【対談】ファッション業界現場からみたマーケティングオートメーションの可能性

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大手アパレルでの接客経験などをもとに、ファッション業界におけるオムニチャネル化という潮流の先陣を切るかたちで、社内IT化を推進した実績を持つ 高野 一朗さん。2015年にフリーランスとなり、現在はファッション分野を中心に、店舗スタッフとCRMの相乗効果を高める視点で、営業企画やコンサルティングを行っています。オムニチャネル化によってどんなことが実現できたのか、課題やMAの活用アイデアなども含めて語っていただきました。(聴き手:SATORI株式会社 代表取締役 植山 浩介、クラウドソリューション事業部 マーケティングコンサルタント 吉岡 裕文)

対談参加メンバー

  • フリーランス
    Opportunity Creator
    高野一朗
  • SATORI株式会社
    Co-Founder 代表取締役
    植山浩介
  • SATORI株式会社
    クラウドソリューション事業部
    マーケティングコンサルタント
    経済産業省認定 中小企業診断士
    ITコーディネーター
    吉岡裕文

はじめは店舗の現場スタッフの課題を解決するために取り組んだ

植山

高野さんは独立される前、感度の高いセレクトショップを多数展開する某アパレルメーカーに所属されていました。面白いなと思ったのは、現場経験者の視点から社内IT化を実現していったということです。どうしてやろうと思ったのか、経緯を教えてください。

高野

アパレルメーカーには、昨年まで17年間勤めていました。最初は渋谷にあるアウトレット店のアルバイトスタッフとして入り、接客やディストリビューターをやった後、社の旗艦的なセレクトショップに移って、本社で仕入れ品や自社企画品のMDなどを経験しました。

その後、本部でEC事業の責任者を任されることになったのが、今から10年ほど前のことです。売上的な貢献度はまだまだでしたが、それでも僕は、ウェブではお客さんがどういう経路で来店して、どこで何を見てから購入したのか、全部データで分かることがすごいなと感じました。しばらくやるうちに、こうしたデータを店舗スタッフにも伝える仕組みがあったらいいなと思い始めたのです。

というのも、僕にはコンプレックスがあって、店に立っていたときにお客さんの顔と名前がちっとも覚えられなかったんですね。既存のお客さんなのか新規のお客さんなのかが分かれば上手く応対できるのに、分からないからお声がけすることさえ戸惑ってしまうような感じでした。お洒落なセレクトショップの店員が、皆カリスマ店員かというとそうでもなくて、コミュニケーションスキルには個人差があります。それで本社に移ってからも、そうしたところを解決できないかな、何かいい方法がないかなと、ずっと思ってきました。

植山

店舗スタッフのコミュニケーション課題を解決するために、店舗とEC事業をつなげて見える化をしたい、というところがスタートだったわけですね。

高野

目指したのは今でいうオムニチャネル化のような感じですね。店で買い物したお客さんがスマホからサイトを見たり買ったりしているのを、店舗スタッフにも見えるようにしたら現場で役に立つだろうと。それで着目したのが、店舗会員向けのポイントカードでした。

98_4_4当時は、グループ全体で27ブランドを展開していて、データ上では約70万人の会員を保有していました。情報は本社で手入力していましたが、一番の問題は、ブランドごとにポイント管理していたことです。複数のブランドで買い物をしたお客さんの情報が複数の会員コードに分かれてしまっていたので、オムニチャネル化の前に、まず会員サービスを統合し、IT化する必要があったのです。

それでCRMを勉強しながらプロジェクトを社内提案して、最終的には、顧客ごとに一枚のポイントカードにまとめる仕組みを作りました。2012年の春から約300店舗でポイントカードを統合するサービスを開始して、その年の夏には自社ECともポイント連携できるようにしたのですが、結局、提案してから7年もかかりました。その間、何度も壁にぶつかりましたが、おかげで大切な知見が得られたと思っています。

27ブランドに及ぶ顧客データ統合。その障壁とは

高野

ポイントカードを統合するシステムの構築は、取引先のポスレジスターの開発会社にお願いしましたが、そこに吉岡さん(現在はSATORI株式会社)が在籍されていたのです。一緒に検討を重ね、店舗で新しいカードを1回スッと通した後に、お客さんに持って来てもらった古いカードをスッスッスッと通せば、過去の購買履歴が新しいカードに入る仕組みを作ってもらいました。

でも運用を始めてみると、いろいろな課題が出てきました。たとえば、奥さんが自分のポイントカードで旦那さんのスーツを買っていたので、その情報は分けたいとか、古いカードの保有枚数は一人平均4枚前後だから最大8枚を想定してシステムを作ったら、10枚持っていくる人がいて統合できなかったとか。たとえ本社とシステム会社とで、対応できない取り決めがあっても、店舗スタッフがお客様から受けてしまったらやるしかない、という感じでしたね。システムを作った後のことなので、契約外と分かっていてもエンジニアに直接電話して無理にお願いしたり、追加で見積もりを取ったりの連続でした。最後の1〜2年は、吉岡さんの会社とも結構ドロドロのやり取りをしましたよね(笑)。

吉岡

そうですね、予想していなかった問題が数多く出てきました。30近くあるブランドの顧客情報を一つにまとめるなんて、理論は分かっていてもまだ誰もやったことがなかったから、仕方なかった部分もあったと思います。

高野さんと知り合ったのは5年ほど前になりますが、私は当時、百貨店や専門店、スーパーなどの流通業のシステムインフラを支える仕事をしていました。その時代を振り返ってみると、多くの企業が、顧客管理をグループ全体ではなくて、会社別やブランド別に行っていました。なかでもアパレルというビジネスモデルは、ブランド単位の独立採算制を推進して伸びてきた文化があったので、これからやっとグループ全体でお客様を見ようという風に変わっていくのかなという時期だったのです。そのなかにあって、高野さんのいたアパレルメーカーは新しい視点で取り組むのが非常に早かった。だからこそ、あのときのイレギュラーが起きたわけですが、大変でしたね。98_4_5

高野

さらに大変だったのは、ポイントカードの統合と同時期に、ウェブでポイントカードを登録できるサービスを始めたときです。

店舗スタッフによるリアルなコミュニケーションが欠かせない理由

高野

初めの3ヶ月間、とにかく電話が鳴りっぱなしで、店舗スタッフから「お客さんが登録できないといって困っています。」といった問合せが1日に何十件もありました。どうしてそんなことが起きたかというと、ウェブでの登録方法を知っているのは僕らとお客さんだけで、店舗スタッフには十分な説明をしていなかったことが原因でした。

本社にいるスタッフやエンジニアは、「お客さんだったらどういう風にポイントカードを登録したいかな」「そのためにどんなインフラが必要かな」とは考えたのですが、店舗スタッフのオペレーションについては十分に考えていなかったのです。電話がかかってくる度に「すいません、すいません」と、平謝りでした。

植山

ウェブで登録完了する仕組みだから、運用フローを考えたときに、店のスタッフは除外してしまったのですね。

高野

本来は、一人のお客さんがスマホも見てお店にも行って、ということをふまえてオムニチャネル化しようとしていたのだから、リアルなコミュニケーションのところから発想しないといけなかったのです。でも本社でデスクワークしている人間だけで考えていたから、そういう発想が出づらくなって現場との乖離が起きてしまった。本末転倒ですよね。

しかし電話が鳴り響いた3ヶ月の間、店からの問合せに対応するうちに解決策も見えてきました。もっと現場の人たちの話を聴いて、積極的にプロジェクトチームにも加えたほうがよ良いという、答えにたどり着いたのです。

店舗スタッフが日々行っているリアルなコミュニケーションは、良い意味でとても濃密です。手段としては、ポイントカードの情報を使って電話をしたりDMを送ったりすることが基本となりますが、決まった仕組みがない部分は個人の判断で対応をしています。新入荷のお知らせなどをメールで受け取りたくないお客さんも多いので、個別に手紙を書いたり、スペシャルなお客さんにはバイヤーの買い付けのタイミングまで伝えていたりすることもあります。今の時代だと、スマホのLINEアプリのようにリアルタイムでつながることができるツールが、効果を発揮することもあるのではないでしょうか。

そうした現場から発想した工夫のうち、どこの店でもやっているようなオペレーションは、どうやったらデジタルな仕組みにのせることができるのか、ちゃんと考えていくことが重要だと思います。

植山

でも難しそうですね。個々の接客スキルをデジタルな仕組みにのせるというのは。

高野

そうですね。例としてメールマーケティングなども、ステップメールの内容を本社の人間が考えるとリアルさが足りないことがあるので、もっと店頭のコミュニケーションを活かせたらと思っていました。でもスタッフは目の前のお客さんと会話しながら、今すぐに必要な提案をしていくことが多いこともあって、難しかったです。

ただ、いいこともあって、店舗スタッフに、ポイントカードは単なるカードではなくて、お客さんとコミュニケーションを取れるツールになり得るものだということを理解してもらうとえたことで、店舗スタッフ側から「SNSで交流できる仕組みを入れることはできますか?」といった要望も出てくるようになりました。

吉岡

7年間の苦労の末にブランドの顧客情報がくっついて、新たにお客様軸で分析ができるようになりましたよね。グループ全体の売上に対して、どんな嗜好や趣味のお客様が、どんな風に買い物しているのかまで見えるようになったわけですが、その効果はいかがでしたか?

仮説が確信に変わる

高野

今までブランド単位や店舗単位でしか分からなかったことが、グループ全体で横断的に見えるようになると、経営層も、今後の戦略的なマーケティング施策に結びつけることができそうだねという認識でした。本当のお客さんの数とか属性とか、全会員のなかでコアな人がどれだけいるかが分かるようになったことは大きな興味をひきました。

すると社内で、いろいろなことがスピード感を持って進められるようになりましたね。初めにプロジェクトの提案を通すときは2年かかりましたが、その後に、ECの顧客も売上のデータも入れようとなったときは半年でOKが出ました。

EC事業と既存店の関係でいうと、ECを伸ばすことによって店舗の売上が下がるといったことも起きるのですが、それも会員情報を統合してみて初めて、データ上で関連性が見えるようになったことが大きかったです。

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また、購買履歴が分かるとお客さんのクローゼットの中身もある程度分かるようになります。それを分析してメール配信の内容に活かすことも検討しました。過去のデータがあると、すでに買われたシャツにこのパンツを合わせませんかとか、靴や洋服のケア方法とかの情報をきちんと出すといったアプローチは格段にしやすくなると思います。

個人的には、データを溜めていく強みというのは、「見えなかったものが可視化できること」と、「データを振り返って確信すること」だと考えています。データを分析したときに、お客さんが“ブランドのここが好きだ”ということが分かったり、以前ヒットした商品から“自社の強みを知る”ことができたりする。それが企業やブランディングの戦略に生きてくる、ということだと思います。

高野

ところで…吉岡さんは、どうしてSATORIさんに入られたのですか?

マーケティングオートメーションで誰もがカリスマ店員に?

吉岡

私は、ITをバックグラウンドとして、企業のインフラ側をどう最適化していくかをずっと考えてきた人間です。数年前にポスレジの会社からデータベースを扱う会社へと移り、外資系MAツールの立ち上げに携わってきました。データベースというのは、少し前はブランド別に管理していたものを一つにまとめるものだったけれど、今はリアルなデータとデジタルなデータも全て混ぜたものが構築できるようになってきています。

現在はお客様の購買履歴以外、さらには自社外のデータも取得・統合できるようになり、そこをカバーできることが恐らくMAの本質です。MAはこれからのビジネスをすごく発展させる可能性があって、それがSATORIにはできると確信したわけです。

今のMAを使えば、論理上は、ファッションに関わる人間が、お客様の買いたいものを事前に予測することさえできるという仮説がたちます。そこで高野さんに伺いたいのですが、こうしたデータやMAの本質的なところを、お店でどのように活かしていったらいいと考えますか?

高野

CRMのゴールデンルートを考えたら、過去の購買データを溜めたMAからデジタルなマーケティング施策を打つという風になるのかもしれませんが、僕はそれよりも、MAを使って分かった情報を現場にいるスタッフに伝えて、そこからお客さんに案内してもらうほうがいいのかなと考えています。そのほうが、お客さんに対してコミュニケーションが一方的にならないし、長期的に見るとブランドの信用を無くすリスクも少ないだろうというのが、僕の結論ですね。

店舗にいると、突拍子もないことが起きるんですよ。急に「今朝の東京マラソン見て、私も走りたくなっちゃったわ」なんてお客さんが来て、スポーツウェアをご案内する、といったようなことが。それに、リアルに店に来るお客さんは、スタッフと接するなかで気持ちを汲んでもらえることに少なからず期待があると思います。98_4_7
僕は、カスタマージャーニーという言葉がすごく好きです。対面して商品をおすすめするというよりも、横について「一緒に見つけましょう」という感じがするからです。店舗スタッフは皆、ブランドのファンでありキュレーターですし、お客さんに寄り添うという発想を少なからず持っています。そんな彼らがMAの情報を使うことで、より適切なタイミングでお客さんに提案できたり、店舗オペレーションやヴィジュアルプレゼンテーションに活かせたりすると、よりよいカスタマージャーニーの実現につながっていくのではないでしょうか。
これって、本当のオムニチャネル時代のMAの使い方になるんじゃないかな、と思うくらいです。

植山

MAはマーケティング活動を自動化するものだから、一般的には営業マンが必要なくなるという考え方になるけれど、高野さんは違いますね。ウェブとお客様との One to One の他にもう一つレイヤーがあって、そこにいるスタッフを通して提案も解決もしていくという考え方。それなら、カリスマじゃない店員も、MAのサポートでカリスマになれるかもしれない。

高野

そうですね! スキルが足りない、得意じゃないところはMAの情報でサポートしていく、そういうテクノロジーの使い方がいいですね。
僕は現在、複数の会社のCRMコンサルティングを担当していて、店舗のスタッフとも頻繁に接するのですが、社外の立場だといろいろな話を聞き出すことができるんですね。店のスタッフは成長する機会を求めているけれど、指導の仕方によってはモチベーションを下げてしまうので、MAを上手く使って体系的な仕組みを作ったらモチベーションアップをはかることもできそうです。

それともう一つ、MAの良さは、マーケティング施策を本番環境でいろいろ試せることです。とくに最近のMAや、SATORIなんかも初期費用を抑えることができるから、短期間に費用対効果が出せるところが強みだし、途中でエラーになってもまた試すことができます。そこで今、クライアントに提案をしようと考えているのが、まずはEC事業部で集客・育成のためのソリューションとして導入後に費用対効果を生んでから、そこに乗っかるかたちでCRMや店舗運営の人たちにも少し使ってもらうという方法です。

また、ファッション業界自体は縮小均衡というか出尽くしてしまった感があって、海外に進出するか、飲食や家具などのライフスタイル提案に広げていくかの二極になっています。そこで、MAでお客さんの趣味嗜好を拾って、たとえば「この洋服が好きなら、こういうところでご飯を食べるのはどうですか」といった使い方ができる。ワールドワイドな話では、リアルショップを海外出店するのはものすごく大変だから、その前に、越境ECとしてMAを使いながら、海外の消費者やインバウンドの観光客にアプローチするのはどうだろうとか。まずはやってみたほうが、大きな決断をするための情報になるとも思います。

植山

これから高野さんがやっていこうとしているところは、我々SATORIも自社開発の強みを活かしながらサポートできればと思います。

本日はお忙しい中、ありがとうございました。

対談参加メンバーのプロフィール

  • フリーランス
    Opportunity Creator
    高野一朗

    大手アパレルを経てフリーに。ファッション関連企業のCRM・店舗運営・EC等のコンサルタントを現場視点で手掛けている。

  • SATORI株式会社
    Co-Founder 代表取締役
    植山浩介

    デジタルマーケティング業界にて20年に渡り、エンジニアリング・マーケティング・会社経営に従事。2015年9月より 「全ての組織にマーケティング活動を根付かせる」ことをビジョンとしたSATORIを設立。代表取締役としてマーケティング業務を担当している。

  • SATORI株式会社
    クラウドソリューション事業部
    マーケティングコンサルタント
    経済産業省認定 中小企業診断士
    ITコーディネーター
    吉岡裕文

    SATORI株式会社マーケティングコンサルタント。外資系ベンダーにおける経験も豊富なMA導入のスペシャリスト。

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