マーケティングオートメーションの課題と未来(2016年度版)-技術面での課題

植山 浩介 (SATORI株式会社 代表取締役)

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マーケティングテクノロジーフェア セミナー

本記事は、2016年2月の『マーケティングテクノロジーフェア』セミナー「B2Bマーケティング技術最前線~マーケティングオートメーションの限界とその解決策~」にて、当社代表取締役である私(植山)がお話しさせて頂いた内容を加工したものです。本記事は主に、マーケティングオートメーションの”技術面”での課題をテーマにしたものです。続編としてまして、2016年4月の『Web担当者Forum ミーティング 2016 春』セミナー「マーケティングオートメーション(MA)で失敗しない3つのコツとは?」にて、マーケティングオートメーションの”組織面”での課題を取り上げております。宜しければ合わせてご覧くださいませ。

マーケティングオートメーションにとっての2015年を振り返る


日本の「マーケティングオートメーション元年」は2014年とも2015年ともいわれています。いずれにしても、2014年にOracle社が「Oracle Cross-Channel Marketing(旧Eloqua)」の日本でのサービス提供を開始して以来、マーケティングオートメーション(以下、MA)を導入する企業の数は増加の一途を辿っているのは確かです。

マーケティングオートメーションの市場は拡大している

2013~2014年にかけては、MarketoやPardot、Hubspotといった海外の大手MAベンダーが続々と日本市場へ参入しましたが、2015年にはそれを受けて新進の国産MAツールの躍進も目立つようになりました。
2014年には168億円であったMAサービス市場の規模は、2015年には220億円にまで成長し、2016年以降も市場は拡大していくと予想されています。(図1参照)


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図1 出典:株式会社矢野経済研究所:DMP(データマネジメントプラットフォーム)サービス市場/MA(マーケティングオートメーション)サービス市場に関する調査結果 2015

DMP市場の動向

MAと並んで高い注目を集めているのが、DMP(Data Management Platform/データマネジメントプラットフォーム。以下、DMP)です。
DMPとは、その名のとおりデータを管理するための基盤となるツールで、社内外の様々なデータを一元管理し、分割・活用するために用いられるものです。社内CRM上の顧客情報、インターネット上におけるユーザーの活動履歴、他社サイトでの行動履歴といった様々な情報を統合・分析して、ユーザーの嗜好やニーズを推測したり、分析結果をもとにインターネット上への広告出稿を最適化したりといった形で用いられます。
昨今のトレンドとしては、前出のMAとDMPの連携により、マーケティングにおける集客からリードの育成までを一元管理するといった活用方法に、大きな注目が集まっています。

DMP市場もMAと並んで拡大基調にあり、2015年のサービス市場の規模は2014年の40億円から1.3倍の52億円となると見込まれています(前出図1参照)。また、2016年以降も市場は堅調に成長していくと予想されています。

まとめ

日本は長い間「マーケティング後進国」として欧米に遅れを取ってきましたが、消費者ニーズの多様化やコミュニケーション手段の複雑化を受けて、最近では企業の中にマーケティングに対する意識の高まりが見られるようになっています。
MA、DMP市場の成長の背景にも、そうした事情があると考えることができるでしょう。
このように、日本国内にマーケティング文化が根を下ろし、MAにも高い注目が集まっています。しかし、既にMAを導入した企業においては、運用上の様々な課題も明らかになってきています。
次項ではMAを導入する上での課題についてお話しします。

SATORIの考えるマーケティングオートメーションの課題とその解決策

上司を説得し、予算をかけて導入したMAから、思ったような効果が上がらない…導入を主導した担当者にとっては悪夢のような話ですが、昨今、このような話が後を絶ちません。
ツールが複雑で使いこなせなかった、そもそもMA導入以前にやるべきことが残されていた…など導入に躓く原因は様々です。ここではMA導入における課題について、SATORIの見解をお伝えします。

買い手主導×非対面コミュニケーションの時代が到来

MA導入における課題についてお話しする前に、「そもそも、なぜ今マーケティングオートメーションなのか」というところからお話ししましょう。
先にも少し触れたとおり、MAやDMPに注目が集まる背景には、消費者ニーズの多様化や、企業とリードのコミュニケーションスタイルの変化などが挙げられます。また、ビジネスを取り巻く世界におけるパラダイムシフトともいうべき大きな変化も、影響していると考えられます。

米国の調査によれば、BtoCでは81%の消費者が、買い物をする前にネットリサーチをしている[1]ということですが、BtoBではその傾向がさらに顕著となり、92%の企業が商品・サービス(特に技術的な製品)の購入前に、ネットで事前調査を行っている[2]といいます。

かつてBtoBの営業は「リードに会ってナンボ」の世界でしたが、営業が担当者に会うことは、昔に比べると非常に難しくなっています。昨今の企業担当者は多忙な中、時間を割いてベンダーの営業マンに会うより、インターネット上のコンテンツで情報収集をすることを好むようになってきているのです。
このトレンドは今後ますます加速していき、2020年までに購買者と企業とのコミュニケーションの85%は対面のやり取りなしで行われるようになると予測[3]されています。

[1]出展:GE Capital Retail Bank’s Second Annual Shopper Study, 2013.

[2]出展:B2B Tech Buyers, International Data Group, 2013

[3]出展:Gartner Predicts, Gartner Customer 360 Summit 2011

こうした市場の変化の中で、BtoB商材を販売する企業が早急に検討すべきこととして、二つ挙げることができるでしょう。
一つはコンテンツの整備です。
コミュニケーションの形が変わり、かつてのような企業からの一方通行による情報提供ではなく、顧客から「見つけてもらう」マーケティングが主流となってきている中で、ターゲット顧客の求める情報をコンテンツとして提供することは、企業の生命線ともいえる重要な活動となりつつあります。
コーポレートサイトはもとより、情報提供用のコンテンツサイトやカタログ、ECサイトといった自社のオウンドメディアを整備・拡充し、顧客がいつでも自社の情報を得られる体制を整えておかなくてはなりません。

そしてもう一つは、本記事の主題となりますが、非対面のコミュニケーション管理ツールとしてのMAツールの導入です。
オウンドメディアメディア、SNS、インターネット広告など、リードとの接点が複雑化していく中で、リードとの繋がりを保ち、関係性を強め、適切なタイミングで適切なアプローチを効率よく行わなければなりません。そのためには、収集したリードの管理から育客までを一気通貫で賄える、MAツールの導入が必要不可欠です。

とはいえ、MAを導入すればすべてが解決するわけではないことは、既に述べたとおりです。MAの導入にあたっては、自社の状況に応じて検討すべき課題がいくつかあります。ここから、改めてSATORIが考えている、2016年度に出てくるであろう課題を取り上げていきます。

1.集客面での課題

はじめに、集客に関する課題があります。
一般的にMAツールは、「自社が保有するユーザーデータに対して育成を行っていく」という前提で設計されています。BtoBの場合、展示会やWeb経由で集めたリードのリストを登録し、様々なマーケティングキャンペーンを通じてリードを育成します。
そして、最終的にふるいにかけた「案件化しやすい」リードリストを作り出すまでの支援がMAツールの役割です。

しかし、いざふたを開けてみると、「MAを導入してみたものの育成するほどのリードがなかった」というケースが少なからず起こります。
リードの育成は、多くの場合、獲得したリードリストに対してメールニュースなどを配信する形で行われるため、メールアドレス付きのリードリストがなければ、そもそもリードの育成以前の問題ということになってしまいます。

さてその解決策として、ここで考えていただきたいのは、展示会やWeb経由で問い合わせをしてきたユーザーだけがリードなのだろうか、ということです。
答えはNOで、実際には「展示会に足を運ばず、Webからの問い合わせも行わないが、商品やサービスを購入する可能性はある」というリードが、かなりのボリュームで存在します。
図2はBtoBのWebマーケティングにおけるマーケティングファネルとして、しばしば目にする図ですが、実際のマーケティングファネルは図3、図4のような形をしているのではないかと思われます。


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※図2

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※図3

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※図4

これからのWebマーケティングにおいては、こうした「名もなき訪問者」を視野に入れてマーケティングを設計していくことで解決につながるでしょう。
SATORIではそれをサポートするリードジェネレーションの機能を提供することで、導入企業様を支援しています。

2.育成面での課題

次に、見込み顧客育成に関する課題です。
スパムメールの横行により、メールを用いた施策の効果は下がりつつあるといわれていますが、それでも今なお、メールは有効なコミュニケーションツールとして、マーケティングの育客(リードナーチャリング)フェーズで広く活用されています。
MAツールもメールでのコミュニケーションを前提として設計されたものが多く、リードの行動履歴に応じて、その先の施策を切り替えるような機能を持つものが少なくありません。たとえば、会員登録済みのユーザーにはAのページを、未登録のユーザーにはBのページを見せる。過去に資料請求をしたことのある人にはCの記事を提案する、というようにリードへの提案をパーソナライズし、段階的にリードを育成していこうという考え方です。

これは確かにロジカルで効果の上がりそうな仕組みですが、ここにもいくつかの落とし穴があります。
まず、メールの開封やリンクのクリック、Webページの閲覧といったリードの行動が何を意味するのかがよく分からず、ツールを使いこなせないという問題があります。また、リードは日々大量のメールを受信するため、よほど関心を引くものでなければ、開封されずにゴミ箱行きとなることも少なくありません。加えて、特に大手企業においては頻繁に人事異動が起こるため、年平均25%程度のメールアドレスが「死んで」いってしまうともいわれています。

顧客は様々な情報源から影響を受けている

顧客は様々な情報源から影響を受ける

育成面の解決策としては、メールだけに依存せず、自社の課題に応じてシナリオを設計した上で、様々なコミュニケーションチャネルを駆使していく姿勢が求められます。
SATORIではメールのみならず、ウェブ広告、チャット、ポップアップ、プッシュ通知などを組み合わせることで、多様なコミュニケーションチャネルを確保するようにサポートしています。

3.商談化(スコアリング)での課題

三つめは商談化に関する課題。
前述のとおりMAの最終目的は、商談に繋がるよう、ふるいにかけたリストを営業部門に手渡すことにあります。この「ふるいにかける」という作業を行うために用いられているのが「スコアリング」という概念です。

スコアリングとは、文字どおりリードに対してスコア(点数)を付けて評価を行うことで、
「Aというページを見たら+1点、メール内のリンクをクリックしてくれたら+2点、資料請求があったら+5点、セミナーに参加してくれたら+10点、3か月以上アクションがなければ-10点」
というように行動に応じたスコアを付与し、点数が○○以上になったら「見込みのあるリード」として営業チームに引き渡します。

スコアリングの概念は非常に分かりやすく、かつ納得感のあるものですが、運用はいうほど簡単ではありません。スコア設計を誤ると、「すぐに1万点に到達してしまう」「規定スコアを超えているリードがさっぱり商談化しない」といった問題が起こり、期待した成果を上げることが難しくなってしまいます。

たとえば、MAにおけるスコアリングは企業の属性とリードの行動との二軸で考えるのがセオリーです。しかし、リードの行動のみで一元的にスコアリングしてしまうと、「競合調査のために舐めるようにページを見たユーザー」が、優良リードに分類されてしまう恐れがあります。

また、「どういうスコアなら商談化に繋がるか」について一般的な標準はなく、自社の状況にあわせて試行錯誤をしつつ調整していく他ありません。そもそも「優良なリード」に対して、営業の考えとマーケティング担当者の考えとの間に乖離があれば、スタート地点で既に間違ってしまう可能性もあるでしょう。

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商談化の課題を解決しMAツールを上手く運用に乗せるには、営業とマーケティングがタッグを組んで適切なバイヤージャーニーを明確化し、成果に繋がるスコアリングの方針を設計することが大切です。
ちなみにSATORIでは営業につながるタイミングとして「外部サイトで○○という競合製品を探している」などの単純なルールから始めてみることを推奨しています。

4.担当者の課題

最後に、MAツールそのものに関する課題ではありませんが、マーケティング担当者が意識しておくべきことについてお話ししておきます。

マーケティングとは、自社の製品やサービスを求めている人に、それをきちんと届けるための活動だということができます。マーケティング技術が進んだ今、何よりも重要なのは、自社と顧客に対する「想い」、そして「倫理観」ではないかとSATORIは考えています。

私たちSATORIはMAツールを提供するベンダーです。お客様から「MAツールの費用対効果は?」「事例は?」「競合はどうしている?」「今すぐ使えるデータは?」「効果の出る広告施策は?」など沢山の相談を受けて感じているのは、「技術が進めば進むほど、マーケッターのレベルが落ちている」ということです。
無論、ツールも事例も大事です。しかしマーケティングの正解は自社での取り組み、試行錯誤でしか発見できません。美味しそうな話だけを手当たりしだい探している方には、自社サービスでお客様を幸せにしたいという「想い」を感じません。また、結果が出る事例だけを求めて消耗品のように食い尽くしたり、闇雲に個人情報やパーソナルデータを利用したりする様子には「倫理観の低さ」を感じます。

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マーケティングの世界のデジタル化は、今後も留まることなく進んでいくでしょう。
MAツールなどによりあらゆるタスクが自動化され、マーケッターの仕事の大半がツールの運用になる時代がいずれ訪れるかもしれません。
しかし、だからこそマーケティング担当者には「自社の製品に対する想い、自社の製品で顧客を幸せにしたい」とい本質的な気持ちを持ち続けて欲しいと思うのです。

真に効果の上がるマーケティング活動は、自社製品と顧客に対する深い愛情から生まれます。また、ツールを通じて大量の個人情報に触れるマーケティング担当者にとって、データを正しく扱える倫理観は、なくてはならないものだといえるのではないでしょうか。

マーケティングオートメーションの未来

以上、2015年のMAサービス市場の動向とMAツール導入における課題と解決の方針についてお話ししました。最後に、2016年および今後のマーケティングオートメーションの動向について少し触れておきたいと思います。

冒頭でご紹介したとおり、MA・DMPとも市場規模は今後も成長期調で推移し、2020年にはMAが420億円、DMPは139億円にまで達すると予想されています。
昨今、様々な分野で急速にIoT化が進みつつあります。今後は自動車や家電といったIoTデバイスから収集されるデータやセンサーなどの、トラッキングデータもDMP内に蓄積され、ユーザーの行動分析に利用できるデータは、現在と比べ物にならないほどに増加していくでしょう。

これまではBtoB企業を中心に導入が行われてきたMAですが、DMPとの連携強化を背景に、2016年以降はBtoC領域においても積極的に導入が進むという予想もあります。その周辺から、誕生するであろう新しいサービスにも期待したいところです。

まとめ

既に述べたとおり、導入する上で様々な課題もあります。ですが、自社の状況を把握した上でそうした課題をクリアし、想いと倫理をもって適切に使いこなすことができれば、MAツールがビジネス成長のための強力な武器となることは間違いありません。

SATORIでは、マーケティングオートメーションやデジタルマーケティングに関する勉強会を定期的に開催していますので、ぜひお気軽にご参加ください。
皆様とともにマーケティングオートメーション業界の発展に寄与できればと願っております。

PROFILE

植山 浩介

SATORI株式会社 代表取締役

デジタルマーケティング業界にて20年に渡り、エンジニアリング・マーケティング・会社経営に従事する。その苦労から「製品を売ることはもちろんのこと、人材や会社を活かすためにも、経営者によるマーケティングへのコミットが重要である」ことを痛感し、「全ての組織にマーケティング活動を根付かせる」ことをビジョンとしたSATORIを設立。現在は「マーケティングオートメーションに関するセミナー」を担当しており、2016年6月時点でセミナー50回、計1000名以上の参加者を迎えている。
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MA活用例

SATORIとは