレード機能(有料)を提供しているとのことです。

国内でも最近は、One to Oneマーケティングやコミュニケーション戦略が重視されるようになりましたが、実際には社内リソースが十分に確保できず、分析や個々のユーザーに応じたコミュニケーションの実施には至らないケースも多々あるようです。SATORIでは、自社で構築したノウハウを生かし、小さなチームでも戦える仕組み作りを支援しています。毎週開催マーケティングオートメーションSATORI紹介セミナーでは、スタッフが少人数制セミナーでお話しさせていただきます。現在マーケティング施策の実施や運用に悩まれている方は、ぜひご活用ください。

 

<参考文献>
・Tien Tzuo, ‘How to Thrive in the Subscription Economy’, 2017. [Online]. Available: https://knowledge.insead.edu/blog/insead-blog/how-to-thrive-in-the-subscription-economy-6711 [Accessed: 7- Aug- 2017]
・ Definition from WhatIs.com, ‘What is subscription-based pricing model?’, 2017. [Online]. Available: http://searchcloudcomputing.techtarget.com/definition/subscription-based-pricing-model [Accessed: 7- Aug- 2017]
・Robbie Kellman Baxter, ‘Models Are Great for Some Businesses and Terrible for Others’, 2017. [Online]. Available: https://hbr.org/2016/07/subscription-business-models-are-great-for-some-businesses-and-terrible-for-others [Accessed: 7- Aug- 2017]
・John Solomon, ‘How to use Upselling in SaaS’, 2017. [Online]. Available: https://www.chargebee.com/blog/upselling-saas/ [Accessed: 7- Aug- 2017]
・Erika Malzberg, ‘SAAS GROWTH STRATEGY #2: BUILDING STRATEGIC UPSELL PATHS’, 2017. [Online]. Available: https://www.zuora.com/guides/saas-growth-strategy-2-building-strategic-upsell-paths/ [Accessed: 7- Aug- 2017]
・Kimberly A. Whitler, ‘Models Are Great for Some Businesses and Terrible for Others’, 2017. [Online]. Available: https://www.forbes.com/sites/kimberlywhitler/2016/01/17/a-new-business-trend-shifting-from-a-service-model-to-a-subscription-based-model/ [Accessed: 7- Aug- 2017]
・John Solomon, ‘Driving growth by managing customer churn’, 2017. [Online]. Available: https://www.chargebee.com/blog/driving-growth-managing-customer-churn/ [Accessed: 7- Aug- 2017]

 

PROFILE

鈴木あゆみ

デジタルマーケティング・コンサルタント


グリー株式会社、複数の外資系企業を経て、独立。海外企業におけるデジタルマーケティング施策の戦略立案を得意とし、日本市場へのローカライゼーションを幅広く手がける。スタートアップ企業のブランドマーケティングにも関心があり、デジタルマーケティング支援を広く行っている。慶應義塾大学法学部卒。
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